泡が弾けて華が咲く

午後受けるはずだった講義は休講となり、澄尊きよたかはいつもより早めの帰宅をしていた。

「バイト入れれたなぁ…」

そう呟きながら自室に荷物を置き、洗面所で手洗いうがいを済ませるとリビングへと移動してソファーに腰をかけた。
時刻は午後一時。
課題は溜まっていないので少しの打ち込みで終わるものしかなく、それならばと澄尊は立ち上がると腕まくりをした。

「久々に掃除しよう」

そう言うと早速洗面所へと向かい洗濯機の前に立つと、洗濯籠の中から溜まっていた衣類やタオルを入れていく。
全て入れ終わると洗濯機のボタンを操作してスタートを押し、水位を確認して洗濯洗剤と専用の投入場所に柔軟剤を入れて蓋を閉める。
うんうんと唸り声をあげて動き出す洗濯機を確認すると、次は風呂場へと入った。
普段から壁の水滴や乾燥を心掛けているのでそこまで汚くなっていないのだが、折角だからと澄尊はスプレー型の洗剤とスポンジを手に取ると、風呂釜から壁まですべてを洗浄していった。
やり始めると汚れが落ちて奇麗になっていく様子が楽しくなり、隅から隅まで細かく洗い続けた。
暫くすると澄尊は一息ついてからスポンジを置き、シャワーを取り水を出して泡を洗い流す。
すると風呂場は入居した当時のようにピカピカになり、澄尊は満足そうににこりと笑った。
洗面所から出ると次は掃除機を取り出して床の掃除を始める。
玄関からすべての部屋の床の埃等を吸い込ませ、最後にリビング全体を掃除してから顔を上げた。
ふと、リビングの壁にある時計に目を向けると、時刻は午後三時を示しており澄尊はん?と首を傾げた。
いつの間にやら二時間経過していたようで、ここであることに気が付き澄尊はあ、と声を上げて洗面所へと移動した。
洗面所に着き洗濯機を見るとずいぶん前に仕事を終えていたようで、澄尊はあー、と声を漏らしながら洗い終えた洗濯物を洗濯籠へと移動させた。
そして壁と洗濯機の隙間に置いてある折り畳みハンガー二つとハンガーを数本持ち、洗濯籠と一緒にリビングへと運ぶ。
リビングまで運ぶと一度床に置き、部屋干し用の折り畳みの干し場を広げてそこに持ってきたハンガーを全てかけると、洗濯籠を近くまで運んで中にある洗濯物を干していった。
洗い終えてから暫く放置してしまった為、妹の学生服のワイシャツは少し皺になってしまっていた。
澄尊は申し訳ないと思いながら皺を伸ばせるだけ伸ばして干していった。
自分の服と妹の服を分けて干し終え、ふぅ、と一息をついていると玄関からガチャリと鍵が開く音がした。
どうやら瀏姫るいが帰ってきたようで澄尊は空になった洗濯籠を洗面所に戻すと、そのまま出迎えに玄関へと向かった。

「お帰り瀏姫」

「?…ただいま?」

玄関のドアが開き瀏姫が部屋に入ると、いつもより早い時間に家にいる兄の姿を見て瀏姫は首を傾げた。

「…與羽風駆」

「あー、うん。今日は午後の講義が休講になったんだよ」

瀏姫の言葉に澄尊はそう答えると、瀏姫は納得したように頷き、靴を脱いで上がると自分の部屋へと移動した。
その時に昨日まで少し埃があった廊下がきれいになっていることに気が付き、瀏姫はまたも首を傾げる。
自分の部屋に入るとこちらの床も奇麗になっており、瀏姫は荷物を置いて部屋着に着替えると洗面所に向かい、手洗いとうがいを済ませるとリビングに入った。
リビングに入ると台所では澄尊が夕飯の支度を始めていたので、瀏姫は支度をしている澄尊の隣に立つとぽつりと一言呟いた。

「…掃除」

妹の声に澄尊はうんと頷くとにこりと笑って答えた。

「うん、したよ。床と風呂場と…あと洗濯!瀏姫みたいに手際よくないから時間かかっちゃったけど」

「一意専心」

瀏姫がポツリとそう言うと、澄尊はそうだね、と応えて笑う。

「つい集中し過ぎちゃってね。他も掃除してたら危なかったかも」

「光陰矢のごとし」

「はい、気をつけます」

澄尊はしゅんとしてそう言うと、瀏姫はこくりと頷いて夕飯の支度を手伝った。
澄尊が料理をし始めると、掃除の時とは打って変わって三品の料理が手際よく次々に出来上がる。
澄尊はそれをお盆に乗せて机に運んでいくと、皿や箸を並べていた瀏姫は少し唸って首を傾げた。

「掃除、一意専心…料理、円滑洒脱…何故?」

「うーん…なんでだろうね?」

澄尊も瀏姫の言葉に笑いながら首を傾げた。
夕飯の準備が整いエプロンを外して席に着くと、瀏姫に食べようかと声をかけた。
その言葉に瀏姫も習って席に着くと、ニ人は手を合わせた。

「いただきます」

「…いただきます」

ニ人は声を合わせてそう言うと静かに夕飯を食べ始めた。
3/8ページ
スキ