4月

「どうして生き残ってしまったのか……」
 領地に向かう船での事故。記憶は曖昧だが、両親の命と引き換えに、僕だけ魔力で船外に脱出させられたのだろう。
 従兄の助けでこの国に亡命したが、あの時、一緒に海の底に沈んでしまえば楽だったのでは。辛い記憶と痛む傷に、つい弱音が出ることもある。
「シルワノ」
 従兄である国王陛下の手がこちらに伸ばされた。そんなことを言うなと怒られるのかと身構えたが、その手は僕の頭を撫でた。
「生かされたということは、何か意味があるのだろう」
 青玉色の瞳は、穏やかで優しい。
「まぁ、今はとにかく休んで傷を癒やすことがお前のやることだな」
「陛下」
 その時、何かにキュロットの裾を引っ張られた。
「シラ」
 もうすぐ一歳になられる王太女殿下が僕を見上げている。最近よく動くと聞いてたが、いつの間にか足下に来ていた。
「え、リゼット様……しゃべった?」
「シーラ」
「あら、リゼットの初めての言葉ね。シラ……シルワノのことかしら?」
 見守っていた王妃殿下が椅子から立ち上がり、王太女殿下の隣にしゃがんだ。
「俺たちがよくシルワノ言ってるからな。そういや、聖なる書物によるとシルワノはシラスとも呼ばれるらしいぞ」 
 この時からシラスと愛称で呼ばれるようになった。
「──そうだ。生きる意味が見つかるまで、リゼットを守るというのはどうだ?」
 陛下は思いつきで仰ったようだが、それこそが僕の生きる意味であったようだ。
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