5月

 風の音に葉擦れの音、鳥の囀り。
 城内の森の小道を進むシラスは耳を澄ませた。聞こえてきたのは、歌うような天使の声、ではなくリゼットの声だ。
「……うん、うん。それで?」
「ピーツピッ」
 大きな樫の木の下に、リゼットはいた。右手には黒の頭に白い頬をした小鳥が乗っている。
「よかったのですわ。うふふ」
 リゼットの独り言ではない。彼女は鳥の言葉が解る魔力を持っているのだ。
「ピピッ、ツツピー」
 気配で小鳥が飛び立たないよう、少し離れたところから見守っていたシラスの存在をリゼットに知らせるように、小鳥が鳴いた。
「シラス君、迎えに来てくれたの?」
 リゼットは嬉しそうに笑った。
4/31ページ
スキ