泡が弾けて華が咲く
ゴリゴリと何かを砕く音が聞こえてきて澄尊は目を覚ます。
まだ起きていない頭のままゆっくりと身体を起こしてぼーっと部屋を見渡した。
見知らぬ部屋に澄尊は首を傾げてベッドから出ると、ふらふらとしたまま部屋のドアを開いた。
廊下に出るとどうやら今居るところは二階建ての二階の部屋だった。
澄尊はそこでぼんやりとあることを思い出した。
(そうだ…ここ叔父さんの家で…僕達引き取られたんだった…)
澄尊はそのことを思い出すと小さく欠伸をした。
するとまたゴリゴリという音が下の階から聞こえてきた。
あまりに聞き慣れていない音に澄尊は首を傾げながら階段をゆっくりと下りる。
階段を降りていくと、どうやらその音は台所から聞こえるようだ。
澄尊は一階の廊下に着くと、リビングに繋がるドアを開いた。
「お?澄尊お早う」
ドアを開いて中に入ると、ふわっと香ばしい香りが漂い、それと同時に叔父の洸朶が台所のカウンターから澄尊に声をかけた。
「…おはようございます」
澄尊がまだ眠そうな声で応えると、洸朶はふふっと笑った。
「今日は休みなんだから、まだ寝ててもいいんだよ?」
洸朶はそう言って下を向くと何かの作業を再開させる。
すると先ほど澄尊が聞いたゴリゴリという音が響き、澄尊はあ、と小さく声を漏らした。
「その音…」
「ん?あー、もしかしてこの音聞いて起きてきたのか…ごめんな」
「いえ…何の音ですか?」
澄尊は台所に入って洸朶の隣に並んで聞くと、洸朶は手元で作業をしていた道具を澄尊に見せた。
「これ、コーヒー豆を挽く音だよ」
そう言って道具についているハンドルを握り、グッと力を込めて回す。
すると先ほど聞いたゴリゴリという音が響き、香ばしい香りがあたり一面に広がった。
「…コーヒーってこう淹れるんですね…」
「ん?挽きたてのコーヒーは初めてか?」
「はい」
不思議そうに洸朶の手元を見つめたまま澄尊が返事をすると、洸朶は手を止めて澄尊の前に道具を移動させるとにこりと笑った。
「やってみる?」
そう聞くと澄尊は少し嬉しそうな顔をして道具を手に取ると、先ほど洸朶がしていたようにハンドルを回した。
しかしハンドルはうまく回らず、洸朶のような音は出ずにゴリッゴリッとつっかえた音を響かせた。
「意外と力いるだろ?」
あまりの硬さに澄尊はハンドルを握っていた手を放して軽く振ると、洸朶ははは、と笑って澄尊から道具を受け取った。
「これを回すには力とコツがいるんだよ」
そう言って洸朶はまたハンドルを握るとゴリゴリとコーヒー豆を挽いていく。
しばらくすると音は小さくなっていき、洸朶は手を止めて道具をとんとんと軽くたたきながら中をならして蓋を開けた。
「ほら、これを今度はここに入れてゆっくりとお湯を注ぐんだ」
洸朶は中を澄尊に見せると中の豆は細かくなっており、ふわりといい香りがした。
「起きてるなら澄尊の分も淹れておくから、着替えておいで」
「!はい」
洸朶の言葉に澄尊は返事をすると二階の部屋へ着替えに戻った。
パジャマを脱いで部屋着に着替えると、澄尊は一階の洗面所で顔を洗う。
タオルで水滴を拭ってリビングに戻ると、洸朶がゆっくりとお湯を注いでいた。
円を描くように細くゆっくりとお湯を注ぐと、フィルター内のコーヒーがふわふわな泡を立たせながら膨らんでいき、いっぱいになったところで注ぐのを止めた。
すると膨らんでいた泡がゆっくりと萎んでいき、下にコーヒーがゆっくりと落ちていく。
泡が無くなるとまた注ぎ、泡が膨らんだらまた注ぐのを止めて萎ませる。
そうして淹れられていくコーヒーを見て澄尊はまるで呼吸のようだと思いながら静かに眺めていた。
カウンター越しからその様子を見ている澄尊に気が付くと、洸朶はにこりと笑う。
すべてのお湯を注ぎ終え泡も萎み切ると、洸朶は戸棚からカップを二つ取り出す。
「少し飲んでみる?」
そう言ってコーヒーを少しだけ注いだカップをカウンターで見ていた澄尊に差し出すと、澄尊はカップを受け取ってちょびっと口に含んだ。
コーヒーの香りと共にふわりと苦みも口内で広がり、澄尊は思わず顔をしかめる。
洸朶はその顔を見て笑うと、冷蔵庫から牛乳と調味料棚から砂糖を取り出し、澄尊からカップを受け取った。
別のカップに牛乳と砂糖を入れて電子レンジに入れて温め、受け取ったカップにコーヒーを足す。
「飲めるようにするから、座って待ってて」
洸朶の言葉に澄尊は頷くと、椅子に座り流れているテレビのニュースに目を向けた。
しばらくすると電子レンジのチン、という音がし、それから少しして洸朶がカップを二つ持って席に着く。
そして持っていたカップを一つ澄尊に差し出してにこりと笑った。
「ほら、これなら多分美味しいぞ」
澄尊は洸朶からカップを受け取り中を覗くと、そこには牛乳が少し多めに入ったカフェオレが入っていた。
澄尊はそっとカップに口をつけて一口飲むと、先ほどよりもほんのりと優しく香るコーヒーのいい香りと牛乳と砂糖の甘みが広がり思わずほう、と息を吐いた。
「美味しいか?」
洸朶はその様子にニコニコとしながら聞くと、澄尊はハイ、と応えてまた一口カフェオレを飲んでにこりと笑った。
※ ※ ※
休日の朝、一人暮らしを始めて1年と数か月が経ち、叔父から貰ったコーヒーセットを取り出しコーヒーを淹れる準備をする。
ゴリゴリとする感触を感じながら澄尊はコーヒー豆を挽く。
豆は澄尊がハンドルを回す度にゴリゴリと音をさせながら砕かれていき、続けて挽いていくと豆は段々と小さくなり、音も先ほどよりもサラサラと小さな音へと変わっていった。
澄尊はハンドルから手を離し、トントンとコーヒーミルを揺すって蓋を開け中身を確認すると、豆は程よい大きさに砕かれており、それをセットしていたペーパーフィルターの中へと入れた。
入れ終わるとドリッパーがマグカップからずれていないか確認し、ドリップポットを手に取り注ぎ口からお湯を注ぐ。
ゆっくりと円を描きながら注ぐと、コーヒーはもこもこと膨らんだ。
澄尊はその様子を見ながら注いでいき、ある程度膨らんだら注ぐのをやめ、膨らみが萎んでいくのを待った。
萎んだらまたゆっくりとお湯を注ぎ、また膨らんだら注ぐのをやめる。
それを何度か繰り返すと、部屋の中はコーヒーの香ばしい香りに包まれていった。
カップ一杯分のお湯を注ぎ終え、コーヒーもすっかり萎んだらドリッパーを外す。
するとカップの中からほわりと湯気が踊り、良い匂いが澄尊の鼻をくすぐった。
澄尊はその出来にほっとして微笑むと、砂糖数個とミルクを入れてかき混ぜる。
一口飲むと叔父の淹れてくれていたものよりも少し雑味があるが、それでも美味しいと思える味に仕上がり、澄尊はにこりと嬉しそうに微笑んだ。
同時に誰かがリビングに入ってくる音がして、澄尊はそちらに目を向けると、そこには寝起きで目を擦りながらリビングに入ってきた瀏姫がいた。
「おはよう瀏姫」
「うん…おはよ」
欠伸をしながら挨拶を返す妹を見て澄尊はふふっと笑うと、戸棚からカップを一つ取り出す。
「コーヒー淹れるけど飲む?」
「うん」
「なら顔洗って着替えておいで。その間に淹れておくから」
澄尊がそう言うと瀏姫は頷いて洗面所へと移動した。
その様子を見て澄尊はコーヒーミルの蓋を開けると、中に一杯分のコーヒー豆を入れる。
蓋をしてハンドルを握りグッと力を込めて回し、またゴリゴリと挽き始めた。
瀏姫はその音を聞きながら顔を洗いタオルで拭うと、ハッとした顔をして洗面所から顔を出した。
「牛乳多め!」
「うん、分かった。作っておくよ」
澄尊がそう応えると、瀏姫は満足そうに頷き自分の部屋へと着替えに戻っていった。
「牛乳多めね…」
そう呟くと澄尊はまた笑いながらハンドルを回した。
挽いていく音と香ばしい香りに包まれながら澄尊は初めて挽きたてのコーヒーを洸朶と一緒に飲んだ日を思い出していた。
まだ起きていない頭のままゆっくりと身体を起こしてぼーっと部屋を見渡した。
見知らぬ部屋に澄尊は首を傾げてベッドから出ると、ふらふらとしたまま部屋のドアを開いた。
廊下に出るとどうやら今居るところは二階建ての二階の部屋だった。
澄尊はそこでぼんやりとあることを思い出した。
(そうだ…ここ叔父さんの家で…僕達引き取られたんだった…)
澄尊はそのことを思い出すと小さく欠伸をした。
するとまたゴリゴリという音が下の階から聞こえてきた。
あまりに聞き慣れていない音に澄尊は首を傾げながら階段をゆっくりと下りる。
階段を降りていくと、どうやらその音は台所から聞こえるようだ。
澄尊は一階の廊下に着くと、リビングに繋がるドアを開いた。
「お?澄尊お早う」
ドアを開いて中に入ると、ふわっと香ばしい香りが漂い、それと同時に叔父の洸朶が台所のカウンターから澄尊に声をかけた。
「…おはようございます」
澄尊がまだ眠そうな声で応えると、洸朶はふふっと笑った。
「今日は休みなんだから、まだ寝ててもいいんだよ?」
洸朶はそう言って下を向くと何かの作業を再開させる。
すると先ほど澄尊が聞いたゴリゴリという音が響き、澄尊はあ、と小さく声を漏らした。
「その音…」
「ん?あー、もしかしてこの音聞いて起きてきたのか…ごめんな」
「いえ…何の音ですか?」
澄尊は台所に入って洸朶の隣に並んで聞くと、洸朶は手元で作業をしていた道具を澄尊に見せた。
「これ、コーヒー豆を挽く音だよ」
そう言って道具についているハンドルを握り、グッと力を込めて回す。
すると先ほど聞いたゴリゴリという音が響き、香ばしい香りがあたり一面に広がった。
「…コーヒーってこう淹れるんですね…」
「ん?挽きたてのコーヒーは初めてか?」
「はい」
不思議そうに洸朶の手元を見つめたまま澄尊が返事をすると、洸朶は手を止めて澄尊の前に道具を移動させるとにこりと笑った。
「やってみる?」
そう聞くと澄尊は少し嬉しそうな顔をして道具を手に取ると、先ほど洸朶がしていたようにハンドルを回した。
しかしハンドルはうまく回らず、洸朶のような音は出ずにゴリッゴリッとつっかえた音を響かせた。
「意外と力いるだろ?」
あまりの硬さに澄尊はハンドルを握っていた手を放して軽く振ると、洸朶ははは、と笑って澄尊から道具を受け取った。
「これを回すには力とコツがいるんだよ」
そう言って洸朶はまたハンドルを握るとゴリゴリとコーヒー豆を挽いていく。
しばらくすると音は小さくなっていき、洸朶は手を止めて道具をとんとんと軽くたたきながら中をならして蓋を開けた。
「ほら、これを今度はここに入れてゆっくりとお湯を注ぐんだ」
洸朶は中を澄尊に見せると中の豆は細かくなっており、ふわりといい香りがした。
「起きてるなら澄尊の分も淹れておくから、着替えておいで」
「!はい」
洸朶の言葉に澄尊は返事をすると二階の部屋へ着替えに戻った。
パジャマを脱いで部屋着に着替えると、澄尊は一階の洗面所で顔を洗う。
タオルで水滴を拭ってリビングに戻ると、洸朶がゆっくりとお湯を注いでいた。
円を描くように細くゆっくりとお湯を注ぐと、フィルター内のコーヒーがふわふわな泡を立たせながら膨らんでいき、いっぱいになったところで注ぐのを止めた。
すると膨らんでいた泡がゆっくりと萎んでいき、下にコーヒーがゆっくりと落ちていく。
泡が無くなるとまた注ぎ、泡が膨らんだらまた注ぐのを止めて萎ませる。
そうして淹れられていくコーヒーを見て澄尊はまるで呼吸のようだと思いながら静かに眺めていた。
カウンター越しからその様子を見ている澄尊に気が付くと、洸朶はにこりと笑う。
すべてのお湯を注ぎ終え泡も萎み切ると、洸朶は戸棚からカップを二つ取り出す。
「少し飲んでみる?」
そう言ってコーヒーを少しだけ注いだカップをカウンターで見ていた澄尊に差し出すと、澄尊はカップを受け取ってちょびっと口に含んだ。
コーヒーの香りと共にふわりと苦みも口内で広がり、澄尊は思わず顔をしかめる。
洸朶はその顔を見て笑うと、冷蔵庫から牛乳と調味料棚から砂糖を取り出し、澄尊からカップを受け取った。
別のカップに牛乳と砂糖を入れて電子レンジに入れて温め、受け取ったカップにコーヒーを足す。
「飲めるようにするから、座って待ってて」
洸朶の言葉に澄尊は頷くと、椅子に座り流れているテレビのニュースに目を向けた。
しばらくすると電子レンジのチン、という音がし、それから少しして洸朶がカップを二つ持って席に着く。
そして持っていたカップを一つ澄尊に差し出してにこりと笑った。
「ほら、これなら多分美味しいぞ」
澄尊は洸朶からカップを受け取り中を覗くと、そこには牛乳が少し多めに入ったカフェオレが入っていた。
澄尊はそっとカップに口をつけて一口飲むと、先ほどよりもほんのりと優しく香るコーヒーのいい香りと牛乳と砂糖の甘みが広がり思わずほう、と息を吐いた。
「美味しいか?」
洸朶はその様子にニコニコとしながら聞くと、澄尊はハイ、と応えてまた一口カフェオレを飲んでにこりと笑った。
※ ※ ※
休日の朝、一人暮らしを始めて1年と数か月が経ち、叔父から貰ったコーヒーセットを取り出しコーヒーを淹れる準備をする。
ゴリゴリとする感触を感じながら澄尊はコーヒー豆を挽く。
豆は澄尊がハンドルを回す度にゴリゴリと音をさせながら砕かれていき、続けて挽いていくと豆は段々と小さくなり、音も先ほどよりもサラサラと小さな音へと変わっていった。
澄尊はハンドルから手を離し、トントンとコーヒーミルを揺すって蓋を開け中身を確認すると、豆は程よい大きさに砕かれており、それをセットしていたペーパーフィルターの中へと入れた。
入れ終わるとドリッパーがマグカップからずれていないか確認し、ドリップポットを手に取り注ぎ口からお湯を注ぐ。
ゆっくりと円を描きながら注ぐと、コーヒーはもこもこと膨らんだ。
澄尊はその様子を見ながら注いでいき、ある程度膨らんだら注ぐのをやめ、膨らみが萎んでいくのを待った。
萎んだらまたゆっくりとお湯を注ぎ、また膨らんだら注ぐのをやめる。
それを何度か繰り返すと、部屋の中はコーヒーの香ばしい香りに包まれていった。
カップ一杯分のお湯を注ぎ終え、コーヒーもすっかり萎んだらドリッパーを外す。
するとカップの中からほわりと湯気が踊り、良い匂いが澄尊の鼻をくすぐった。
澄尊はその出来にほっとして微笑むと、砂糖数個とミルクを入れてかき混ぜる。
一口飲むと叔父の淹れてくれていたものよりも少し雑味があるが、それでも美味しいと思える味に仕上がり、澄尊はにこりと嬉しそうに微笑んだ。
同時に誰かがリビングに入ってくる音がして、澄尊はそちらに目を向けると、そこには寝起きで目を擦りながらリビングに入ってきた瀏姫がいた。
「おはよう瀏姫」
「うん…おはよ」
欠伸をしながら挨拶を返す妹を見て澄尊はふふっと笑うと、戸棚からカップを一つ取り出す。
「コーヒー淹れるけど飲む?」
「うん」
「なら顔洗って着替えておいで。その間に淹れておくから」
澄尊がそう言うと瀏姫は頷いて洗面所へと移動した。
その様子を見て澄尊はコーヒーミルの蓋を開けると、中に一杯分のコーヒー豆を入れる。
蓋をしてハンドルを握りグッと力を込めて回し、またゴリゴリと挽き始めた。
瀏姫はその音を聞きながら顔を洗いタオルで拭うと、ハッとした顔をして洗面所から顔を出した。
「牛乳多め!」
「うん、分かった。作っておくよ」
澄尊がそう応えると、瀏姫は満足そうに頷き自分の部屋へと着替えに戻っていった。
「牛乳多めね…」
そう呟くと澄尊はまた笑いながらハンドルを回した。
挽いていく音と香ばしい香りに包まれながら澄尊は初めて挽きたてのコーヒーを洸朶と一緒に飲んだ日を思い出していた。