5月

 森に囲まれた城は、真夜中は静寂に包まれる。
 兵舎を出た騎士団長シラスを見守るのは、夜空の星だけ。もちろん夜番の騎士は配置されているが。
 王家の棟に着いたシラスは、王太女の部屋の窓を見上げた。灯りは消えている。
「おかえりなさい」
 自室に戻ったシラスの寝台に寝転がっていたのは、ネグリジェ姿の王太女リゼットと熊のぬいぐるみ。いるだろうと予想はしていた。
「……ただいま戻りました」
 この部屋は三間続きだった王太女の部屋の一間で、シラスが騎士団長になった際に与えられたものだ。改装して壁はあるが、バルコニーと隠し扉で繋がっている。
「遅くなるので先におやすみくださいと」
「シラス君に何かあったらと心配で、眠れなかったのですわ」
 リゼットの夜更しの口実。しかし、優しい彼女は本当に心配してくれてたのだろう。シラスはリゼットの頭を撫でる。
「……カモミールティーでいいですか?」
「もちろん。うふふ」 
 ふたりだけの真夜中のお茶会。そのまま一緒に寝落ちてしまうのだった。
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