泡が弾けて華が咲く

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あの日、両親が亡くなってから思い出せるのは、木魚とお坊さんのお経の声、そして部屋に充満する焼香の香りだった。

「かわいそうに…」

「まだあんなに小さいのに…」

周りからは自分たちに向けて言われているであろう言葉がぽつりぽつりと聞こえてくる。
その度に兄、澄尊きよたかはまだ自分が未熟な子供であるという事実を理解し下を向いた。

(これから…僕がしっかりしないと…今よりも…もっとしっかりしないと…)

そう思う度に心の中で何かが泡立ち、ふわりと自分の中から抜けていき、パチンパチンと音を立てて消えていく。
その感覚を静かにぼんやりと感じていると、突然誰かが袖をくいっと引いてきた。
澄尊は引かれた方に目を向けると、そこには同じように下を向いて何かに堪えている妹、瀏姫るいの姿があった。

「大丈夫…お兄ちゃんが居るよ…」

澄尊はそう言いながら片腕を瀏姫の肩に回してそっと引き寄せると、瀏姫は下を向いたまま澄尊に抱きつき静かに泣いた。
泣いている妹の頭を優しく撫でながら、澄尊は両親の遺影を眺めた。
写真の中の二人はとても幸せそうに微笑んでいる。
その笑顔を眺めていると、澄尊の心の中でひと際大きな泡が立ち、バチンと大きな音を立てて弾けた。
その音と共に澄尊の心はずきりと痛み、また下を向き微かに震えた手をぎゅっと握りしめた。

※ ※ ※

葬儀は淡々と進み、喪主を務めてくれた母の弟、叔父の洸朶こうたが最後の挨拶を述べると、部屋の隅に座る二人を見つけた。

「疲れたか?」

洸朶は優しく声をかけて二人の近くに行くと、澄尊は洸朶の方に顔を向けて首を横に振った。

「ごめんなさい…大丈夫です。片付け…手伝います」

「いや、大人に任せていいよ。休んでて」

そう言って立ち上がろうとする澄尊の肩に洸朶は手を添えて言うと、澄尊は困ったような顔をしてから素直に座り直した。
その様子を見てから洸朶もその場で胡坐をかいて澄尊の目を見る。
そして何か話そうとするものの少し躊躇し、小さく深呼吸をすると真剣な顔をして口を開いた。

「今後の事なんだけど…良かったらうちに来ないか…?」

洸朶がそう言うと、澄尊はそっと俯いてから顔を上げて申し訳なさそうな顔をした後ぎこちなく笑ってはい、と返事を返した。
今の澄尊には叔父の負担になると分かっていても、それ以外の回答は見当たらなかったからだ。

※ ※ ※

それから数年経ち、澄尊は大学二年、瀏姫は高校一年生となり、今では叔父の元を離れて二人で暮らしていた。
玄関のチャイムが鳴り、澄尊がインターフォンから応対すると宅配だった。
澄尊は今開けます、と言うと玄関へ行き、荷物を受け取ってドアを閉める。
受け取った荷物の宛先を見ると、澄尊はあっ、と声を漏らして笑顔になった。

「誰?」

瀏姫は玄関からリビングに帰ってきた兄の方へ行くと、持っている荷物を見て首を傾げた。

「洸朶さんだよ。また食材とか送ってくれたみたいだ」

澄尊はそう言ってにこりと笑うと、荷物をダイニングテーブルの上に下ろした。

「感恩戴徳」

「うん、感謝しないとね」

瀏姫の言葉に澄尊は頷くと荷物の封を開ける。
そこには食材と衣類と手紙が入っており、二人は覗き込んだあと顔を合わせた。
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