第一印象が最悪だった話。
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人間という生き物はその知性の高さ故、何の脈絡もなく爆弾発言をされたら脳の処理が追いつかないもので。
「ああ、明日あなたのお見合い相手が来るから。支度しておきなさいね」
「ブフッ!!」
何の変哲もないいつも通りの夕食の時間、私が飲んでいたお水を吹き出したことも致し方ないことなのではないだろうか。
--------------------
高校入学と同時に親にその職業をカミングアウトされるまで、この家は至って普通の家庭なのだと思っていた。
いつもほんわかしていて危なっかしい、天然だが明るく優しい両親は、名前は伏せるがそれはそれは大きくて真っ黒な組織の一員らしい。何度説明を受けても信じられないのだが、そう言えば両親は己の仕事について私に聞かれても頑なに教えようとしてこなかったな、と納得せざるを得なかった。
「ごめんねぇ、流石に組織も貴方の存在を無視することが出来なくなっちゃったみたいで」
随分と物騒なことをさらりと言ってのけるお母さん。
「まあ、まだ高校生だし、いきなり組織の仕事やれー!とかは言わないはずだから大丈夫だよ、今まで通りの生活をしてくれたら」
何が大丈夫なのかお父さん。
聞けば聞くほどやばい発言しか飛ばなくなった真っ黒な組織について、ついに私はその存在を容認せざるを得なくなってしまったのだ。非常に不本意だけど。
ちなみに両親は人殺し"は"したことがないらしい。それを聞いて話を膨らませようなどと思うほど私は肝は据わっていなかった。
私の両親のドデカイ隠し事を知ってから数年後、私は無事に高校を卒業し、立派に成人を迎え、立派に両親の仕事を手助けできるようになりましたとさ。めでたしめでたし。
「……んなわけあるかぁ!!!」
「ちょっと、いきなりなぁに?近所迷惑よ?」
「私達の存在の方が近所迷惑だわ!!」
わざとバチンバチンと音を鳴らしてキーボードを叩く。
蛙の子は蛙なんてクソ喰らえだわ!!!(意味違うけど)
何で当たり前のように私は親と同じ仕事してんの!?ってかこの回ってくる書類、全部なんかの契約書だし、こっっわ!!
折角出来た友達とも連絡が取れないようにされた為に私の組織への印象はただ下がり一方だった。こうなるくらいなら初めからそういう方面の教育してくれれば良かったのに。下手にカタギの世界で生きてきた私にとっては、ストレスでしかない。自分のどこか知り得ぬところで、毎日命のやり取りが行われていると思うとゾッとする。
毎日キレ気味に謎の仕事をこなしていた時だった、もう一つのカミングアウトを母親にくらったのは。
冒頭の爆弾発言がそれだ。
「は? 私お見合いなんて知らないんだけど」
「あらやだ、言ってなかったっけ?貴方を嫁に貰いたいって言う方がいるの」
「それ、どこの人」
「私達の上司にあたる、組織の幹部よ〜」
「却下!!!」
流石にこの両親一発ぶん殴ってもいい?
いいよね?許されるよね?私悪くないよね!?
何でそう言う大事なことを全部後出しで言うのか。しかもお見合い?上司?幹部?
「まあまあ、明日会えばわかるから」
「もうやだ……おうちかえる……」
「この子ったらー! ここがお家でしょ〜?」
テーブルに叩きつけた両手が地味に痛かった。どうやら決定事項らしい。自室にはいつの間にか上等な着物が用意されていた。破り捨ててやろうかと本気で考えた。
--------------------
「あとは若いお二人で、ね?」
「ジン様、娘をよろしくお願いします」
「ではラム様、こちらでお話を……」
見合いの常套句を告げて笑う両親を恨みを込めて睨みつける。トン、と襖が閉まり、全く心地の良くない静寂が流れ出した。
目の前にいる男をじっと見つめる。今は庭を眺めてぼうっとしている様子だったので今がチャンスと無遠慮に観察した。
流石に組織についてまだまだ詳しくない私でもこの男のことは知っていた。
コードネームはジン。
何回か仕事の様子を見に家に来たことがあるから風貌もある程度は覚えていた。挨拶程度にしか話したことは無いが。歳はもちろん上。さすが幹部と言われるだけの貫禄があるが、いつもの黒ずくめの格好ではなく和服だったのがいい緩和剤になっているのか、やけに様になっていた。顔はいいし。目付きクソ悪いけど。
(にしても、この空気どうにかしたい……!)
とにかく無言。この部屋に通されてからこの男がまともに話しているのを見たことがない。聞かれたことは隣にいたラムという、これもまた目上の人間が答えていたからだ。
どうしたものかと思っていると、パチリと目が合ってしまった。思わずひきつりそうな顔を何とか戻し愛想笑いで誤魔化したが、何故か彼はめちゃくちゃ不機嫌そうに顔を歪めた。
「……おい」
「はい」
「その笑い方やめろ」
「え?」
「気持ち悪ぃんだよ」
心のゴングが鳴った気がした。
「へぇ、それは申し訳ありませんでした、こういう顔しか出来ないものでして」
「はっ、今時アンドロイドの方がましな笑顔作るぜ」
「まあこういう所で女性に話も振れない殿方よりはマシかと思いますけどね」
「悪ぃな、もう少し可愛げのある女だったら少しは優しくしてやれるんだがな」
まさしく言葉のドッヂボール。
嘲るような笑い方に私のキレゲージが一気に頂点に達した。
低レベルな会話をしていることに気付けるほど、この時の私は冷静じゃなかったと後で思う。何せ頭に血が上っていたのだ。
こいつ、こいつ嫌い!絶対に馬が合わない、こんな奴と同棲なんかしたらほんっっっっとうに気が狂う!!絶対嫌!!
絶対断ってやるという強い意志で立ち上がり、襖を開けて片手で退出を促した。
「可愛げのある女がお望みなら今すぐ帰っていただけます? 生憎元々結婚などする気はありませんから!!」
「いいのか?これだけお前らにとっていい話はねぇだろうに」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
先程までと打って変わってジンは真面目そうに告げる。
「てめぇの両親の組織での立ち位置は割と危ないとこだ、なんせ後ろ盾がねぇからな」
「危ないって……」
「要するに命を狙われやすいってこった」
「そ、そんなの」
「聞いてねぇ、か。そりゃそうだろう、彼奴らは本気でお前を組織に関わらせないつもりだったらしいからな」
「……!!」
頭に上っていた血が一気に下がる。
だから、両親は言わなかったとでも言うのか。私を守る為に、安全なところにいてもらう為に。天然なだけじゃなかったのか。
「でも組織がそれを許すわけがなかった……」
「そういうこった、流石に分かってきてるじゃねぇか」
「……っ」
「安心しろ、俺にとってそれが都合のいいことだったから今ここにいる。てめぇの両親に手は出さねぇよ、見合いに応じるならな」
「……意味がわからないんですが」
ここでジンが忌々しそうに溜め息をついた。
「ここ最近ラムが見合いをしろと五月蝿くてな」
「はぁ」
「だが組織にいる女は大抵俺の地位か身体目当てのクソ女どもばかりで、組織外の女はそもそも信用ならねぇ」
何となく話が見えてきて、私は心底呆れた顔でジンを見つめた。
「俺にさほど興味を持たず、弱くもないがある程度従順で、容姿もそこそこな奴を探していたら、お前に会った」
あれ、これ貶されてる?褒められてる?
「つまり、私は丁度良かったと」
「そういう事だ」
うんうん、なるほど確かに理にかなっている。納得はできた。とでも言うと思ったか!!
「すっごい舐められてるってことが分かりましたとりあえず回し蹴りしてもいいですか」
「やってみろよ、てめぇの両親がどうなってもいいならな」
「こんの腐れ外道!!!」
「やっと本性を出したか、悠芽」
「アンタにだけは名前呼ばれたくないわぁ!!」
敬語も忘れて思いのまま叫びながら回し蹴りをしようと立ち上がる。が、何せ正座で足が痺れたのと着物だったのとで身動きが取れず、倒れ込んだ。
(やばっ、床にぶつかる……!)
「おっと」
「わっ……」
いつの間にか移動していたジンに受けとめられたと気付いたのは数秒後だった。しかも姫抱き。眼前に広がる顔は面白いものを見たと言うかのように心底愉しそうで、思わずげっと声を出してしまう。
「不覚……」
「随分マヌケじゃねぇか……ククッ」
「降ろしなさいよ!!」
「未来の旦那に向かってその態度はいただけねぇな」
「ふざけんな誰がアンタみたいなやつ!!」
「両親がd」
「うるさい、わかってんのよんなこと!!気持ちの問題!!」
「安心しろ、お前と宜しくする気はサラサラねぇよ」
「こっちのセリフじゃ!!」
最後の抵抗とばかりに、手近にあった机の上のお茶を、碗ごと思い切り投げつけてやった。
斯くして私のドキドキ()新婚生活が幕を開けたのであった。
「……まあ誰でも良かった訳でもないがな」
「ああ、明日あなたのお見合い相手が来るから。支度しておきなさいね」
「ブフッ!!」
何の変哲もないいつも通りの夕食の時間、私が飲んでいたお水を吹き出したことも致し方ないことなのではないだろうか。
--------------------
高校入学と同時に親にその職業をカミングアウトされるまで、この家は至って普通の家庭なのだと思っていた。
いつもほんわかしていて危なっかしい、天然だが明るく優しい両親は、名前は伏せるがそれはそれは大きくて真っ黒な組織の一員らしい。何度説明を受けても信じられないのだが、そう言えば両親は己の仕事について私に聞かれても頑なに教えようとしてこなかったな、と納得せざるを得なかった。
「ごめんねぇ、流石に組織も貴方の存在を無視することが出来なくなっちゃったみたいで」
随分と物騒なことをさらりと言ってのけるお母さん。
「まあ、まだ高校生だし、いきなり組織の仕事やれー!とかは言わないはずだから大丈夫だよ、今まで通りの生活をしてくれたら」
何が大丈夫なのかお父さん。
聞けば聞くほどやばい発言しか飛ばなくなった真っ黒な組織について、ついに私はその存在を容認せざるを得なくなってしまったのだ。非常に不本意だけど。
ちなみに両親は人殺し"は"したことがないらしい。それを聞いて話を膨らませようなどと思うほど私は肝は据わっていなかった。
私の両親のドデカイ隠し事を知ってから数年後、私は無事に高校を卒業し、立派に成人を迎え、立派に両親の仕事を手助けできるようになりましたとさ。めでたしめでたし。
「……んなわけあるかぁ!!!」
「ちょっと、いきなりなぁに?近所迷惑よ?」
「私達の存在の方が近所迷惑だわ!!」
わざとバチンバチンと音を鳴らしてキーボードを叩く。
蛙の子は蛙なんてクソ喰らえだわ!!!(意味違うけど)
何で当たり前のように私は親と同じ仕事してんの!?ってかこの回ってくる書類、全部なんかの契約書だし、こっっわ!!
折角出来た友達とも連絡が取れないようにされた為に私の組織への印象はただ下がり一方だった。こうなるくらいなら初めからそういう方面の教育してくれれば良かったのに。下手にカタギの世界で生きてきた私にとっては、ストレスでしかない。自分のどこか知り得ぬところで、毎日命のやり取りが行われていると思うとゾッとする。
毎日キレ気味に謎の仕事をこなしていた時だった、もう一つのカミングアウトを母親にくらったのは。
冒頭の爆弾発言がそれだ。
「は? 私お見合いなんて知らないんだけど」
「あらやだ、言ってなかったっけ?貴方を嫁に貰いたいって言う方がいるの」
「それ、どこの人」
「私達の上司にあたる、組織の幹部よ〜」
「却下!!!」
流石にこの両親一発ぶん殴ってもいい?
いいよね?許されるよね?私悪くないよね!?
何でそう言う大事なことを全部後出しで言うのか。しかもお見合い?上司?幹部?
「まあまあ、明日会えばわかるから」
「もうやだ……おうちかえる……」
「この子ったらー! ここがお家でしょ〜?」
テーブルに叩きつけた両手が地味に痛かった。どうやら決定事項らしい。自室にはいつの間にか上等な着物が用意されていた。破り捨ててやろうかと本気で考えた。
--------------------
「あとは若いお二人で、ね?」
「ジン様、娘をよろしくお願いします」
「ではラム様、こちらでお話を……」
見合いの常套句を告げて笑う両親を恨みを込めて睨みつける。トン、と襖が閉まり、全く心地の良くない静寂が流れ出した。
目の前にいる男をじっと見つめる。今は庭を眺めてぼうっとしている様子だったので今がチャンスと無遠慮に観察した。
流石に組織についてまだまだ詳しくない私でもこの男のことは知っていた。
コードネームはジン。
何回か仕事の様子を見に家に来たことがあるから風貌もある程度は覚えていた。挨拶程度にしか話したことは無いが。歳はもちろん上。さすが幹部と言われるだけの貫禄があるが、いつもの黒ずくめの格好ではなく和服だったのがいい緩和剤になっているのか、やけに様になっていた。顔はいいし。目付きクソ悪いけど。
(にしても、この空気どうにかしたい……!)
とにかく無言。この部屋に通されてからこの男がまともに話しているのを見たことがない。聞かれたことは隣にいたラムという、これもまた目上の人間が答えていたからだ。
どうしたものかと思っていると、パチリと目が合ってしまった。思わずひきつりそうな顔を何とか戻し愛想笑いで誤魔化したが、何故か彼はめちゃくちゃ不機嫌そうに顔を歪めた。
「……おい」
「はい」
「その笑い方やめろ」
「え?」
「気持ち悪ぃんだよ」
心のゴングが鳴った気がした。
「へぇ、それは申し訳ありませんでした、こういう顔しか出来ないものでして」
「はっ、今時アンドロイドの方がましな笑顔作るぜ」
「まあこういう所で女性に話も振れない殿方よりはマシかと思いますけどね」
「悪ぃな、もう少し可愛げのある女だったら少しは優しくしてやれるんだがな」
まさしく言葉のドッヂボール。
嘲るような笑い方に私のキレゲージが一気に頂点に達した。
低レベルな会話をしていることに気付けるほど、この時の私は冷静じゃなかったと後で思う。何せ頭に血が上っていたのだ。
こいつ、こいつ嫌い!絶対に馬が合わない、こんな奴と同棲なんかしたらほんっっっっとうに気が狂う!!絶対嫌!!
絶対断ってやるという強い意志で立ち上がり、襖を開けて片手で退出を促した。
「可愛げのある女がお望みなら今すぐ帰っていただけます? 生憎元々結婚などする気はありませんから!!」
「いいのか?これだけお前らにとっていい話はねぇだろうに」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
先程までと打って変わってジンは真面目そうに告げる。
「てめぇの両親の組織での立ち位置は割と危ないとこだ、なんせ後ろ盾がねぇからな」
「危ないって……」
「要するに命を狙われやすいってこった」
「そ、そんなの」
「聞いてねぇ、か。そりゃそうだろう、彼奴らは本気でお前を組織に関わらせないつもりだったらしいからな」
「……!!」
頭に上っていた血が一気に下がる。
だから、両親は言わなかったとでも言うのか。私を守る為に、安全なところにいてもらう為に。天然なだけじゃなかったのか。
「でも組織がそれを許すわけがなかった……」
「そういうこった、流石に分かってきてるじゃねぇか」
「……っ」
「安心しろ、俺にとってそれが都合のいいことだったから今ここにいる。てめぇの両親に手は出さねぇよ、見合いに応じるならな」
「……意味がわからないんですが」
ここでジンが忌々しそうに溜め息をついた。
「ここ最近ラムが見合いをしろと五月蝿くてな」
「はぁ」
「だが組織にいる女は大抵俺の地位か身体目当てのクソ女どもばかりで、組織外の女はそもそも信用ならねぇ」
何となく話が見えてきて、私は心底呆れた顔でジンを見つめた。
「俺にさほど興味を持たず、弱くもないがある程度従順で、容姿もそこそこな奴を探していたら、お前に会った」
あれ、これ貶されてる?褒められてる?
「つまり、私は丁度良かったと」
「そういう事だ」
うんうん、なるほど確かに理にかなっている。納得はできた。とでも言うと思ったか!!
「すっごい舐められてるってことが分かりましたとりあえず回し蹴りしてもいいですか」
「やってみろよ、てめぇの両親がどうなってもいいならな」
「こんの腐れ外道!!!」
「やっと本性を出したか、悠芽」
「アンタにだけは名前呼ばれたくないわぁ!!」
敬語も忘れて思いのまま叫びながら回し蹴りをしようと立ち上がる。が、何せ正座で足が痺れたのと着物だったのとで身動きが取れず、倒れ込んだ。
(やばっ、床にぶつかる……!)
「おっと」
「わっ……」
いつの間にか移動していたジンに受けとめられたと気付いたのは数秒後だった。しかも姫抱き。眼前に広がる顔は面白いものを見たと言うかのように心底愉しそうで、思わずげっと声を出してしまう。
「不覚……」
「随分マヌケじゃねぇか……ククッ」
「降ろしなさいよ!!」
「未来の旦那に向かってその態度はいただけねぇな」
「ふざけんな誰がアンタみたいなやつ!!」
「両親がd」
「うるさい、わかってんのよんなこと!!気持ちの問題!!」
「安心しろ、お前と宜しくする気はサラサラねぇよ」
「こっちのセリフじゃ!!」
最後の抵抗とばかりに、手近にあった机の上のお茶を、碗ごと思い切り投げつけてやった。
斯くして私のドキドキ()新婚生活が幕を開けたのであった。
「……まあ誰でも良かった訳でもないがな」
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