5月

 久しぶりの快晴に、中庭を散歩するリゼットとシラス。
「ピンクのオルタンシアは元気な女性、青は辛抱強い愛情、白は寛容」
 色づき始めた紫陽花に、リゼットは花言葉を呟く。
「リゼット様。ごめんなさい、の意味を持つ花もあるのですか?」
 何かを思い出したように、シラスが訊ねた。
「えーとね……紫のヒヤシンスがそうなのですわ。ごめんなさい、許してください、悲しみを超えた愛。シラス君、謝りたい方が?」
 珍しい、とリゼットは思った。
「いえ、僕ではないのですが。ある騎士から彼女と喧嘩してどうすればよいかと泣きつかれまして……謝る気があるなら花でも贈れと言ったのですが」
 正直、女性が苦手なシラスには扱いがわからない話だ。
「んー? 侍女たちが似たような話をしてましたわ」
 王太女付きの侍女のひとりが、騎士団にいる彼と喧嘩したと騒いでいた。
「やはり、リゼット様のところの……」
「別れる気はなさそうでしたわよ。あ、カモミールには仲直りという意味もありますわ」
 リゼットとシラスが、よく寝る前に飲むハーブティーがカモミールだ。逆境の中で生まれる力、あなたを癒やす、という意味もある。
「後で、カモミールを摘んで持って行くように言っておきます」
「お疲れさまなのですわ」
 部下思いの騎士団長を、王太女は労った。
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