4月

 騎士団長の仕事を終え兵舎から出たシラスは、ふと見上げた満天の星空に目を奪われる。
「お役目大儀なのですわ」
 鈴を転がすような声に視線をやると、王太女リゼットが立っていた。
「リゼット様、迎えにきてくださったのですか?」
 王宮から兵舎までは距離がある。貴族の令嬢なら馬車を使うところだが、この王太女は歩いて来てしまう。しかも、侍女も連れていない。
「御手が冷たい。春とはいえ夜は冷えますから、早く帰りましょう」
 このままどこかに行きかねないので、手は繋いでおく。
「……星を見てましたの?」
 歩きながら、リゼットは空を見上げた。
「ええ。僕たちが今見ている星は過去の光だそうです」
 シラスは、前に天文学者から聞いた光年の話を簡単に説明した。
「不思議……でも、人が亡くなると星になるといわれるのもわかる気がしますわね」
 リゼットの言葉に、シラスは立ち止まった。
「……僕の両親も星になったのでしょうか」
 もう一度、過去を繋ぐ光を見上げる。
「きっと、見守ってくださってますわ」
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