6月

「……最悪なのですわ」
 城下にお忍び中のリゼットは、広場の木の下で呟いた。
 さっきまで雲ひとつない晴天だったのが、バケツの水をひっくり返したような雨である。
 もうすぐ午睡の時間が終わってしまう。寝台には身代わりの熊のぬいぐるみを寝かせてあるが、当然ばれるだろう。城は近いが、走って帰るにもずぶ濡れ間違いなしだ。
「最悪とは、このうえなく悪いことを言うのですよ」
 ばれるか、濡れるか、の二択で迷っていたリゼットの頭上で声がした。
「え、シラス君!」
 騎士団長は、左肩のペリースマントを広げてリゼットを覆うようにした。
「時間がない。走りますよ」
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