4月

「愛があれば何もいらない、と言いましても現実には無理がありますわ」
 リゼットは、飽きたというように読んでいた本を机に置いた。
「何もなしに生きてはいけなくてよ。空気、水、食料、衣服……」
 シラスが本を手に取りぱらぱらとページを捲ってみると、どうやら少女向けの恋愛小説のようだ。
「難しいことを仰るから、哲学書でも読まれてるのかと思いましたが」
「ご令嬢方が話題にしてたから読んでみたけれど……うふふ」
 何がいいのかわからない、という顔をしているリゼット。年頃の乙女が胸をときめかせるような話題も、聡すぎるこの王太女には向いてなかったようだ。
20/30ページ
スキ