泡が弾けて華が咲く
「それじゃあ、通学中車とか気をつけて」
朝のいつもの分かれ道。
澄尊はいつもの様に先を歩く瀏姫に声をかけると、瀏姫は小さくため息を吐いて指摘した。
「用心堅固…」
「あぁ、ごめんつい」
瀏姫の言葉に澄尊は、ハハッと笑って頭を掻くと、瀏姫はくるりと身体を向けた。
「行ってきます。澄兄も…気を付けて行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
瀏姫はそう言って小さく手を振って通学路の方へ歩くと、澄尊もにこりと笑って手を振りその後ろ姿を見送ってから駅の中へと入って行った。
今日は快晴で雲ひとつない空を見上げ、瀏姫はゆっくりと前を向く。
進んでいくと学校が近くなり、同じ制服の生徒がちらほらと見え始めた。
しばらく歩いていると、何やら後ろから急ぎ足で近づいてくる気配がした。
しかし学校に友人を作っていない瀏姫は自分では無いなと思い、そのまま歩みを進めていた。
「おはよう華夜瀬さん!」
「!?お…おはよ…御座います…」
突然見知らぬ生徒が横に並んだと同時に声をかける。
そのことに驚き少し言葉を詰まらせたが、表情は崩さずに挨拶を返した。
(…何かしたっけ…?)
瀏姫は挨拶の意図が分からず心の中で首を傾げた。
すると挨拶をしてきた背の高い生徒の背中からもう一人出てくると、何やら緊張した面持ちで息を吸って口を開いた。
「おは、おははお、おはよう華夜瀬さん!」
緊張が解れなかったのか、その生徒は吃りながら瀏姫に挨拶をすると、瀏姫はまたも驚いて目を丸くした。
(なんでこの子挨拶にこんなに緊張してるの?)
そう思いながら表情を戻すと、瀏姫はなんとか平穏を保って挨拶を返した。
「お…はよう御座います」
「あ、うん…ごめんおはよう」
吃って驚かせたことに罪悪感を感じたのか、生徒はへへへと笑いながら頭を掻くと、挨拶をし直して少しの間を置く。
そして暫くしてから自己紹介を始めた。
「あー…えっと私同じクラスの種島彩乃!でこっちの背が高いのが汐乃田花緒ちゃん!」
「…種島さん…汐乃田さん…」
同じクラスと聞いて瀏姫は小さく会釈しながら二人の苗字を繰り返すと、ハッとして思い出した。
教室の少し離れた席で二人で一緒になって笑い合う姿をよく見かけていたのだ。
(その二人が突然どうして?)
そう思いながら小さく首を傾げる。
しかし吃った生徒、彩乃は呼ばれたことが嬉しかったのか瀏姫の顔を見て目を輝かせていた。
「!そう!宜しく華夜瀬さん!」
そう言って彼女は満遍の笑みでにこりと笑うと、瀏姫はまた小さく会釈をした。
せっかくだからと教室まで一緒に行こうということになり、三人は横に並んで歩いた。
「今日天気いいね!」
挨拶と先ほどの自己紹介で緊張が解れたのか、彩乃はニコニコと話しを瀏姫に振ると、瀏姫はこくりと頷いた。
「そういえば華夜瀬さんどの辺に住んでるの?電車通い?帰り道って寄って帰る方?あ!チャットアプリ使ってる?」
「あや、あや…ナンパみたいになってる」
「え!うっそ!」
彩乃の言葉に背の高い生徒、花緒は呆れたようにそう言うと、彩乃はえー!と言いながら花緒の顔を見た。
瀏姫はそのやり取りを見て仲がいいな、と一人思った。
※ ※ ※
「おっはよー!」
教室に入り彩乃は元気よく声を上げると自分の席へと移動する。
その後に花緒も続いて入ると、瀏姫も入り自分の席へと戻った。
そしてそっと鞄から本を取り出すと、昨日の続きのページを開いた。
暫くしてからあ、と声を漏らして瀏姫は心の中で後悔した。
(しまった…いつもの流れで…)
せっかく朝に二人が声をかけてくれたのに、瀏姫はいつもの動きで本を開いてしまっていた。
そのことに気がついてそっと視線だけを動かし二人を見ると、二人はいつものように仲良く話していた。
(まぁ…興味本位…からだろうな)
中学の時も自分のことについて興味本位で近寄って去るクラスメイトは何人かいた。
だから高校ではあまり目立たないよう配慮したつもりだった。
ふと、今朝の名字を呼んだ時の彩ノの嬉しそうな顔と、それを見てホッとしていた花緒の顔を思い出す。
あの二人なら仲良くなれるのだろうか。
そんなことをぼんやりと思いながら瀏姫は本に目を落とした。
朝礼が終わり、一限目の授業を終えると、突然横から声がしてきた。
「華夜瀬さん、次移動教室だよね!一緒に行こう!」
「え…あ、はい…」
次は音楽の授業。
彩乃は必要教材を掴んで瀏姫の席へと行くと片手を差し出して瀏姫を誘った。
瀏姫はその勢いにまたも驚ろかされつつも、平穏を装って返事を返す。
「あやぁ、勢い」
「あ…ごめんつい」
花緒の指摘に彩乃はへへ、と笑って差し出していた手を頭に持っていくと、瀏姫は必要教材を用意してそっと席を立った。
「問題無用」
瀏姫の言葉に二人は顔を見合わせてから瀏姫を見てにこりと笑うと、三人は並んで指定教室へと移動した。
その後も何かと移動や休み時間に彩乃は瀏姫に声をかけた。
その度やり過ぎと花緒に怒られながらも、瀏姫はその時間が嫌に感じることがなかった。
いつもなら読める本もあっただろうが、今日はなんだか二人の様子を見るのが楽しくなってきていた。
しかし、それも過去を思い起こすと今だけだという気持ちも膨らみ、瀏姫は授業の最中小さく下を向く。
「華夜瀬さん!お昼たべよ!」
お昼休みの時間になり、彩乃は自分のお弁当を持って瀏姫の席に行くと、瀏姫は小さく声を漏らして首を横に振った。
「本…読みながらだから…ごめん」
流石に距離が縮みすぎたと感じて、瀏姫は理由をつけてそう断ると、彩乃はそっかぁと少し残念そうに笑った。
「じゃあまた今度誘うね!」
そう言うとくるりと方向を変えて花緒の方へ立ち去ると、瀏姫はその様子を見て自分のお弁当と本を持って移動をした。
(また今度…は…多分無い…)
その言葉は亡くなった親もよく口にする言葉だった。
そして中学の時のクラスメイトも、そのまた今度は永遠に来ることはない。
(中学の時は…拒否し続けた自分も悪い…でも…)
同年代の会話にいつも置いてきぼりにされる感覚があり、それは両親が居ないから負い目に感じていたのかどうかも分からず、瀏姫はいつも悶々としていた。
だからこそ、高校では友達という存在が出来ないように目立たぬよう過ごしていた。
それでも彩乃と花緒のあの嬉しそうな顔が目の端に映る。
今日の昼前まで誘ってくれて過ごした時間は、瀏姫にとって少なからずとも楽しい時間ではあった。
瀏姫はそう思うと、いつもの校舎裏にある花壇の前のベンチに座ると、お弁当を開いていただきますと手を合わせた。
※ ※ ※
「おっはよー!華夜瀬さん!!」
「おは…よう御座います」
次の日の朝。
登校途中に後ろから元気よく挨拶をされ、瀏姫は驚いて後ろを振り向いて挨拶を返す。
するとそこには昨日の二人がニコニコとして瀏姫を見ていた。
「時間帯同じだったんだね!今日も一緒に登校していい?」
彩乃はそう言ってにこりと笑うと、瀏姫は少しおずおずとしながらもこくりと頷いた。
その答えに彩乃は昨日と同じように嬉しそうな満遍の笑みを浮かべる。
(そんなに…嬉しいのか…)
瀏姫は彩乃の反応を見て小さく困惑しつつも、少しだけ心を許していい気もしていた。
そして三人で並んで歩くと、ふと花緒は少しだけ嬉しそうな雰囲気を出している瀏姫に気が付いた。
(なんだ…華夜瀬さん案外…)
心の中でそう思うと、花緒はふふ、と笑った。
「?なに花緒ちゃん?なんか面白いことあった?」
彩乃はそう言って突然笑い出した花緒の方に顔を向けると、花緒はいやぁ、というと笑って言った。
「昨日のあやの吃り挨拶思い出しただけ」
「ぁあぁああ!それは忘れて欲しいかなぁ!」
花緒の言葉に彩乃は顔を赤くさせてワタワタと言うと、瀏姫の表情は変わらなかったがどこか楽しそうな雰囲気を漂わせていた。
朝のいつもの分かれ道。
澄尊はいつもの様に先を歩く瀏姫に声をかけると、瀏姫は小さくため息を吐いて指摘した。
「用心堅固…」
「あぁ、ごめんつい」
瀏姫の言葉に澄尊は、ハハッと笑って頭を掻くと、瀏姫はくるりと身体を向けた。
「行ってきます。澄兄も…気を付けて行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
瀏姫はそう言って小さく手を振って通学路の方へ歩くと、澄尊もにこりと笑って手を振りその後ろ姿を見送ってから駅の中へと入って行った。
今日は快晴で雲ひとつない空を見上げ、瀏姫はゆっくりと前を向く。
進んでいくと学校が近くなり、同じ制服の生徒がちらほらと見え始めた。
しばらく歩いていると、何やら後ろから急ぎ足で近づいてくる気配がした。
しかし学校に友人を作っていない瀏姫は自分では無いなと思い、そのまま歩みを進めていた。
「おはよう華夜瀬さん!」
「!?お…おはよ…御座います…」
突然見知らぬ生徒が横に並んだと同時に声をかける。
そのことに驚き少し言葉を詰まらせたが、表情は崩さずに挨拶を返した。
(…何かしたっけ…?)
瀏姫は挨拶の意図が分からず心の中で首を傾げた。
すると挨拶をしてきた背の高い生徒の背中からもう一人出てくると、何やら緊張した面持ちで息を吸って口を開いた。
「おは、おははお、おはよう華夜瀬さん!」
緊張が解れなかったのか、その生徒は吃りながら瀏姫に挨拶をすると、瀏姫はまたも驚いて目を丸くした。
(なんでこの子挨拶にこんなに緊張してるの?)
そう思いながら表情を戻すと、瀏姫はなんとか平穏を保って挨拶を返した。
「お…はよう御座います」
「あ、うん…ごめんおはよう」
吃って驚かせたことに罪悪感を感じたのか、生徒はへへへと笑いながら頭を掻くと、挨拶をし直して少しの間を置く。
そして暫くしてから自己紹介を始めた。
「あー…えっと私同じクラスの種島彩乃!でこっちの背が高いのが汐乃田花緒ちゃん!」
「…種島さん…汐乃田さん…」
同じクラスと聞いて瀏姫は小さく会釈しながら二人の苗字を繰り返すと、ハッとして思い出した。
教室の少し離れた席で二人で一緒になって笑い合う姿をよく見かけていたのだ。
(その二人が突然どうして?)
そう思いながら小さく首を傾げる。
しかし吃った生徒、彩乃は呼ばれたことが嬉しかったのか瀏姫の顔を見て目を輝かせていた。
「!そう!宜しく華夜瀬さん!」
そう言って彼女は満遍の笑みでにこりと笑うと、瀏姫はまた小さく会釈をした。
せっかくだからと教室まで一緒に行こうということになり、三人は横に並んで歩いた。
「今日天気いいね!」
挨拶と先ほどの自己紹介で緊張が解れたのか、彩乃はニコニコと話しを瀏姫に振ると、瀏姫はこくりと頷いた。
「そういえば華夜瀬さんどの辺に住んでるの?電車通い?帰り道って寄って帰る方?あ!チャットアプリ使ってる?」
「あや、あや…ナンパみたいになってる」
「え!うっそ!」
彩乃の言葉に背の高い生徒、花緒は呆れたようにそう言うと、彩乃はえー!と言いながら花緒の顔を見た。
瀏姫はそのやり取りを見て仲がいいな、と一人思った。
※ ※ ※
「おっはよー!」
教室に入り彩乃は元気よく声を上げると自分の席へと移動する。
その後に花緒も続いて入ると、瀏姫も入り自分の席へと戻った。
そしてそっと鞄から本を取り出すと、昨日の続きのページを開いた。
暫くしてからあ、と声を漏らして瀏姫は心の中で後悔した。
(しまった…いつもの流れで…)
せっかく朝に二人が声をかけてくれたのに、瀏姫はいつもの動きで本を開いてしまっていた。
そのことに気がついてそっと視線だけを動かし二人を見ると、二人はいつものように仲良く話していた。
(まぁ…興味本位…からだろうな)
中学の時も自分のことについて興味本位で近寄って去るクラスメイトは何人かいた。
だから高校ではあまり目立たないよう配慮したつもりだった。
ふと、今朝の名字を呼んだ時の彩ノの嬉しそうな顔と、それを見てホッとしていた花緒の顔を思い出す。
あの二人なら仲良くなれるのだろうか。
そんなことをぼんやりと思いながら瀏姫は本に目を落とした。
朝礼が終わり、一限目の授業を終えると、突然横から声がしてきた。
「華夜瀬さん、次移動教室だよね!一緒に行こう!」
「え…あ、はい…」
次は音楽の授業。
彩乃は必要教材を掴んで瀏姫の席へと行くと片手を差し出して瀏姫を誘った。
瀏姫はその勢いにまたも驚ろかされつつも、平穏を装って返事を返す。
「あやぁ、勢い」
「あ…ごめんつい」
花緒の指摘に彩乃はへへ、と笑って差し出していた手を頭に持っていくと、瀏姫は必要教材を用意してそっと席を立った。
「問題無用」
瀏姫の言葉に二人は顔を見合わせてから瀏姫を見てにこりと笑うと、三人は並んで指定教室へと移動した。
その後も何かと移動や休み時間に彩乃は瀏姫に声をかけた。
その度やり過ぎと花緒に怒られながらも、瀏姫はその時間が嫌に感じることがなかった。
いつもなら読める本もあっただろうが、今日はなんだか二人の様子を見るのが楽しくなってきていた。
しかし、それも過去を思い起こすと今だけだという気持ちも膨らみ、瀏姫は授業の最中小さく下を向く。
「華夜瀬さん!お昼たべよ!」
お昼休みの時間になり、彩乃は自分のお弁当を持って瀏姫の席に行くと、瀏姫は小さく声を漏らして首を横に振った。
「本…読みながらだから…ごめん」
流石に距離が縮みすぎたと感じて、瀏姫は理由をつけてそう断ると、彩乃はそっかぁと少し残念そうに笑った。
「じゃあまた今度誘うね!」
そう言うとくるりと方向を変えて花緒の方へ立ち去ると、瀏姫はその様子を見て自分のお弁当と本を持って移動をした。
(また今度…は…多分無い…)
その言葉は亡くなった親もよく口にする言葉だった。
そして中学の時のクラスメイトも、そのまた今度は永遠に来ることはない。
(中学の時は…拒否し続けた自分も悪い…でも…)
同年代の会話にいつも置いてきぼりにされる感覚があり、それは両親が居ないから負い目に感じていたのかどうかも分からず、瀏姫はいつも悶々としていた。
だからこそ、高校では友達という存在が出来ないように目立たぬよう過ごしていた。
それでも彩乃と花緒のあの嬉しそうな顔が目の端に映る。
今日の昼前まで誘ってくれて過ごした時間は、瀏姫にとって少なからずとも楽しい時間ではあった。
瀏姫はそう思うと、いつもの校舎裏にある花壇の前のベンチに座ると、お弁当を開いていただきますと手を合わせた。
※ ※ ※
「おっはよー!華夜瀬さん!!」
「おは…よう御座います」
次の日の朝。
登校途中に後ろから元気よく挨拶をされ、瀏姫は驚いて後ろを振り向いて挨拶を返す。
するとそこには昨日の二人がニコニコとして瀏姫を見ていた。
「時間帯同じだったんだね!今日も一緒に登校していい?」
彩乃はそう言ってにこりと笑うと、瀏姫は少しおずおずとしながらもこくりと頷いた。
その答えに彩乃は昨日と同じように嬉しそうな満遍の笑みを浮かべる。
(そんなに…嬉しいのか…)
瀏姫は彩乃の反応を見て小さく困惑しつつも、少しだけ心を許していい気もしていた。
そして三人で並んで歩くと、ふと花緒は少しだけ嬉しそうな雰囲気を出している瀏姫に気が付いた。
(なんだ…華夜瀬さん案外…)
心の中でそう思うと、花緒はふふ、と笑った。
「?なに花緒ちゃん?なんか面白いことあった?」
彩乃はそう言って突然笑い出した花緒の方に顔を向けると、花緒はいやぁ、というと笑って言った。
「昨日のあやの吃り挨拶思い出しただけ」
「ぁあぁああ!それは忘れて欲しいかなぁ!」
花緒の言葉に彩乃は顔を赤くさせてワタワタと言うと、瀏姫の表情は変わらなかったがどこか楽しそうな雰囲気を漂わせていた。