4月

 祖国での大切なものは全て失った。
 懐中時計、菫青石、ロザリオ、オルゴール、ブランケット、熊のぬいぐるみ、それに公爵家の印章。十二歳だった僕は、両親の形見となった物と金貨を小さな鞄に入れ、出奔した。
 大切なものなどない方がいい。そう思うこともあったが、この国で何よりも大切なものができてしまった。
 あれから十二年、大切なものを守る為に僕は騎士として生きている。
「シラス君」
 愛らしく聡明な王太女が、僕の名を呼ぶ。
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