泡が弾けて華が咲く
その生徒は表情を全く崩さず、普通に会話のやり取りをしていたと思えば、時折四字熟語や諺だけで会話をする。
そして人との距離がとても遠くて無関心なのに、何かあれば目立たぬようにそっと手助けをする優しい子だった。
そんなクラスメイトの事が気になっている同じクラスの生徒、種島彩乃(たねじまあやの)は、今日も彼女を目で追っていた。
「あやぁ?また華夜瀬ウォッチしてんの?」
彩ノの前の席で椅子の背もたれの方に身体を向けて座る友人の汐乃田花緒(しおのだかお)はそう声をかけると、彩乃は唸りながら両腕を伸ばして机に突っ伏した。
「んん…だってぇ花緒ちゃん気にならない?華夜瀬さんなんで四字熟語なのぉとか、なんでポーカーフェイスなのぉとか、聞きたいじゃんそういうのぉ」
「まぁ気になりはするけど…デリケートな問題かもしれないじゃん?」
「その時は謝る!」
花緒の言葉に彩乃は上体を起こして背筋を伸ばしてキッパリと言うと、花緒は潔い、と小声で言って苦笑した。
そしてチラリと件の生徒、華夜瀬瀏姫(かやせるい)の方を見ると、瀏姫は静かに席に座って本を読んでいた。
「…何があやをそうさせるのかね…」
花緒は呆れたように言って彩乃を見ると、彩乃はんー、と言いながら考えるポーズを取る。
そしてハッとした顔をしてビシッと人差し指を立てた。
「ミステリアスだから…ではないでしょうか」
「ほぉ?その心は?」
カッと目を見開きながら花緒の目を見て彩乃が答えると、花緒は頬杖をついて笑って質問をした。
すると彩乃はまたんー、と言いながら考えると、あ、と声を漏らした。
「謎が多いほど色々知りたい…というか…多分純粋に仲良くなってみたいんだ…」
彩乃の言葉に花緒はなるほど、と言うと、少し考えてからこほんと小さく咳払いをし、先程彩乃がしたのと同じように人差し指を立てて言った。
「それならまずは挨拶とか、少しずつ声かけるのが先決…じゃない?」
花緒はそう言ってにこりと笑うと、彩乃はハッとした顔をして大きく頷いた。
奥底でそう言う想いはあったものの、実は一度も瀏姫に声をかけた事がなかったのだ。
その事実に気がつくと、彩乃は早速瀏姫に声をかけようと立ち上がった。
しかし今はもう午後の授業前の休み時間。
おはようももうすでに過ぎている時間に気がつき、どう声をかけたらいいものかと悩むと、彩乃はしおしおと席について下を向いた。
「…明日からやろ?」
彩乃の様子に花緒はそう言ってポンと肩に手を置くと、彩乃は小さくうん、と答えて頷いた。
※ ※ ※
次の日の朝。
彩乃の家に迎えにきた花緒は一軒家のチャイムを押す。
しばらくするとバタバタと慌てた足音が聞こえて玄関から彩乃が飛び出してきた。
「おおん!花緒ちゃんおはよ!」
「あや…また寝坊しかけた?」
「えへへ…しかけた」
そう言って彩乃が笑うと、花緒は小さくため息を吐いて寝癖で乱れている彩乃の髪を手櫛で整える。
彩乃は大人しくそれを受けるとありがとうと言ってにこりと笑った。
するとまた家の方からバタバタと足音が聞こえ、二人は玄関の方を見ると彩乃の兄、種島仁志(たねじまひとし)が何かを持って飛び出してきた。
「ちょ!彩乃!弁当忘れてる!」
「ひぇ!あぶな!おにぃありがと!」
そう言って兄から弁当を受け取ると、彩ノはカバンの中に弁当を詰めた。
仁志はそれを見てはぁ、とため息を吐くと、花緒の方を見て困ったように笑った。
「朝からまたバタバタとごめんね」
「いえ、もう慣れました」
そう言って花緒が笑うと、仁志はそうかぁ慣れたかぁと言って苦笑していた。
そうして二人は仁志に見送られながら通学路を歩くと、途中で見慣れた背中が遠くに見えた。
「あ…」
彩乃は小さく声を漏らすと、花緒もその生徒に気がついた。
花緒はそれが瀏姫だと分かるとニコッと笑い彩乃の手をガッと掴むとグイッと引いて歩くスピードを上げた。
「わ!ちょ!花緒ちゃん!?」
「ほらほら勢いが取り柄のあやはどこ行ったの?挨拶行くよ!」
「ひぇ!待って心の準備ぃ!」
花緒に手を引かれながら彩乃は焦っていると、二人はあっという間に瀏姫の横に並んだ。
「おはよう華夜瀬さん」
「!?お…おはよ…御座います…」
花緒は瀏姫に挨拶をすると、瀏姫は突然の声かけにびっくりしながらも表情は崩さないまま挨拶を返した。
その様子に自分も挨拶を、と彩乃は小さく息を吸うと、瀏姫に挨拶をするため口を開いた。
「おは、おははお、おはよう華夜瀬さん!」
緊張がうまく解れぬまま彩乃は吃りながら挨拶をすると、瀏姫は一瞬目をまん丸にして彩乃を見た。
しかしそれもすぐ元の表情に戻すと瀏姫は彩乃にも挨拶を返した。
「お…はよう御座います」
「あ、うん…ごめんおはよう」
なんとなく脅かしてしまったような気がして彩乃は謝ってまた挨拶をすると、瀏姫小さく頷いた。
「あー…えっと私同じクラスの種島彩乃!でこっちの背が高いのが汐乃田花緒ちゃん!」
彩乃は歩きながら自己紹介をすると、瀏姫は二人の顔を見て会釈をし、二人の苗字を口にした。
「…種島さん…汐乃田さん…」
「!そう!宜しく華夜瀬さん!」
呼ばれた事が嬉しくて彩乃はにっこりと笑ってそう言うと、瀏姫はまた小さく会釈をした。
声をかけた事で少し話せるかもしれないと彩乃は嬉しくなると、他愛もない話をしながら一緒に学校へ行った。
下駄箱で靴を履き替え、一緒に教室に入るとそれぞれ席に行き鞄を机の横にかける。
そして彩乃は席を立って瀏姫の方を見ると、瀏姫は静かに本を読んでいた。
「まだ初日だから…ゆっくり話していけばいいよ」
花緒は彩乃の側に行ってそう言うと、彩乃はうん、と頷いてよし、と声を上げると、ぐっと拳を握って決意した。
「これからたくさん声をかけて仲良くなるぞぉ!」
「程々にね?」
一度やる気になると少々行き過ぎてしまう彩乃の性格を分かっていた花緒はそう言うと、彩乃はうん、と頷きながらも目は熱く輝いていた。
そして人との距離がとても遠くて無関心なのに、何かあれば目立たぬようにそっと手助けをする優しい子だった。
そんなクラスメイトの事が気になっている同じクラスの生徒、種島彩乃(たねじまあやの)は、今日も彼女を目で追っていた。
「あやぁ?また華夜瀬ウォッチしてんの?」
彩ノの前の席で椅子の背もたれの方に身体を向けて座る友人の汐乃田花緒(しおのだかお)はそう声をかけると、彩乃は唸りながら両腕を伸ばして机に突っ伏した。
「んん…だってぇ花緒ちゃん気にならない?華夜瀬さんなんで四字熟語なのぉとか、なんでポーカーフェイスなのぉとか、聞きたいじゃんそういうのぉ」
「まぁ気になりはするけど…デリケートな問題かもしれないじゃん?」
「その時は謝る!」
花緒の言葉に彩乃は上体を起こして背筋を伸ばしてキッパリと言うと、花緒は潔い、と小声で言って苦笑した。
そしてチラリと件の生徒、華夜瀬瀏姫(かやせるい)の方を見ると、瀏姫は静かに席に座って本を読んでいた。
「…何があやをそうさせるのかね…」
花緒は呆れたように言って彩乃を見ると、彩乃はんー、と言いながら考えるポーズを取る。
そしてハッとした顔をしてビシッと人差し指を立てた。
「ミステリアスだから…ではないでしょうか」
「ほぉ?その心は?」
カッと目を見開きながら花緒の目を見て彩乃が答えると、花緒は頬杖をついて笑って質問をした。
すると彩乃はまたんー、と言いながら考えると、あ、と声を漏らした。
「謎が多いほど色々知りたい…というか…多分純粋に仲良くなってみたいんだ…」
彩乃の言葉に花緒はなるほど、と言うと、少し考えてからこほんと小さく咳払いをし、先程彩乃がしたのと同じように人差し指を立てて言った。
「それならまずは挨拶とか、少しずつ声かけるのが先決…じゃない?」
花緒はそう言ってにこりと笑うと、彩乃はハッとした顔をして大きく頷いた。
奥底でそう言う想いはあったものの、実は一度も瀏姫に声をかけた事がなかったのだ。
その事実に気がつくと、彩乃は早速瀏姫に声をかけようと立ち上がった。
しかし今はもう午後の授業前の休み時間。
おはようももうすでに過ぎている時間に気がつき、どう声をかけたらいいものかと悩むと、彩乃はしおしおと席について下を向いた。
「…明日からやろ?」
彩乃の様子に花緒はそう言ってポンと肩に手を置くと、彩乃は小さくうん、と答えて頷いた。
※ ※ ※
次の日の朝。
彩乃の家に迎えにきた花緒は一軒家のチャイムを押す。
しばらくするとバタバタと慌てた足音が聞こえて玄関から彩乃が飛び出してきた。
「おおん!花緒ちゃんおはよ!」
「あや…また寝坊しかけた?」
「えへへ…しかけた」
そう言って彩乃が笑うと、花緒は小さくため息を吐いて寝癖で乱れている彩乃の髪を手櫛で整える。
彩乃は大人しくそれを受けるとありがとうと言ってにこりと笑った。
するとまた家の方からバタバタと足音が聞こえ、二人は玄関の方を見ると彩乃の兄、種島仁志(たねじまひとし)が何かを持って飛び出してきた。
「ちょ!彩乃!弁当忘れてる!」
「ひぇ!あぶな!おにぃありがと!」
そう言って兄から弁当を受け取ると、彩ノはカバンの中に弁当を詰めた。
仁志はそれを見てはぁ、とため息を吐くと、花緒の方を見て困ったように笑った。
「朝からまたバタバタとごめんね」
「いえ、もう慣れました」
そう言って花緒が笑うと、仁志はそうかぁ慣れたかぁと言って苦笑していた。
そうして二人は仁志に見送られながら通学路を歩くと、途中で見慣れた背中が遠くに見えた。
「あ…」
彩乃は小さく声を漏らすと、花緒もその生徒に気がついた。
花緒はそれが瀏姫だと分かるとニコッと笑い彩乃の手をガッと掴むとグイッと引いて歩くスピードを上げた。
「わ!ちょ!花緒ちゃん!?」
「ほらほら勢いが取り柄のあやはどこ行ったの?挨拶行くよ!」
「ひぇ!待って心の準備ぃ!」
花緒に手を引かれながら彩乃は焦っていると、二人はあっという間に瀏姫の横に並んだ。
「おはよう華夜瀬さん」
「!?お…おはよ…御座います…」
花緒は瀏姫に挨拶をすると、瀏姫は突然の声かけにびっくりしながらも表情は崩さないまま挨拶を返した。
その様子に自分も挨拶を、と彩乃は小さく息を吸うと、瀏姫に挨拶をするため口を開いた。
「おは、おははお、おはよう華夜瀬さん!」
緊張がうまく解れぬまま彩乃は吃りながら挨拶をすると、瀏姫は一瞬目をまん丸にして彩乃を見た。
しかしそれもすぐ元の表情に戻すと瀏姫は彩乃にも挨拶を返した。
「お…はよう御座います」
「あ、うん…ごめんおはよう」
なんとなく脅かしてしまったような気がして彩乃は謝ってまた挨拶をすると、瀏姫小さく頷いた。
「あー…えっと私同じクラスの種島彩乃!でこっちの背が高いのが汐乃田花緒ちゃん!」
彩乃は歩きながら自己紹介をすると、瀏姫は二人の顔を見て会釈をし、二人の苗字を口にした。
「…種島さん…汐乃田さん…」
「!そう!宜しく華夜瀬さん!」
呼ばれた事が嬉しくて彩乃はにっこりと笑ってそう言うと、瀏姫はまた小さく会釈をした。
声をかけた事で少し話せるかもしれないと彩乃は嬉しくなると、他愛もない話をしながら一緒に学校へ行った。
下駄箱で靴を履き替え、一緒に教室に入るとそれぞれ席に行き鞄を机の横にかける。
そして彩乃は席を立って瀏姫の方を見ると、瀏姫は静かに本を読んでいた。
「まだ初日だから…ゆっくり話していけばいいよ」
花緒は彩乃の側に行ってそう言うと、彩乃はうん、と頷いてよし、と声を上げると、ぐっと拳を握って決意した。
「これからたくさん声をかけて仲良くなるぞぉ!」
「程々にね?」
一度やる気になると少々行き過ぎてしまう彩乃の性格を分かっていた花緒はそう言うと、彩乃はうん、と頷きながらも目は熱く輝いていた。