4月

 もし未来を見られるとして、わたくしの命はもう長くないのがわかっているから、もっと先の未来……百年、二百年先のこの国は平和になってるかしら?
 わたくしが初代の王となり、貴方が命と引き換えに守ってくれた大切な国。
「──この国は、大陸戦争の末期に平和の証として建国されました。平和の証といっても、実際はこの恵まれた領土を狙う周辺国は多く、争いは続きました。元修道騎士で初代の王立騎士団団長シルワノが争いを終わらせ、初代女王エリサベトが平和をもたらした、と伝えられています。因みに今年は建国二百年目なのですわ」
 王太女リゼットの暗唱を、騎士団長シラスは歴史書で確認した。
「はい、よくできました」
 シラスはいつもの癖で、リゼットの頭を撫でる。
「うふふ。初代のふたりが今のこの国を見たらどう思うのかしら?」
 大陸の五大国のひとつに数えられるほどの強国となり、領土は小さいが自然に恵まれ、城や街並みの美しさから“小さな宝石箱”と謳われているこの国。
「ふたりが望んだ国に近づけてるといいのですけど……というか、二百年も経ってたら生まれ変わってるのかしら?」
 首を傾げているリゼットに、シラスは心の内で応えた。
「──託して良かったと思ってますよ」
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