睡魔
「……何、これ……」
ここ最近、睡眠の質が低下しているのか目覚めが良くない。
眠りに落ちる際の前後の記憶もあやふやで、いつ寝たのかはっきり覚えてないし、身体を休めている筈なのにどうにも身体が異常と思える程に気怠くて仕方がなかった。そんな朝を今日も迎えたが、身支度をしている最中ふと目に入った手首に違和感を覚える。
「昨日までは無かったのに……、虫刺されかな?」
私の目に映るのは白い手首にくっきりと浮かび上がる赤い痕。
昨日の朝にはこんなもの無かったのに……と思いながら思わず指でその赤い部分を触れてみるも、痛みは無い。
口にした通り、虫に刺されたのかとも思ったが……どうにも違うように思える。触った限り痛みも腫れも感じない。一体なんなんだろう……この痕は。そう思いながらも、とりあえず目立ってしまわぬように絆創膏でそれを隠して私は出勤の身支度を進めるのだった。
◇
「やぁ。今日もお疲れ様」
コガネ百貨店での慌ただしい勤務を本日も終えて、退勤した私の事を今日も従業員出口の前で彼は待っていた。
「マツバさんこそ、お疲れ様です」
私を待つその人は、エンジュシティのジムリーダーであり千里眼を持つ修験者として名高いマツバさんであった。彼と私は共通の友人のミナキさんを通して知り合った仲で、その付き合いは決して浅いものではないと断言出来るくらいには、マツバさんと私は良好な関係を築いていると思う。コガネ百貨店で働く私の帰りを今日もまた彼はわざわざ迎えに来てくれたのだった。私の家はコガネシティなので、徒歩圏内なのだがそれでも「夜道の一人歩きは危ないからね」と気を遣って下さるマツバさんはとても優しい人だなと常々思っている。
「マツバさん、いつも家まで送って下さりありがとうございます。……でも無理に私に時間を割かなくても大丈夫ですからね?」
「何度も言ってるじゃないか。いくら歩いて帰れるとはいえ、夜道は何が起きるか分からないしね。……それに君に会えるのなら喜んで時間を作るよ」
そう言いながら隣を歩くマツバさんは穏やかに目を細めた。
月明かりに照らされた彼は、なんだかいつもより何処か浮世離れしているような、そんな儚ささえ感じてしまった。
相変わらず優しい人だな、そう思いながら何気ない話をしながら帰路を歩いていると、ふとマツバさんが私の方を見つめながら口を開いた。
「……手首、どうしたの?」
「えっ」
「いや、絆創膏貼ってるから……怪我でもしたのかなと思って……」
マツバさんの視線は、私の手首に向けられていた。
相変わらずこの人は些細な変化に気付くなと思いつつ、私は彼に言葉を返していく。
「いや……恐らく虫刺されかなと思うんですけど、何だか赤くなってて。目立つので絆創膏で隠しているんですよ」
「……ふぅん。そうなんだ。痛みとかはあるの?」
「それが全く無いんですよ。そう言えば痒みもありませんし、私は一体どんな虫に刺されちゃったんでしょうね?」
「……何なんだろうね」
「手首の痕も気になるのですが、最近なんだか睡眠の質が下がっているのか……寝ても何だか身体が怠いんですよね」
「そうなんだ、それは気になるね」
「疲れが溜まって来ているのでしょうか。今晩はゆっくり休めると良いなぁ」
手首の話から何となく最近の目覚めの悪さの話を話題に上げてみた。するとマツバさんは軽く微笑みながら「なんだろうね」と一言呟く。
……眩い月明かりに照らされている筈なのに、何故だかその瞬間のマツバさんの瞳が暗く濁ったように見えたのは、私の気の所為なのだろうか。
「……寝付きが悪い、ね。僕のゲンガーにさいみんじゅつでも掛けて貰う?」
「うーん、その手もありかも知れませんね。でもゆめくいされたら困るかも」
「あはは、僕の手持ちは君の事が好きだから、さいみんじゅつはしてもそんな攻撃するような悪戯はしないよ」
「そもそも、人間相手にもポケモンのさいみんじゅつの効果って発揮されるんですか?」
「されるよ。むしろ人間の方が効果が出やすくて、一度眠ったら中々起きないみたいだよ。……寝てるその間に、何かされてもね」
「へー、そうなんですか」
人間相手にポケモンのさいみんじゅつを掛けられたら、そうなっちゃうんだ。それは知らなかったな。今日もまた一つ知識が増えたなー、なんて思っていたらもう私の家に到着していた。
「あ、もう着いてましたね。マツバさん、今日もありがとうございました。おやすみなさい」
「……うん、おやすみ。良い夢を」
そう言いながらマツバさんに軽く手を振り、彼と別れる。
去り際までも、彼はずっと微笑んでいたけど何故だかいつも見慣れている筈のその笑みが、今宵はやけに影があるように感じたのも、月明かりの錯覚なのだろうか。
◇
帰宅して、軽く夕飯を食べてからゆっくりとお風呂に浸かっては、一日の疲れを癒す。髪の毛を乾かしたりスキンケアをしていたらあっという間にもうそろそろベッドに入る時間になっていた。今日こそは、質の良い睡眠が取れるかな。そう思いながらベッドに入ろうとした矢先、コンコンと窓を小さく叩く音が微かに聞こえてくる。なんだろうと思いながら窓の近くまで行くと、暗闇の中から突然一体のポケモンが窓越しに姿を現した。
「……え、君はマツバさんの所の……ゲンガーだよね?」
闇に紛れて姿を現した一体のポケモン、それは私にも見慣れた子であった。このゲンガーは間違いなくマツバさんの手持ちである。こんな夜更けにどうしたんだろう。とりあえず窓を開けて欲しそうにしているので、私は躊躇いなく窓を開けてゲンガーに向き直る。
「……どうしたの?こんな時間に……君は一人なの?マツバさんもいるの?」
私がゲンガーに尋ねても、彼はいつもの笑顔を浮かべるのみ。
とりあえず中に招き入れようとした瞬間、私より先に眠りについていたボールの中の手持ちのポケモン達が目を覚ましたのか、激しく暴れるようにボールを揺さぶった。
「え、みんな?起きたの?……なんか怒ってるけど……みんなもどうしたの?」
「……ゲンガー、さいみんじゅつ」
私が手持ちに気を取られてゲンガーから目を離した瞬間、どこからともなく聞き慣れた声が暗闇の中で響いた。その声の主は数時間前まで、私と共にいた人物で間違いない。
マツバさん、とその名前を口にしようとしたが睡魔の訪れには間に合わず私の意識はそこでぷっつりと途切れてしまった。
◇
けたたましく鳴るアラーム音で私はようやく目を覚ました。
ぼんやりとした意識の中で未だ思考がはっきりしないながらも、昨晩の意識を失うまでの出来事を朧気ながら思い出していく。確かに、昨晩……我が家にマツバさんはゲンガーと共に訪れていた。一体、あんな時間に何用だったのだろうか。
少しずつ覚醒していく意識の中で細かい部分までの記憶を辿っていきながら、ふと鏡に目を映した途端小さな悲鳴と共に私は目を見開いた。
「なんなの……!なにこれ……!?」
鏡に映った自身の首筋に、点々と咲く赤い痕。それは手首のものとよく似ているというか、もはや同じものでは無かろうか。
私は困惑しながらも、恐る恐る衣服をはだけさせて全身を確認みると、その赤い痕は手首や首筋で留まる事は無く胸元や肩、そして太腿など全身に至る所にくっきりと浮かび上がっていた。
異常なまでの痕の残り具合に、私の全身に悪寒が走っていく。
これは虫刺されなんかじゃない……!
……じゃあ、一体何なんだ。混乱のあまり困惑する脳内と、煩く騒ぎ出す心臓の音が不協和音を生み出して耳鳴りを生み出していく。
……考えたくない……こんな事考えたくないけど……。 この痕はもしかして人工的に付けられたものなのではないか。
……そして、そんな事を仕出かした犯人は……。
ここまで考えて、強い吐き気と目眩が私を襲い始める。
どう考えても答えが出ているのに、身体と心がそれを受け付けようとしない。いつの間にかガチガチと歯を鳴らして震えていた私の耳に、ピンポーンと無機質なチャイムの音が聞こえた。
こんな朝から我が家を訪ねる人など早々居ない。……それこそ、今私の脳内に浮かぶあの人ぐらいだろう。
今こんな状態で彼と顔を合わせたくない。
……でも、きっと私が出てくるまでチャイムは鳴り止まないだろう。何とか衣服を整え、私は変わらず気怠い身体を引き摺りながら、玄関にへと向かった。普段なら軽い筈の家のドアが今は鉄の塊のように重く感じられる。そんな満身創痍の私がゆっくりと、ドアを開くとそこにはやはり想像通りの人物が立っているのだった。
「……マツバさん……」
「やぁ、おはよう」
何とか振り絞った声は微かに震えていた。しかしそんな私の様子なんてまるで気にしてないように、いつも通りにマツバさんは笑みを浮かべている。
「昨日は良く眠れたかな?と思ってね。朝だけど会いに来ちゃった。……君も今日休みでしょ?立ち話もなんだから中に入れてよ」
「…………」
笑顔のマツバさんに、私は言葉が出てこなかった。
とりあえず言葉の通り彼を招き入れたものの、私はこれから酷な現実と向き合わなければならないかと思うと、終始身体が凍えているかのように、寒くて仕方がない。
「……とりあえず、座ってください」
私の言葉にマツバさんは遠慮なくソファーにへと腰掛ける。対して私は彼の正面に向き直るように、座った。
「あれ、せっかく隣が空いてるのにわざわざそこに座るの?こっちにおいでよ」
「…………」
「どうしたの?随分と緊張しているような様子だけど……いつもの君らしく無いね」
本来なら私だってマツバさんのように穏やかな笑みを浮かべたかった。だけど、今はそれどころじゃない。本来ならこの場から逃げ出したい。何も考えたくない。だけど……ここまで追い詰められたら逃げる退路を失ったも同然なのだ。未だに平然としているマツバさんに対して私は震える声を振り絞って、言葉を吐き出すように告げた。
「……そんな白々しい態度も……いい加減にして下さい……」
私の言葉を聞いた途端、マツバさんは先程までの柔らかな笑みから真顔にへと表情を変えた。その瞬間、私は確信に至る。
……この人が、私に何かを仕出かしていた事に。
そんなマツバさんに私は堰を切ったように、言葉が色々な感情と共に溢れ出していく。
「……マツバさんなんでしょう?……この痕を付けたのは……」
「…………」
「……なんで……どうして……!?……一体に私に……何をしたんですか……!?マツバさん!」
マツバさんは私の問い詰めるような言葉に表情すら変えずに、黙り込んでいた。私はそれを無言の肯定だと受け取り、色々な感情が心の中でぐちゃぐちゃに混ざっては痛みと共に黒く滲んでいく。なんで?どうして?私達は……私とマツバさんは仲の良い友人関係じゃ無かったのか?じゃあ今まで共に築き上げてきた二人の絆は、全部嘘偽りだったのか?なんで……なんで!?
様々な思いに支配された私の瞳には薄らと涙が滲んでいた。
そんな私を黙って見つめていたマツバさんが、やっと口を動かしたかと思えば、たった一言呟いた。
「……ようやく、気付いたか」
そう言い放ち、彼は緩やかに口元に弧を描くも、その瞳は妖しい光を宿しながら私をその紫の瞳に重なるように映していく。
その爛々とした眼差しに、私は恐怖にも似た感情を抱いてしまった。ぶるぶると震える身体を自分で抱き締めながら、その場に固まる私に向かってマツバさんは言葉を続けていく。
「まぁ、流石に……鈍い君でも気付くよねぇ?。……あ、僕が君に何をしたかって聞いてたけど……言わなくても君だって自ずと分かっているくせに改めて聞いちゃうの?」
「……!」
「本当に僕のゲンガーのさいみんじゅつは君に良く効いてくれて助かったよ。……色んな事をさせて貰ったけど、全然起きないんだもんなぁ」
「!や、やめて……!やめて下さい!それ以上……何も言わないで!」
「嫌だなぁ。君の方から聞きたいって言ったんだろ?なら答えてあげるだけだよ。……君と僕はね、肌を重ねた関係なんだよ。それも一夜だけじゃなくて……何度もね。意識のない状態だから最初の方は反応が薄かったけど……何度も何度も、君の反応の良い所をじっくり探させて貰ったからね。何回もしているうちに寝ながらも君の身体も僕を悦んで受け入れていたよ」
あまりの残酷な現実に私は、その身を震え凍えさせるのみ。呆然と立ち尽くす私に向かってマツバさんは目を細めながら言葉を放つ。
「……赤ちゃん、出来ちゃったらごめんね?でも、勿論責任は取るから安心してよ」
彼のその一言で、私は今まで信じていた二人の絆もろとも……凍てつくような極寒地獄にへと身も心も突き落とされるのだった。
◇
決して僕の行いは許されるものでは無い。きっと地獄に堕ちる事は確定だろう。だけど、堕ちるのなら……僕は君の手を掴んで共に堕ちたい。君と二人なら、凍てつくような冷たい地獄でも、灼熱のような燃え盛る業火に包まれても、僕は確かにしあわせなんだ。
僕は彼女の事が好きだった。それは古い友人であるミナキ君から「紹介したい人がいる」と言われて彼女と対面した時から淡い恋心を抱いてしまう程には、彼女の事をどうしようもなく愛してしまったのだった。愛する人は、僕の隣に居てくれる。
だけど、近い存在だからと言って二人が同じ気持ちなのかと言えばそれは違うのであった。彼女は僕の事をあくまで古くからの親しい友人としての認識しかしてくれていない。それは幼い頃から現在に至るまで変わる事は無かった。僕の方は長年そんな「親友」とかそう言った枠を超えて彼女の事を想っていたので、ここら辺で僕と彼女はだいぶすれ違っていたと思う。
募る想いはいつしか胸の奥から溢れ出して、僕の心を長い時を経てはずぶずぶと侵食していった。彼女の事を愛しているのは間違いない。この世でたった一人、僕が真の愛を抱いているのは彼女だけなのだと断言出来る。だが、愛とは穢れなき美しい感情だけでは無いと、歳を重ねるにつれて僕はそれを痛いくらいに思い知るのだった。愛しているからこそ、大事にしたい。
その想いに嘘偽りは無い。……無かったんだ。
だけど、いつしか純粋なその気持ちに翳りが刺すように、僕の中の欲望という危うい種子が自身を腐食するように猛毒を撒き散らしながら己の中に巣食い始めていく。
僕がこれだけ愛してやまないのに、彼女は僕のこの想いに気付こうとしてはくれない。それに、手を伸ばしたら届く距離なのに、手を伸ばしてもこの愛は届かないのだ。彼女との関係は確かにとても心地よくて、愛しいものであった。だけど、それだけじゃ何時しか物足りなくなっていったのは、侵食された心が己の中に確実に存在している怪物的な感情のせいだろう。
彼女に触れたい。思い切り抱き締めて、その唇を奪ってしまいたい。初めのうちはそれぐらいだったけど、それだけじゃ……物足りなくなる程に僕の中の欲は風船のように膨らみ続けていった。いつ破裂しても可笑しくない、もはや爆弾のような気持ちをひた隠しにしながら何とか彼女と接していたけど、それはほんの些細な事で容易く……破裂していった。
「マツバさん」
僕の名前を呼びながら、目を細める彼女の姿を目にした瞬間……僕の押さえ付けていた雄の本能が確かに目を覚ましたのを感じ取る。それは彼女からしたら、本当に共に歩む日常の一コマにしか過ぎないのだろうけど……僕からしたらその笑顔があまりにも美しくて眩しくて……どうしてもこの手に欲しくなってしまったのだ。一度破裂した欲望は、長年押さえ付けていた分歯止めが聞かず、僕に彼女を絶対に自分のものにしてみせるという決意を固めさせていくのだった。
そうして彼女を手に入れる策を色々考えた結果……寝ている間ならそれが可能だと気付いてしまった。……それは僕が人として最低な事を企んで、実行に移してしまう事だとも分かっていたが、はっきり言って……もう倫理観とかどうでも良かったんだ。
彼女の身体だけでも手に入るのなら、この火照る熱情を一夜でも鎮める事が出来るのなら……それだけで僕は幸せだと感じてしまう位に、身勝手ながらも何処かで追い詰められていたのかも知れない。
そして、ある夜……僕は彼女を眠らせてから、その肌に触れるだった。寝ている彼女の寝顔は実に愛らしく、高鳴る心が劣情を煽ったのは記憶に新しい。僕はそういう事をするのは初めてだったし、彼女も恐らくは初めてだろう。眠っていて意思が無いとはいえ彼女の身体には痛みを与えたくない。それに僕だって彼女の身体を思う存分、長年の欲望をぶつけるように味わいたい気持ちがあって……まぁ、色んな所を存分に堪能させて貰ったかな。そして、昂っていく気持ちが最高潮に達した時、僕は眠る彼女と一つに交わるのだった。
流石に破瓜の痛みで意識が戻るのかなと、思ったけど……どうやら僕がじっくり弄り回した彼女の身体は大した痛みも無く、むしろ悦ぶかのように僕自身を受け入れてくれた、そんな幻想を抱いてしまう程に、夢のような一夜を過ごした。
僕は彼女の知らず所で、彼女の初めての男となった。
彼女だけが知らないだけで、二人が男女の関係になった事に愉悦が胸の中を支配していく。そして、一度でも甘い果実を口にした怪物は、禁忌と知りながらも再度その実を喰らいたいと騒ぎ出していくのであった。その欲望のままに僕は何度も何度も、彼女と肌を重ねて行く事になる訳だが……、流石に彼女の反応が薄い事にまたしても物足りなさを感じていく。
眠っているのだから、当然なんだろうけど……今度は意識のある彼女を抱いてみたいなと思い始める。
それに、もう彼女の処女を僕は貰ったのだから今更……元の関係になんて戻る気なんて無かった。むしろ、戻りたいとすら思わないぐらいに僕は彼女の女としての一面に溺れていった。
女の子に触れるのは初めてだったけど、想像よりも白くて柔らかくて温かい人肌に一人だけで酔いしれているのも、勿体無いだろう?僕だけが一方的な関係も、そろそろ終わりにしようか。そんな思いから普段は残さない痕を、先ずは手首に残して見て彼女の反応を伺ってみた。
自身の身体の異変に彼女は薄らと気付きつつあるも、何処かモヤがかかったかのような反応をした彼女を僕は心の中で嗤った。そうだよねぇ、虫刺されなんかじゃないよ?その痕は。
今、君の目の前にいる僕が咲かせた赤い花は、陶器のような白い肌を持つ彼女に良く映えて、それが僕の更なる劣情やら支配欲やらを煽っていった。
なんだかんだ、二人の辿る未来はこうなる事だったんだ。
それは道が少し捻じ曲がっただけで、僕と彼女は強引にでも結ばれる運命だったんだよ。一方的かつ、彼女の意思を無いものとしてその挙句に倫理反し、傷付ける事になっても……彼女がどう足掻いても君はもう僕のものなんだ。
僕は白日の元に自身の行いを彼女にへと告げた際、涙を流しながら彼女は「なんで?」と問いかけたけど、そんなの決まってるだろ。
君の事を誰よりも愛してるから……だよ。
僕はきっと地獄に堕ちるけど、君だって長年の僕のこの想いを気付こうとしてくれなかった罪がある。君が早く僕のこの溢れる愛に気付いてくれていれば、きっともう少しだけ道順は違ったかもね。でも、それでも巡る運命は変わらない。
「……赤ちゃん、出来ちゃったらごめんね?でも、勿論責任は取るから安心してよ」
この言葉の通り、彼女がもしも孕んでしまっても僕は無責任に逃げたりなんかしない。むしろ、孕んでくれたら……それこそ結婚という名の契約を結べるとすら思うし、僕はそれを強く望んでいるのであった。
僕の一言で、君は真っ青になって震えていたけど……そんな君を優しく抱きしめながら、共に堕ちよう。
地獄という名の、涅槃にへと。
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