泡が弾けて華が咲く

なんだが最近妹の瀏姫の様子が変わった。
それはとても良い方向に変わっていて、澄尊は思わずふふ、と小さく笑うと、その笑い声に向かい側に座っていた瀏姫は気が付いて澄尊を見て首を傾げた。

「藪から棒…」

「え?あぁ、ごめんごめん。最近瀏姫が楽しそうだなって思ったら嬉しくて。学校で何かあった?」

そう言って澄尊は瀏姫に質問をすると、瀏姫は手に持っていたカップを口につけて中身の紅茶を一口飲むと、カップの中を見てポツリと呟いた。

「布衣之交…」

「ん?心からの交わり…新しい友達できたの?」

瀏姫の言葉に澄尊は一瞬意味を考えてからそう聞くと、瀏姫はハッとしてからブンブンと首を横に振りまた下を向いた。

「まだ…確証無い…けど…そうなりたい…」

表情はあまり大きく変わってはいないが、モゴモゴと言って下を向く。
妹のその様子に澄尊は嬉しそうに笑うと、席を立って前に体を乗り出して妹の頭を優しく撫でた。

「大丈夫。瀏姫がそうなりたいと思ってその子とちゃんと向き合えればなれるよ。友達。」

瀏姫は大人しく澄尊に撫でられながらその言葉を聞くと、小さくうん、と頷いた。
自分の見ていない間に、瀏姫は少しづつ前を向き始めているようだった。

(…前…ね)

そう一人心の中で呟くと、澄尊はふっと笑ってから席を立った。

「飲み物出すけど飲む?」

台所へ向かいながら瀏姫にそう声をかけると、瀏姫はうん、と返事を返して席を立ち兄の後を追った。

「手伝う」

「ならお菓子も出しちゃおっか?」

澄尊はそう言って戸棚にあるバームクーヘンのお菓子を取り出すと、心なしか瀏姫は嬉しそうな雰囲気を漂わしてこくりと頷いた。

「ふふ、喜色満面だね」

澄尊はそんな嬉しそうな瀏姫を見てそう言うと、瀏姫は少し不満そうにしながらプイッとそっぽを向いた。

※ ※ ※

次の朝、いつものように兄と途中まで行ってから別れると、瀏姫は一人通学路を進む。
すると背後から駆け寄る足音がし、振り向くとクラスメイトの彩乃と花緒がそこに居た。

「おはよう華夜瀬さん」

「おっはよ華夜瀬さん!」

振り向いた瀏姫に向かって花緒が挨拶をすると、続けて彩乃も大きな声で挨拶をした。
その挨拶に瀏姫は小さく頷くと二人の方に身体を向けて挨拶を返した。

「おはよう御座います…種島さん、汐乃田さん」

その反応に彩乃は嬉しそうに笑いそっと瀏姫の横に並んだ。

「一緒に登校しよ!」

そう言って笑うと、花緒も反対側に並んで三人は通学路を歩く。

(今日は…お昼も…一緒に…)

そう思いながら瀏姫は少しだけ荷物を持つ手にそっと力を込めると、二人の会話を聞きながら通学路を共にした。
親を亡くしてからは、言い訳になるのかもしれないが、その頃から瀏姫は他人との距離をうまく計れずにいた。
そのため彩乃からの昼食の誘いを今日までうまく受け入れられずにいた。
しかし、昨日の兄との会話で自分の気持ちを改めて理解した瀏姫は、この二人になら心を開いて友人として付き合っていけるかもしれないと思い始めていた。
学校に着き、朝のホームルームの後いつものように午前の授業を終えると、昼休みのチャイムが構内に響き渡る。
瀏姫はカバンから弁当箱を取り出すと、小さく深呼吸をする。

(今日は…私から…)

そう思いくっと弁当箱を持つ手に力を入れると、後ろから誰かが肩を優しく叩いた。

「華夜瀬さん!お昼どう?」

振り向くとそこにはニコニコと笑いながらいつものように瀏姫を誘う彩乃の姿があった。

「あ…」

誘おうとしたその矢先に先を越されてしまい、瀏姫は呆気に取られて静止していると、彩乃はハッとして肩から手を離した。

「あ!あのあの!読書の邪魔したい訳じゃないからね!?ダメならダメでいいんだよ!?その、お昼にちょっと…色々お話ししたいなぁとか…そう言うやつで!」

自分が勢いで距離を詰めすぎる癖があるのを思い出した彩乃は、普段一人で行動していた瀏姫に対して踏み込みすぎたと思い、慌てて瀏姫の選択を尊重したい事をなんとか伝えた。
すると、瀏姫は慌てている彩乃の目を見るときっぱりと答えた。

「大丈夫。いいよ」

「…へ?」

その答えに彩乃は拍子抜けた顔をしながら声を漏らすと、瀏姫は席を立って弁当箱を持って彩乃の前に立った。

「問題無用」

瀏姫の言葉に彩乃はぱあっと明るい表情をさせてうんうんと頷くと、嬉しそうにニコリと笑った。

「あのね!おすすめの場所があるんだ!行こう!」

そう言って瀏姫の方に右手を差し伸べると、瀏姫は頷いてその手を掴んだ。
そして少し離れたところで二人を見ていた花緒の方へ行くと、花緒は少し驚きつつもほほう、と声を漏らして笑った。

「あや、ようやくお誘い成功したねぇ」

「へへー今日はラッキーデー!」

そう言ってニコニコすると、瀏姫はそっと手を離してから弁当箱で口元を隠して視線を逸らした。

「針小棒大…」

「…しん?」

瀏姫の言葉に彩乃は小首を傾げて困惑した顔をすると、花緒はスマートフォンを取り出して検索をかけた。
するとその意味を見てあー、と言うとはは、と笑って教えた。

「今日誘いを受けたことは些細なことなのにあやがすごく喜ぶから大袈裟だ、だって」

「えー!だって嬉しいんだもーん!念願叶ってなんだもーん!」

大きな声で言いながら彩乃は瀏姫を見ると、瀏姫は少しだけ視線を下に逸らしていた。
その行動におそらく瀏姫は恥ずかしがっているのだろうと察した花緒ははいはい、と言いながら自分のお弁当を持つと、彩乃の肩に手を回してポンポンと軽く叩いた。

「はいはい、とりあえず行こう?時間なくなっちゃうぞ?」

「はっ!確かに!行こう!」

そう言って二人は歩き出す。
しばらくして瀏姫が来ていない様子に気がついた二人は、立ち止まって振り向くとにこりと笑った。

「華夜瀬さんも早く!」

「あの場所人気なんだよ!早く行こ!」

おいでと彩乃が大きく手招きすると、瀏姫は顔を上げて少しだけ嬉しそうな顔をして頷いた。
その日から学校や街で三人が共に過ごす姿を見ることが多くなったと言う。
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