3月

 あの時、祖国での宮廷の権力争いがなかったならば。
 事故に見せかけ両親が殺されることも、この右目に傷を負うこともなかったはずだ。
 母の生まれたこの国との国交が途絶えることもなく、友好を築けていたのだろう。
 僕はきっと、湖水地方のあの城で穏やかに暮らしていたと思う。
「──ないものねだり、だな」
 感傷を振り払うように、仮面を着けた。
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