ぬいぬいマツバさん!


「マツバさん、こちらをご覧になってください」

そう言いながら僕の目の前に差し出されたのは、一体のぬいぐるみだった。

「今度コガネ百貨店でジョウトジムリーダーの皆さんのぬいぐるみを作ろう、という案が出ましてね。その試作品を頂きました」
「……え、何その話。僕初見なんだけど」
「あら、じゃあまだジムリーダーの方々には伝わってないお話なのですね。私はてっきり皆さんの許可を得ていると思っていたのですが……それにしてもこのぬいぐるみのマツバさん、とても可愛いですね」

そう言いながら彼女は僕がモデルとなったぬいぐるみを抱き締めた。その時点でぬいぐるみの僕がなんだか得意げな顔をしたような気がしてしまい思わずムッとしてしまった。

「……僕だって可愛いよ?」
「このぬいぐるみ……マツバさんだけ、一部にひんやり素材を使っているから冷たくて気持ち良いんですよ」
「僕も夏でも手が冷たいよ?それに滝行の終わりの際には身体も冷たくなってるから触れたら涼しいと思うよ?納涼のマツバだよ?」
「冷蔵庫で冷やしておけば夏も一緒に過ごしやすいんですよ」
「ねぇ、聞いてる?僕も色んな意味で涼しい男だよ?」
「聞いてますけど、ぬいぐるみのマツバさんと本物のマツバさんを比べる事なんて出来ませんよ。……とりあえずぬるくなってきたから冷やして置こうかな」

そう言いながら彼女が冷蔵庫に僕のぬいぐるみをしまう際、ぬいぐるみが一瞬だけ寂しそうな表情を見せたのを僕は見逃さなかった。あのぬいぐるみ……完璧に宿ってるな、命。
僕は自分で言うのもなんだが、彼女の事に関しては大層嫉妬深くなってしまうのだ。その対象は老若男女問わず、例えぬいぐるみのような無機質なものにだって当てはまる。
だから、正直……突然現れた僕をモデルとしたぬいぐるみを彼女が可愛がっている姿ですら僕にとっては大変面白くない光景であるのだった。
彼女の興味も愛でる対象も全ては僕だけで良いとすら思っている。まぁ、これだけ強い感情を抱いているが残念な事に彼女と僕はまだ幼馴染という関係でしか無くて……所謂恋人同士ではまだ無いのだ。いや、いずれは彼女は僕の恋人になる子ではあるのだけは間違いないけど、まだまだその関係までは近くて、遠い。

「冷蔵庫でキンキンに冷やしておいて、一緒に寝る予定ですな」
「……僕のぬいぐるみと寝るよりも、僕本人と寝た方が良くない?」
「やだなぁ、マツバさんたら先程からご冗談ばかり仰って。マツバさんと共に寝るのはゲンガー達じゃないですか」
「……そのぬいぐるみよりも、ゴーストタイプと一緒に寝た方が涼しいよ?」
「あ、このぬいぐるみのマツバさんもゴーストタイプみたいなものなので」
「……え?」
「この子、試作品として作った時は倉庫に保管して置いたのに……いつの間に私のロッカーや鞄の中に入ってる事が多々ありまして、それで貰い受けて来た訳です。ちなみに他のジムリーダーの方々のぬいぐるみは一切そういう事はありませんでした」
「なにそれ……どう考えても心霊現象じゃない?怖くないの?」
「マツバさんがモデルだし、全然怖くないですよ」

彼女はあっけらかんとそう言ってのけたが……どう考えても宿ってるな、魂が。しかも僕がモデルだからか、彼女の事を好ましく思っている面まで似てしまったのだろう。あぁ、そう考えると何とも妬ましくて仕方がない。やはり腕の中に抱き締められていた時に見せていた得意げな顔は、ぬいぐるみの意思があってのものなのだろうと察する。

何処までも僕に似たのか、どうやら随分と嫉妬深いぬいぐるみのようだ。僕という本人の存在よりも、自分の方が愛されて当然だという表情を思い出しては何とも腹立たしくて仕方がなくなってしまう。

これ以上……彼女の傍にアレを置いておくのはどう考えても悪影響だ。僕はそんな思いから彼女の確認を取らずに冷蔵庫を開けて冷やされていたぬいぐるみを鷲掴みにする。

「わ、マツバさん?!私のひんやりマツバさんに何をするんですか?!」
「……話を聞いてた限り、このぬいぐるみは君に悪影響を与えると僕は思ったんだ。だからこれは君の傍に置いておくのは良くないよ。僕が責任を持って処分しておくね」
「そんな……可哀想ですよ。せめて処分せずにマツバさんのお家で可愛がって貰えないですかね……?私、たまに会いに行きますから……」
「まぁ……考えておこう」

鷲掴みにされたぬいぐるみは、先程まで彼女の腕の中でうっとりとした表情を浮かべていたのに、僕に掴まれた途端「いやいや」と言うように、微かに手足をじたばたとさせて抵抗の意志を見せつける。どう考えても魂の宿った呪物だ。尚更彼女の傍に置いておく訳にはいかない。とりあえず家に持ち帰ったらなんか深い闇の暗所に縛り付けて封印しておこうと思う。だってこれ、放っておいたら勝手に彼女の元に戻ってきそうだしね。

「正直に言うと、僕はこの案件には反対だな」
「……そうですか、やはりグッズ化する際にはご本人の意志あってのものですからね。明日、責任者にマツバさんの意志を私が責任もって伝えておきますね」
「うん、そうして貰うと助かるな」
「他の方々も反対なのでしょうか、ご自身のぬいぐるみ化……」
「さぁ?それは分からないけど」

……君に言い寄ろうとしてきた男達を今まで人知れず……排除というか、淡い期待をさせないように粉々にその思いを粉砕して来たからね。これ以上ライバルが増えるのはゴメンだよ。

例え、僕自身がモデルであってもね。

そんな事を思いながらも、ぬいぐるみの処遇をどうするか、彼女には悟られぬように考える自分がいるのであった。

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