6月

 暗闇の中、目隠しをした少年は気配を読むことに集中している。
「──十一時」
 少年の言った方角から狼に似た魔獣が飛び掛かってきたが、少年は怯むことなく魔獣の身体を両断した。
「……空から、四時」
 翼を持った大型の魔獣。鋭い爪を躱し、隙を狙って急所に一撃を与える。
 幻術が解け、昼間の訓練場の風景に戻った。
「お見事!」
 男性の声に、少年は目隠しを取った。
「後方の敵も気づかれるとは」
「羽ばたきが聞こえました」
 少年は眩しそうにしながら、応えた。
「さすが、シラス様。騎士でも油断してやられる奴もいるんですよ。あっはっは」
 幻術で作り出した魔獣だから引っ掻かれてもかすり傷程度ですが、と騎士団長のイザークは豪快に笑った。
「イザーク、シラスはどうだ?」
「陛下」
 訓練場にやってきた国王レオン。腕の中には、遊び疲れてうたた寝している王太女リゼットがいた。
「両目を閉じてても戦えます。それも的確に狙える」
 この国に連れてきた時は、華奢で背も低かったが、この二年でずいぶんと成長したようだ。右目や左腕の怪我も克服している。
「……便宜で騎士見習いということにしてたが、予想以上に適性があるみたいだな」
 レオンは何か考えたあと、シラスに向き直った。
「シラス、お前も十四歳になる。このまま従騎士になるか、他の道を選ぶか」
 シラスは、自分が人生の岐路に立っていることに気づく。
「今すぐに決めなくて大丈夫だ。お前は頭もいいから文官の道もあるし、ピアノの腕も相当だから宮廷楽団でもいける。あ、リゼットの執事もあるな」
「私の従騎士になってもらって、団長を譲るのもありですな。うちの息子は武術は向いてない」
「ユーグは文官向きだな。話作りが上手いからそっち方面で……」
 大人ふたりが、子供たちの将来の話で盛り上がっていると、リゼットが目を覚ました。
「シラスくん」
 ふわりと天使のような笑顔を見せた。
「──僕、私は王太女殿下をお守りしたいです」
 シラスは、希望をそっと声に出してみた。
8/20ページ
スキ