公私混同しないジンニキ
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『こちら ──……指定エリアに着きました』
『あたいとコルンもOKだよ』
『よし……ウォッカが張っているターゲットが動きを見せ次第、指示を出す…それまで動くな』
了解、と小さく呟くとイヤホンの音声がブツリと切れる。
私は拳銃の具合を確かめ、死角となっている壁に背を当て慎重にエリア全体の様子を覗き見た。
今回の任務は逃げ出した交渉相手の抹殺。そしてここは奴が駆け込み隠れた廃墟ビル。もう奴に逃げ場はなかった。
ウォッカさんが奴を追い詰め、生き延びたいという本能に駆られて飛び出してきたところを、その時近場にいる私達の誰かが仕留める。
つまり、最後に殺す役目は誰が担おうがいいのだ。
だが、私は願わくば……と思わずにはいられなかった。
(私のところに来て……そうしたら)
拳銃を握る手に力が入る。
奴が誰だとか組織にとってどの程度の脅威なのかとかは、正直どうでもいい。
それよりも、私がこの任務の要の役目を見事果たすことが出来るかどうか。出来たのならば、この作戦の指揮を執るジンさんに認めてもらえる。彼の役に立てる。
それが、しがない構成員でしかない私の唯一の願いだった。
そう意気込んではいたものの、今回の任務は決して難しいものではないし、広範囲を狙えるキャンティさんやコルンさんがいる以上私の出番は限りなくゼロに近いだろう。いつも通りの結果が見えてしまい、気配に出さないよう、静かに息をついた。
その直後だった。
ドンッという衝撃に地面が揺れ、至る所からガラスが砕け散る音がした。爆発だろうか、たちまち辺りは煙が立ち込め視界が狭められていく。
無線がザザッと掠れた音を立てた。
『ウォッカ!』
『すいやせん!もう一人仲間がいたようで!その仲間の方は既に殺ったんですが……!』
『チッ……全員指示通りに動け、勝手な行動はするんじゃねぇぞ』
イヤホンから聞こえる声に、思わず焦りに任せて動きかけた体が止まった。こういう時のジンさんの冷静さは尊敬に値する。
ここで動き回れば相手の思う壺、ジンさんの言う通りここは慎重に……と思ったその時。
運悪く、いや、運良く私の目は視界の端に動く影を捉えてしまった。気付けば私の足は、力の限り地面を蹴っていた。
「ジンさん、ターゲット捕捉しました、追います……っ!」
『おい、待て……!!』
制止の声が聞こえた気もするが、自分の足音で掻き消されてしまっていた。
目の前に獲物が自ら来てくれたことへの喜びと、今追えるのは自分しかいないという使命感が身を震わせる。
「なっ、てめぇ!!」
こちらに気付いた男が驚きの声を上げる。顔が引きつっているようにも見えたから、今の私はなかなかに鬼気迫った形相をしているのかもしれないと遠くで思った。
男は手にしていた拳銃でこちらへと狙いを定める。しかしもう足は止まらない。逃がさないとばかりに怯まず走る私に怖気付いた男ががむしゃらに数発発砲をしてきた。
そのうちの一発が足を掠めるが、その痛みに失速するより、私が男の元へ辿り着く方が速かったようだ。腰を抜かした男と、まだ余裕さを残す私。これほどまでわかりやすい勝敗はないだろう。
「終わり、です」
銃声がビル内に響き渡った。
--------------------
「しっかしまあ、アンタも無茶をしたもんだ」
「あはは……すみません突っ走っちゃって」
「ホントホント……アタイ達も心配したんだよ?」
「驚いた」
「ご心配をおかけしました……でも無事に片付いて良かったです!」
作戦遂行後、アジトで手当を受けていた私の元にウォッカさん達が来てくれていた。
ジンさんはあの方へ今回の任務の報告をしに行っている。
(……褒めてくれると思ったんだけどなぁ)
帰り道、ジンさんの車の中は氷点下かというレベルで最悪な雰囲気だった。何せジンさんが終始無言だったのだ。もうとにかくいたたまれなくて運転席にいたウォッカさんに鏡越しに「なんで?」と視線で問いかけたが、ウォッカさんはただ肩を竦めて笑うだけだった。やっぱりもっと上手く立ち回るべきだったのだろうか。
「うぅん……あたっ!」
グルグルと考え唸り声をあげる私の頭をキャンティさんがコツンと叩いた。何故か笑顔だ。
「しけた顔してんじゃないよ!この作戦が成功に終わったのもアンタのおかげなんだから」
「俺もそう思う」
「お二人共……ありがとうございます」
「お、ジン帰ってきたよ」
「あ……」
キャンティさんがほら、と指した方からジンさんが歩いてくるのが見える。
やっぱりどこか不機嫌そうに見えて、ごくりと唾を飲んだ。ますます気が重くなるが、何せ心当たりのない私は首を捻ることしか出来ない。
「悠芽、立て」
「……はい」
名を呼ばれ、私は静かに立ち上がった。
「怪我は」
「足を掠めた程度なので……問題はありません」
聞かれたことに普通に答えただけなのに、ジンさんが一層眉を寄せたのを見て冷や汗が止まらない。ウォッカさんは私とジンさんを交互に見ては、オロオロとしていた。キャンティさん達も何故か留まって話を聞いているようだった。
「俺の指示を無視したな」
「……はい」
「答えろ、何故勝手な行動を取った」
半端な答えは許さないとジンさんの灰緑の双眼が告げている。私は背筋を伸ばして、思うままを答えた。
「すみません……ですが、あの時あの場所で対応出来たのは私しかいませんでした」
「ほう」
瞬間、意識が遠のいた。
ガッという音の後、受けた重い衝撃に為す術もなく体が地面へと投げ出される。
遅れてやってきた熱と尋常ではない鈍痛に、頬を殴られたのだと知った。
「ぅぐ……っ」
「ちょっとジン、いきなりなんだい!?」
「黙ってろキャンティ」
動けない私にキャンティさんが駆け寄り体を起こしてくれた。
何とか腕を動かし頬を触る。良かった、歯は折れて無さそうだ。それだけでもマシな方だろう、ジンさんが本気を出せば顔の骨を砕くことなど造作もないのだから。
呻き声しかあげることの出来ない私に、ジンさんの冷めた声が降り注ぐ。
「今回は"運良く"成功に終わったがな……テメェのその勝手な行動で下手すれば部隊が全滅していた可能性があったことを忘れるな」
「……っ、ぐ」
「指示も聞かず勝手に行動する奴は俺の元にはいらねぇ。次同じことをしたら俺は容赦なくテメェを切り捨てる」
「は、い……申し訳、ございません、でした……」
殴られた頬の痛みか、ジンさんに軽蔑された心の痛みか。浮かびそうになる涙を歯を食いしばり耐えることが今の私に残されたプライドだった。
そんな私を一瞥し背を向けて去るジンさんを、私はぼんやりと見送ることしか出来なかった。
「まぁ、兄貴の気持ちも分からなくはないけどな」
キャンティさんとコルンさんに支えられ立ち上がった私にウォッカさんはそう言った。呆れ笑いのような顔を見せた後、彼はジンさんを追いかけて行ってしまった。
静寂が重い。耐えきれず、私はゆっくりと歩き出した。
「……帰りますね」
「……そうかい。ちゃんと頬は冷やしなよ?」
背中にかけられる暖かい言葉が、今は苦しくて仕方なかった。
『あたいとコルンもOKだよ』
『よし……ウォッカが張っているターゲットが動きを見せ次第、指示を出す…それまで動くな』
了解、と小さく呟くとイヤホンの音声がブツリと切れる。
私は拳銃の具合を確かめ、死角となっている壁に背を当て慎重にエリア全体の様子を覗き見た。
今回の任務は逃げ出した交渉相手の抹殺。そしてここは奴が駆け込み隠れた廃墟ビル。もう奴に逃げ場はなかった。
ウォッカさんが奴を追い詰め、生き延びたいという本能に駆られて飛び出してきたところを、その時近場にいる私達の誰かが仕留める。
つまり、最後に殺す役目は誰が担おうがいいのだ。
だが、私は願わくば……と思わずにはいられなかった。
(私のところに来て……そうしたら)
拳銃を握る手に力が入る。
奴が誰だとか組織にとってどの程度の脅威なのかとかは、正直どうでもいい。
それよりも、私がこの任務の要の役目を見事果たすことが出来るかどうか。出来たのならば、この作戦の指揮を執るジンさんに認めてもらえる。彼の役に立てる。
それが、しがない構成員でしかない私の唯一の願いだった。
そう意気込んではいたものの、今回の任務は決して難しいものではないし、広範囲を狙えるキャンティさんやコルンさんがいる以上私の出番は限りなくゼロに近いだろう。いつも通りの結果が見えてしまい、気配に出さないよう、静かに息をついた。
その直後だった。
ドンッという衝撃に地面が揺れ、至る所からガラスが砕け散る音がした。爆発だろうか、たちまち辺りは煙が立ち込め視界が狭められていく。
無線がザザッと掠れた音を立てた。
『ウォッカ!』
『すいやせん!もう一人仲間がいたようで!その仲間の方は既に殺ったんですが……!』
『チッ……全員指示通りに動け、勝手な行動はするんじゃねぇぞ』
イヤホンから聞こえる声に、思わず焦りに任せて動きかけた体が止まった。こういう時のジンさんの冷静さは尊敬に値する。
ここで動き回れば相手の思う壺、ジンさんの言う通りここは慎重に……と思ったその時。
運悪く、いや、運良く私の目は視界の端に動く影を捉えてしまった。気付けば私の足は、力の限り地面を蹴っていた。
「ジンさん、ターゲット捕捉しました、追います……っ!」
『おい、待て……!!』
制止の声が聞こえた気もするが、自分の足音で掻き消されてしまっていた。
目の前に獲物が自ら来てくれたことへの喜びと、今追えるのは自分しかいないという使命感が身を震わせる。
「なっ、てめぇ!!」
こちらに気付いた男が驚きの声を上げる。顔が引きつっているようにも見えたから、今の私はなかなかに鬼気迫った形相をしているのかもしれないと遠くで思った。
男は手にしていた拳銃でこちらへと狙いを定める。しかしもう足は止まらない。逃がさないとばかりに怯まず走る私に怖気付いた男ががむしゃらに数発発砲をしてきた。
そのうちの一発が足を掠めるが、その痛みに失速するより、私が男の元へ辿り着く方が速かったようだ。腰を抜かした男と、まだ余裕さを残す私。これほどまでわかりやすい勝敗はないだろう。
「終わり、です」
銃声がビル内に響き渡った。
--------------------
「しっかしまあ、アンタも無茶をしたもんだ」
「あはは……すみません突っ走っちゃって」
「ホントホント……アタイ達も心配したんだよ?」
「驚いた」
「ご心配をおかけしました……でも無事に片付いて良かったです!」
作戦遂行後、アジトで手当を受けていた私の元にウォッカさん達が来てくれていた。
ジンさんはあの方へ今回の任務の報告をしに行っている。
(……褒めてくれると思ったんだけどなぁ)
帰り道、ジンさんの車の中は氷点下かというレベルで最悪な雰囲気だった。何せジンさんが終始無言だったのだ。もうとにかくいたたまれなくて運転席にいたウォッカさんに鏡越しに「なんで?」と視線で問いかけたが、ウォッカさんはただ肩を竦めて笑うだけだった。やっぱりもっと上手く立ち回るべきだったのだろうか。
「うぅん……あたっ!」
グルグルと考え唸り声をあげる私の頭をキャンティさんがコツンと叩いた。何故か笑顔だ。
「しけた顔してんじゃないよ!この作戦が成功に終わったのもアンタのおかげなんだから」
「俺もそう思う」
「お二人共……ありがとうございます」
「お、ジン帰ってきたよ」
「あ……」
キャンティさんがほら、と指した方からジンさんが歩いてくるのが見える。
やっぱりどこか不機嫌そうに見えて、ごくりと唾を飲んだ。ますます気が重くなるが、何せ心当たりのない私は首を捻ることしか出来ない。
「悠芽、立て」
「……はい」
名を呼ばれ、私は静かに立ち上がった。
「怪我は」
「足を掠めた程度なので……問題はありません」
聞かれたことに普通に答えただけなのに、ジンさんが一層眉を寄せたのを見て冷や汗が止まらない。ウォッカさんは私とジンさんを交互に見ては、オロオロとしていた。キャンティさん達も何故か留まって話を聞いているようだった。
「俺の指示を無視したな」
「……はい」
「答えろ、何故勝手な行動を取った」
半端な答えは許さないとジンさんの灰緑の双眼が告げている。私は背筋を伸ばして、思うままを答えた。
「すみません……ですが、あの時あの場所で対応出来たのは私しかいませんでした」
「ほう」
瞬間、意識が遠のいた。
ガッという音の後、受けた重い衝撃に為す術もなく体が地面へと投げ出される。
遅れてやってきた熱と尋常ではない鈍痛に、頬を殴られたのだと知った。
「ぅぐ……っ」
「ちょっとジン、いきなりなんだい!?」
「黙ってろキャンティ」
動けない私にキャンティさんが駆け寄り体を起こしてくれた。
何とか腕を動かし頬を触る。良かった、歯は折れて無さそうだ。それだけでもマシな方だろう、ジンさんが本気を出せば顔の骨を砕くことなど造作もないのだから。
呻き声しかあげることの出来ない私に、ジンさんの冷めた声が降り注ぐ。
「今回は"運良く"成功に終わったがな……テメェのその勝手な行動で下手すれば部隊が全滅していた可能性があったことを忘れるな」
「……っ、ぐ」
「指示も聞かず勝手に行動する奴は俺の元にはいらねぇ。次同じことをしたら俺は容赦なくテメェを切り捨てる」
「は、い……申し訳、ございません、でした……」
殴られた頬の痛みか、ジンさんに軽蔑された心の痛みか。浮かびそうになる涙を歯を食いしばり耐えることが今の私に残されたプライドだった。
そんな私を一瞥し背を向けて去るジンさんを、私はぼんやりと見送ることしか出来なかった。
「まぁ、兄貴の気持ちも分からなくはないけどな」
キャンティさんとコルンさんに支えられ立ち上がった私にウォッカさんはそう言った。呆れ笑いのような顔を見せた後、彼はジンさんを追いかけて行ってしまった。
静寂が重い。耐えきれず、私はゆっくりと歩き出した。
「……帰りますね」
「……そうかい。ちゃんと頬は冷やしなよ?」
背中にかけられる暖かい言葉が、今は苦しくて仕方なかった。
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