序章
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
その細身を生かし、建物と建物の間の狭い路地を駆け抜けていく少女。
障害物を器用に避けながら、少女は後ろを振り向き、背後を確認する。
「待て女!!今日という今日は逃がさねぇぜ!」
少女は追っ手から逃げていた。
どうにかしてちぎれないものかと考え路地に逃げ込んだはいいものの、狭いため逃げる方向がかなり限られている。おまけにこの目立ってしょうがない赤髪。相手からすれば美味しい展開だ。
とはいえ、相手の男2人は…まあ片方は小柄なもののもう片方は割と大柄だ。しかもその大柄の方が立場が上らしく、小柄な男は大柄な男の指示なしでは動けないようだ。大柄の後ろをぴったりくっついて走っている。その小柄を先に走らせれば良いものを…
撒ける。そう思ったのも束の間。彼女は所詮少女だ。男に体力で勝てるわけがない。徐々に距離が縮まっていく。
「…!」
角をひとつ曲がる。その先に、壁。
行き止まりである。
息を切らしながら思考を巡らせているうちに、男たちが追いついてしまった。
「はぁっ、は、やっと追い詰めたぜお嬢ちゃん!ぜぇっ…ほら、悪いことは言わねえからこっち来な!」
「ひーっ…ひ、はーっ…素直に従ってくれれば、はぁっ……は…痛い思いしなくて済むよ〜…ねっ?」
少女は反応しない。ただ壁を見つめ、この現状をどう打破するかを考えている。
「おい無視かよこのクソアマ。ちょっと痛い目見ねぇと分かんねぇみてぇだな…!」
大柄な男がより少女へ詰め寄ったその時
頭上から声が降ってきた。
「何してるの?」
その場にいた全員が、声のした方に目を向ける。
少女が行き詰まった壁の上。そこに居たのは、少女よりも幼く見える少年。

青空を背景に、馴染む青色の髪。一層輝きを増す金の双眸。
「いけないんだよ、大人がよってたかって小さい女の子を虐めちゃ」
小さな背には似つかわない大きなマントを翻しながら、少年は壁から飛び降り、綺麗に着地した。
「なんだ?このガキ」
「おじさん達こそ何?この女の子に一体何しようとしてたの?」
少々怒り口調で少年が言葉を返すと、男たちはそれが面白かったらしく、クックッと喉奥で嘲笑い始めた。
「あーあ、ここに来ちまったのが運の尽きだぜ、ガキンチョ。世の中にはなぁ、知らない方がいいこともあるんだよ」
「首を突っ込まない方が正解だったね。見られてしまった以上、君のことは殺さなきゃいけなくなってしまった」
無駄な殺しはしない主義──とでも言いたいのだろうが、その顔には微塵も罪悪感など見当たらない。
ついに男たちはナイフを取り出した。
「せめて苦しまずに楽にしてやるよ」
少女はそのナイフを見て怯えたような反応を見せた。が、少年はピクリとも動じない。
「うーん…話が通じない人達みたいだ」
「クソガキ!その口引き裂いてやる!!!」
小柄な方が勢いよく少年へ飛びかかる。
「逃げてください…!」
少女は恐怖に脅えながらも、少年を護ろうと手を伸ばした。が、それよりも早く、少年は右手の人差し指を空に向かって掲げる。そして、地に向かって振り下ろした。
指された地に魔法陣が浮かび上がり、光り輝く。
「精霊召喚 !」
勘づいた男たちは足を止めて怯んだ。
「なっ…!」
「こいつも“魔導士”…!」
「我が声に応じ出でよ!」
「英霊 ・ヘラクレス…!」

魔法陣から漏れ出た光の粒が、瞬く間に人の形を成していく。
精霊が成形する前に、小柄な男はマスターである少年を叩こうと踏み込んだ。
しかし時すでに遅く、精霊の大きな手に捕らえられてしまった。
その握力は強く、振りほどこうとしたってビクともしない。
その状況を見て、大柄な男も飛びかかってきた。
空色の髪に金色の瞳。ヘラクレスと呼ばれた精霊は、2人分の攻撃を易々と避けると、掴んでいる小柄な男の腕を引っ張っりぶん投げた。遠心力を利用したその攻撃は、大柄な男の方をいとも簡単に吹っ飛ばし、壁にめり込ませた。
「一撃で戦闘不能とは…」
「ヘラクレス…!」
「殺してねえよ、今のうちに逃げるぞ」
ヘラクレスは行き先を塞いでいるその大きな壁に、ジャンプひとつで平然と飛び乗る。
少年は少女を気遣って声をかける。
「ここにいても危険だ、さあ、彼らが目を覚ます前に、急いでここから離れよう」
「へっ、え!?いやっ…さすがに壁を飛び越えるなんて…!」
それもそうかと考えた少年は、その小さな身体で自分よりも背丈のある少女を軽々とお姫様抱っこし、ヘラクレスに続いて軽々と壁を飛び越えた。
そして、恥ずかしがる少女を他所に暫くそのまま走り続け、町の外れまで来た。
息一つ切らさずに、ヘラクレスと少年は言葉を交わす。
「かなり走った。ここまで来ればもう大丈夫だろ」
「うん、ありがとうヘラクレス、助かったよ」
「ん」
そう言うと、ヘラクレスは光り、粒子となって消えた。
それを見送り、少女がか細い声で少年に声をかける。
「あ、あのぅ………も、もう下ろしてもらっても……」
「あっ!そうだよね、ごめんね」
少年はそっと、少女を腕から下ろした。
「勝手にぶっ飛ばしちゃったけど、もしかしてあの男たち、君の知り合いだったりした?」
少女は首を横に振る。
「いいえ…全く知らない人です……何故追われているのかも……よく分からなくて」
「…君、魔法は使える?」
「えっ?あ、は、はい…一応……」
突然辻褄の合わない質問をされ、戸惑いながらも答えると、少年はやっぱりかと顎に手を当てた。
「あれは多分魔導士狩りだ」
「魔導士狩り…?」
「うん、ああやって魔導士を襲って、奴隷にして売ろうとしている輩だよ。魔導士の奴隷は高くつくからね」
少女は少年に深々と頭を下げる。
「助けて頂き、本当にありがとうございました」
「えっ、いやいや、気にしないで!頭を上げて、大丈夫だから!ねっ」
「精霊を扱っていた貴方も、魔導士ですよね。一歩間違えたら貴方も襲われかねなかった…申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちで、私は…」
「本当に大丈夫だよ!僕はそういうの柄じゃないんだ!お願いだよ頭を上げて!」
そこでようやく、少女は頭を上げる。
安堵した少年が、ほっと胸を撫で下ろした。
「こうして出会えたのも何かの縁だ」
手を差し出し、少年は笑う。
「僕はポル、精霊魔導士さ」
少女も応えるように笑い、その手をそっと握った。
「私はカラ、予言魔導士です」

これは、世界の命運を分かつ、魔導士たちの物語。
その細身を生かし、建物と建物の間の狭い路地を駆け抜けていく少女。
障害物を器用に避けながら、少女は後ろを振り向き、背後を確認する。
「待て女!!今日という今日は逃がさねぇぜ!」
少女は追っ手から逃げていた。
どうにかしてちぎれないものかと考え路地に逃げ込んだはいいものの、狭いため逃げる方向がかなり限られている。おまけにこの目立ってしょうがない赤髪。相手からすれば美味しい展開だ。
とはいえ、相手の男2人は…まあ片方は小柄なもののもう片方は割と大柄だ。しかもその大柄の方が立場が上らしく、小柄な男は大柄な男の指示なしでは動けないようだ。大柄の後ろをぴったりくっついて走っている。その小柄を先に走らせれば良いものを…
撒ける。そう思ったのも束の間。彼女は所詮少女だ。男に体力で勝てるわけがない。徐々に距離が縮まっていく。
「…!」
角をひとつ曲がる。その先に、壁。
行き止まりである。
息を切らしながら思考を巡らせているうちに、男たちが追いついてしまった。
「はぁっ、は、やっと追い詰めたぜお嬢ちゃん!ぜぇっ…ほら、悪いことは言わねえからこっち来な!」
「ひーっ…ひ、はーっ…素直に従ってくれれば、はぁっ……は…痛い思いしなくて済むよ〜…ねっ?」
少女は反応しない。ただ壁を見つめ、この現状をどう打破するかを考えている。
「おい無視かよこのクソアマ。ちょっと痛い目見ねぇと分かんねぇみてぇだな…!」
大柄な男がより少女へ詰め寄ったその時
頭上から声が降ってきた。
「何してるの?」
その場にいた全員が、声のした方に目を向ける。
少女が行き詰まった壁の上。そこに居たのは、少女よりも幼く見える少年。

青空を背景に、馴染む青色の髪。一層輝きを増す金の双眸。
「いけないんだよ、大人がよってたかって小さい女の子を虐めちゃ」
小さな背には似つかわない大きなマントを翻しながら、少年は壁から飛び降り、綺麗に着地した。
「なんだ?このガキ」
「おじさん達こそ何?この女の子に一体何しようとしてたの?」
少々怒り口調で少年が言葉を返すと、男たちはそれが面白かったらしく、クックッと喉奥で嘲笑い始めた。
「あーあ、ここに来ちまったのが運の尽きだぜ、ガキンチョ。世の中にはなぁ、知らない方がいいこともあるんだよ」
「首を突っ込まない方が正解だったね。見られてしまった以上、君のことは殺さなきゃいけなくなってしまった」
無駄な殺しはしない主義──とでも言いたいのだろうが、その顔には微塵も罪悪感など見当たらない。
ついに男たちはナイフを取り出した。
「せめて苦しまずに楽にしてやるよ」
少女はそのナイフを見て怯えたような反応を見せた。が、少年はピクリとも動じない。
「うーん…話が通じない人達みたいだ」
「クソガキ!その口引き裂いてやる!!!」
小柄な方が勢いよく少年へ飛びかかる。
「逃げてください…!」
少女は恐怖に脅えながらも、少年を護ろうと手を伸ばした。が、それよりも早く、少年は右手の人差し指を空に向かって掲げる。そして、地に向かって振り下ろした。
指された地に魔法陣が浮かび上がり、光り輝く。
「
勘づいた男たちは足を止めて怯んだ。
「なっ…!」
「こいつも“魔導士”…!」
「我が声に応じ出でよ!」
「

魔法陣から漏れ出た光の粒が、瞬く間に人の形を成していく。
精霊が成形する前に、小柄な男はマスターである少年を叩こうと踏み込んだ。
しかし時すでに遅く、精霊の大きな手に捕らえられてしまった。
その握力は強く、振りほどこうとしたってビクともしない。
その状況を見て、大柄な男も飛びかかってきた。
空色の髪に金色の瞳。ヘラクレスと呼ばれた精霊は、2人分の攻撃を易々と避けると、掴んでいる小柄な男の腕を引っ張っりぶん投げた。遠心力を利用したその攻撃は、大柄な男の方をいとも簡単に吹っ飛ばし、壁にめり込ませた。
「一撃で戦闘不能とは…」
「ヘラクレス…!」
「殺してねえよ、今のうちに逃げるぞ」
ヘラクレスは行き先を塞いでいるその大きな壁に、ジャンプひとつで平然と飛び乗る。
少年は少女を気遣って声をかける。
「ここにいても危険だ、さあ、彼らが目を覚ます前に、急いでここから離れよう」
「へっ、え!?いやっ…さすがに壁を飛び越えるなんて…!」
それもそうかと考えた少年は、その小さな身体で自分よりも背丈のある少女を軽々とお姫様抱っこし、ヘラクレスに続いて軽々と壁を飛び越えた。
そして、恥ずかしがる少女を他所に暫くそのまま走り続け、町の外れまで来た。
息一つ切らさずに、ヘラクレスと少年は言葉を交わす。
「かなり走った。ここまで来ればもう大丈夫だろ」
「うん、ありがとうヘラクレス、助かったよ」
「ん」
そう言うと、ヘラクレスは光り、粒子となって消えた。
それを見送り、少女がか細い声で少年に声をかける。
「あ、あのぅ………も、もう下ろしてもらっても……」
「あっ!そうだよね、ごめんね」
少年はそっと、少女を腕から下ろした。
「勝手にぶっ飛ばしちゃったけど、もしかしてあの男たち、君の知り合いだったりした?」
少女は首を横に振る。
「いいえ…全く知らない人です……何故追われているのかも……よく分からなくて」
「…君、魔法は使える?」
「えっ?あ、は、はい…一応……」
突然辻褄の合わない質問をされ、戸惑いながらも答えると、少年はやっぱりかと顎に手を当てた。
「あれは多分魔導士狩りだ」
「魔導士狩り…?」
「うん、ああやって魔導士を襲って、奴隷にして売ろうとしている輩だよ。魔導士の奴隷は高くつくからね」
少女は少年に深々と頭を下げる。
「助けて頂き、本当にありがとうございました」
「えっ、いやいや、気にしないで!頭を上げて、大丈夫だから!ねっ」
「精霊を扱っていた貴方も、魔導士ですよね。一歩間違えたら貴方も襲われかねなかった…申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちで、私は…」
「本当に大丈夫だよ!僕はそういうの柄じゃないんだ!お願いだよ頭を上げて!」
そこでようやく、少女は頭を上げる。
安堵した少年が、ほっと胸を撫で下ろした。
「こうして出会えたのも何かの縁だ」
手を差し出し、少年は笑う。
「僕はポル、精霊魔導士さ」
少女も応えるように笑い、その手をそっと握った。
「私はカラ、予言魔導士です」

これは、世界の命運を分かつ、魔導士たちの物語。
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