3月

「シラス君のお目々は宝石みたいね」
 誰もが畏怖する騎士団長の瞳を、覗き込んでいるのは王太女。
 翠玉に金が散った、吸い込まれそうな綺麗な瞳。
 シラスの右目は昔の事故で失明していたが、数年前に治癒の力を持つリゼットが触れたことで、光を取り戻した。時折、痛む傷痕を癒やしているのだ。
「宝石みたいなのは、リゼット様でしょう」
 角度によって菫や青灰と色を変える大きな瞳は、シラスが大切に持っている菫青石のようだ。
「……そんなに見つめられると、ドキドキしてしまいますわ」
 愛しげな眼差しに、リゼットは思わずシラスの両目を手で隠した。
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