4月

「薔薇の妖精さん、いないかしら?」
 中庭の咲き始めた薔薇を見ながら、リゼットが言った。
 大人顔負けの聡明な王太女だが、まだ十二歳。たまに夢見がちなところがある。
 魔力の存在する世界。精霊の気は感じられるが、伝説にあるような妖精にはお目にかかったことがない。
「……僕の隣にいますよ」
「え!?」
 リゼットは急いで騎士団長を見たが、隣には自分しかいない。彼は悪戯っぽく微笑む。
「……シラス君ったら。うふふ」
 薔薇の妖精なら、きっとこのような愛らしい少女の姿なのだろう。
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