5月

 朝焼けと血で、赤く染まった鎧と身体。
「……エリ……」
 呼吸がままならない、肺をやられたのだろう。この命は終わろうとしている。
「あ……い……」
 暗くなったはずの視界は、いつもの天蓋を見上げていた。
「──またか」
 鮮烈な夢から目覚めたシラスは起き上がり、窓の外を見た。黎明の赤い空に、思わず自分の身体を見下ろしたシラスだが、もちろん出血はない。
 これは、二百年前の初代の騎士団長シルワノの記憶なのだろう。
 声が出なくても全身全霊で、女王エリサベトへの愛を叫ぶような最期。
「……今度こそはずっとお傍に」
 シラスは呟いた。
11/31ページ
スキ