5月

 城内の森を散歩していたリゼットとシラスの前を、白いものがひらひらと横切る。
「にゃっ」
 猫のような声を上げたリゼットが後ずさりし、シラスのペリースマントにしがみついた。
「モンシロチョウですね」
 そうだ、リゼットは虫が苦手なのだ。
「遠くから見る分には可愛らしいとも思えるのだけれど、近くは怖いのですわ〜」
 近づいてきたモンシロチョウに、リゼットはマントを被る。
「……僕は木とでも思われてるのでしょうか?」
 モンシロチョウは、シラスの周りを行ったり来たりしている。背中にはリゼットで動けない。
「──白い蝶は、死者からのメッセージと聞いたことがありますわ」
 すっぽりとマントの中に入ってしまった、リゼットが言った。
「メッセージですか」
 先日、シラスは両親の墓に花を手向けた。リゼットが鎮魂歌といつもの子守歌を歌ってくれたのだ。
「……お礼を伝えに来たのかも知れませんね」
 やがて、モンシロチョウは遠くへ飛んでいった。
10/31ページ
スキ