3月

「レーソラシドレーソ ソ♪」
 大広間から聞こえるメヌエットを口遊むリゼット。
 十二歳の王太女には社交界はまだ早い。部屋にいるのも退屈で、中庭に来てみた。
「リゼット様」
 聞き慣れた声に振り向くと、舞踏会に呼ばれていたはずの騎士団長が立っていた。
「あら、シラス君。抜け出してきたの?」
 仮面で素顔が判らぬ青年。しかし、騎士団長の地位に王太女のお気に入りという有望さゆえに、彼との縁を狙う貴婦人は多い。
「……あのような場は苦手で」
「ご令嬢方は残念がっているでしょうね」
 実はシラスは女性が苦手なのだ。
「というか、わたくしも残念ですわ」
「は?」
「シラス君が踊るのを覗こうと思いましたのに」
 リゼットの舞踏の練習に何度か付き合ってもらっているから、踊れるのは知っているのだ。
「──それでしたら」
 シラスがお辞儀をした。
「お相手願えますか?」
 曲調はワルツに変わっていた。
 リゼットは微笑み、右手を差し出した。シラスはその手を取り、甲に唇を寄せた。
 満月が、踊るふたりを優しく照らしていた。
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