5月

「どうしたら、汚れた世界で無垢でいられるのかしら?」
 リゼットが難しいことを言い出したら、勉強に飽きたしるしだ。
「……何も知らないからこそ、無垢でいられるのかと」
 課題は終わっているのを確認して、シラスは話に付き合うことにした。
「赤子は、世界が汚れているとはまだ知らないでしょう」
 歴史書を指先で突いた。この大陸で起きた争いが記されている。
「そうですわね。世界が汚れていると気づいたらもう終わりね」
 リゼットは少し寂しそうに呟いた。
「様々なことを知るのは必要なことです……僕にとっては、リゼット様はいつまでも無垢なままですけどね」
 初めて会った時の、シラスを見上げた無垢な瞳は変わっていない。
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