5月

 リゼットは自室の窓から外を見た。
 灰色の空から落ちてきた雨粒が葉を揺らす。庭は大きな水溜まりができて、一部は小川になっている。
「今日で一週間なのですわ。このまま降り止まなかったらどうしましょう」
 雨の季節ではあるが、こうも続くとうんざりしてしまう。土があの状態だから散歩は禁止だろう。それより、この長雨が民の暮らしに影響を及ぼさないか心配だ。
「箱舟の話でも四十日四十夜ですから、いずれ止むでしょう」
 シラスは、氷を入れたグラスに紅茶を注ぎながら言った。
「……それ、大洪水で生き物は滅んでますわよね」
 地上に悪が蔓延り、神は自分の創った生き物を滅ぼすことを決めた。唯一の善であったノアと家族、選ばれた動物たちを乗せた箱舟以外は大洪水で死に絶えた。聖なる書物の話だ。
「ふふ、ちゃんと覚えておられる」
「シラス君の言うことは、真面目なのか冗談なのかわからない時が……ありがとう」
 リゼットの前に置かれたのは、クリームチーズを添えたスコーンにミントの爽やかなアイスティー。
「美味しい!」
 リゼットの様子を見て、シラスは微笑んだ。
「……少しは元気になられたようで」
 大丈夫、雨ももうじき止むでしょう。
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