王太女と騎士団長の小物語

「ハッピーヴァレンタイン!」
 王太女リゼットは騎士団長シラスの部屋に入って来るなり、可愛いらしい包みを差し出した。勢いで受け取ったシラスは、机の上の暦を見る。
「……ああ、聖ヴァレンティヌスの殉教日ですね」
 兵士の結婚が禁じられた時代、密かに恋人たちを結婚させていた司祭が処刑された日だ。
「その聖人と、この包みが関係あると?」
 修道院にいたシラスは宗教関連には詳しいが、俗世の行事には疎い。
「うふふ。ヴァレンティヌスは恋人たちの守護聖人なのでしょう。今日はそれにあやかって、大切な人に贈り物をする日なのですって。ピーちゃんが渡り鳥さんから聞いた話なのだけれど、東洋にある島国ではショコラを贈るとか」
 鳥の言葉が解るリゼットは、たまに妙な情報を仕入れてくる。ピーちゃんはリゼットの使いの鳥だ。
「何かね、本命とか義理とかあるみたい。よくわからないけど……シラス君は本命なのですわ」
 無邪気に笑うリゼット。一回り年下の少女に本命と言われ、嬉しさと後ろめたさと複雑な心境のシラス。
「……ありがとうございます」
 許可を得て包みを開けると、アーモンドを砕いて入れた一口サイズのショコラ。リゼットの手作りだとわかった。
「ちょっと形が歪なのもあるけど、味は大丈夫……なはず」
 一生懸命作ってくれたのだろう。シラスはリゼットの頭を優しく撫でた。
「今、紅茶を淹れますから一緒に」
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