4月

 灰色の雲が太陽を覆い隠したと思ったら、窓を叩きつけるような大粒の雨。
「……わたくしの心のような天気なのですわ」
 淡い薔薇色のドレスを着たリゼットは浮かない顔だ。普段は着けないコルセットで窮屈なのもある。
「お茶飲みなら、親しい人だけでやればいいじゃない」
 苦手な公爵夫人のお茶会に招かれているのだ。
 この国は水の硬度から珈琲が好まれている。宮廷では紅茶は野蛮だという貴族も多かったのだが、王太女は紅茶が好きだと知った貴婦人たちは宗旨変えした。
「リゼット様が好きなのは、騎士団長様が淹れるお茶ですものね」
 支度を手伝う侍女のアンヌが言った。
「あとで、騎士団長様に淹れてもらいましょう。お菓子をご用意しておきますから」
 心優しい侍女にリゼットは微笑む。
「ありがとう。行ってきますわ」
 廊下に出ると、仮面を着けたシラスが立っていた。
「公爵夫人のお部屋までお送りします」
 エスコートされながら、リゼットはシラスにお願いをする。
「あとで、シラス君の淹れたお茶が飲みたいのですわ」
 シラスは唇に弧を描いて頷いた。
 雨は小降りになり、空が明るくなってきた。
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