4月

 城の灯りもほとんど消え、静寂に包まれる真夜中。
 王太女リゼットは、できるだけ静かに窓を開けるとバルコニーに出た。満天の星空だ。
 ある星座の方角に流星群が現れそうだ、と学者たちが話しているのを聞いた。今日は月明かりもないから、ひとつくらい見られないかと期待している。
「……っくしゅ」
 リゼットは小さなくしゃみを一回した。初夏が近いが夜はまだ冷える。
「お風邪を召されてしまいますよ」
 低めの穏やかな声がして、ブランケットが掛けられた。騎士団長シラスだ。隣の部屋とはバルコニーで繋がっている。
「ありがとう。流れ星が見られないかなと思って」
「……ああ、星座の流星群があるとか」
 リゼットは楽しそうに、シラスの手を取った。 
「お願い事を叶えてくれるかしら? シラス君も一緒に見ましょう」
 シラスは、リゼットの冷たい手を包み込む。
「……何か願い事が?」
「うふふ、半分はもう叶えられましたわ」
 ──シラス君と流れ星が見たい。
 あとは、星が流れてくれるのを待つだけだ。
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