4月

 母の好きだった花を手に、シラスは墓地に向かう。
 海が見える小さな丘を登ると、鎮魂歌が聞こえた。死者の安息を願う、この優しい歌声は聞き慣れた少女のものだ。
「リゼット様」
 歌い終えたところで、声をかける。
「シラス君」
 此処にはいない両親の為に建てられた墓。それでも、この時期になると訪れていた。
「……ひとつお願いが」
 花を手向けたシラスは、リゼットを見る。
「いつもの子守歌を聴かせてくださいますか」
 讃美歌にもなっている子守歌。故郷の民謡が元で、両親がよく歌ってくれたのを覚えている。シラスも幼いリゼットに歌い、今ではシラスが不眠ぎみの時にリゼットが歌っていた。
 リゼットは頷くと、美しい旋律を奏でだす。
 この歌が、風に乗って届いてくれることをシラスは祈った。
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