3月

 王太女に婚約者がいると知ったのは、つい最近のこと。
「──大叔母様のご子息なのですよね?」
 この国の前王妹の嫁ぎ先だった隣国の王弟。事故で夫妻は亡くなったが、一人息子がいる。
「そうそう。俺の従弟だから、リゼットから見ると従叔父だな」
 リゼットの質問に、国王レオンは暢気に応えた。
「その従叔父様は……十二年前から消息不明だと聞いておりますが」
 レオンは、リゼットの背後に控えている騎士団長をちらりと見た。仮面を着けたシラスは、普段と変わらず目を伏せ沈黙を守っている。
「もちろん、父上様は従叔父様の居場所をご存知なのですよね」
 いつ決められた話かわからないが、本当に生死もわからないのなら婚約者から外しているだろう。
「まぁ、その内全てわかるさ。ところでリゼット、そろそろ礼儀作法の時間じゃないか?」
 レオンは壁時計を指差した。講義の五分前だ。
「うぎゃっ、あの先生時間にうるさいのですわ。失礼いたします」
 礼をして、小走りで去って行ったリゼット。追おうとしたシラスをレオンが呼び止める。
「この話はまだ黙っているつもりだったんだが……お喋りな鳥たちめ」
 鳥の言葉が理解るリゼット。国王夫妻が王太女の婚約者について話していたことを、偶然に鳥たちの会話で聞いてしまったのだ。
「お前には、辛いことを思い出させてしまったな。すまない」 
 レオンの言葉に、シラスは首を横に振った。
「大丈夫です……従兄様は相変わらずお優しい」
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