3月

「──ふたりは幸せに暮らしました」
 リゼットは読んでいた童話の絵本を閉じた。
「魔女に狙われたお姫様を勇敢な王子様が助けて、ふたりは結婚する幸せな結末……幼い頃はそう思ってましたわ」
「今は違うと?」
 横にいたシラスが、意外そうに訊ねた。
 姫と王子の運命の出会いを瞳を輝かせて聞いていた、夢見がちなところがある姫君。今でも童話の王子には憧れたままだと思っていたが。
「だって、いくら美しい姫でも大体が寝てるか死んでる状態よ。初対面でそれに手を出す王子って、よく考えると変態じゃなくて?」
「……」
「それに、王子は戦ったりもしていないのよね。棚ぼたで姫を手に入れたって感じですわ。シラス君、傷が痛むの?」
 手で顔を覆うようにしたシラスを、リゼットが心配する。
「……いえ……ふっ……ふふ」
「もう、笑うなら普通に笑ってくださいな」
 リゼットはシラスの肩口を軽く叩いた。
「……すみません。リゼット様に敵う王子はいそうもないなと思いまして」
 このお姫様なら、王子に頼ることなく自分の力で幸せな結末にすることができるだろう。シラスはそう思った。
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