3月

 城内の広大な森を散歩していたリゼットとシラス。
「一雨きそうですね」
 風に水の気配を感じ取ったシラスが言った。
「青空が見えてますのに?」
 空を仰いだリゼットは、遠くに黒い雲と閃光を見た。
「あ、雷」
 シラスはリゼットの手を引いた。
 王宮に戻る前に本格的に降り出すだろう。近くに田舎風の小屋があったはずだ。
 大粒の水滴が落ちてきたと思った途端、土砂降りの雨。幸い、小屋には簡単に入れた。
「リゼット様、濡れませんでしたか?」
「ええ、大丈夫。シラス君の言ったとおりですわね」
 さすが、とリゼットは感心している。
「雨はこの辺りだけみたいですね。一、二時間で止むかと」
 シラスは暖炉に薪を入れながら応えた。
「少しの間、我慢してくださいね」
 リゼットはシラスの隣に座った。暖炉の火がふたりを赤く照らす。
「うふふ、こんな時間も悪くないのですわ」
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