4月

「王太女殿下、万歳!」
「さすが、騎士団長様」
 舞台は最近流行っているカフェ。国政を批判し、平民を馬鹿にする貴族の男がふたり。そこにタブリエドレス姿の可憐な少女が現れ、彼らを論破する。男たちが暴力に訴えようとしたところに、仮面を着けた騎士団長が現れ、男たちを懲らしめる。明かされた少女の身分に、カフェの客や店員はひれ伏し、観客は拍手喝采だ。
「──ユーグ伯爵、何ですのこれ」
「……」
 歌劇場の特別席に座ったリゼットは頭を抱え、シラスは無言を貫く。
「何って、王太女殿下と騎士団長閣下が先日カフェで大暴れ、じゃなくて大活躍した時のものですよ」
 ユーグと呼ばれた、やや軽薄そうな美青年がウインクしてみせる。芝居の脚本家であり、有力な宮廷貴族でもある。何故かシラスとは友人だ。
「脚本を練ってたら、お忍びのリゼット様が男ふたりを論破し始めるわ、またタイミングよくシラスが助けに現れるわ。これを芝居にしたら受けるだろうと思って」
 実際、人気が出て歌劇場は連日賑わっている。
 勧善懲悪の物語。現実もこのくらい善と悪がわかりやすければ楽なのですけれど、とリゼットは思った。
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