5月

 あの時、僕が王太后に目をつけられなければ。
 王弟夫妻の立場にあっても、王座には一切興味のなかった両親を、権力争いに巻き込むこともなかったのかも知れない。
 僕がもっと賢くて力があったならば。
 領地の皆を残して、身を隠すこともなかったのかも知れない。
「──十二歳の少年に変えられるものではなかった。今はそう思えます」
 シラスは右目に手をやった。今も残る、守れなかった後悔の傷痕。
 リゼットの細い指先が優しく触れる。
「いつも守ってくれて、ありがとう」
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