一生飼われる覚悟。
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カラン、とベルが鳴る。来訪者の知らせに、私はカップを洗っていた手を止めて、カウンターから顔を出した。
「あ、ベル姉こんにちは!いらっしゃいませ~」
「Hi,Kitty……あら、似合ってるわねそのエプロン」
「ちょっとはカフェっぽいですかね?」
「もちろんよ!じゃあ、可愛い店員さん?注文良いかしら?」
「はい、どうぞ!」
まだ若干おぼつかない動作で、ベル姉の注文したカフェラテとクッキーを用意する。これが、まさに入院中烏末さんに頼まれた仕事だった。なんと正社員として雇ってくれるとのことだった。
新しいビルで、うちの社員専用のカフェを経営して欲しい。君がやれば必ずみんな勝手に集まってくれるはずだから――
色々とよくわからなかったけど、なんせこの話を聞いたときはジンさんと一緒に暮らすことになるなんて露ほども思っていなかったので、繋がりを保てるならと二つ返事で了承してしまった。(ジンさんはよくこの話を持ち出しては勝手なことしやがってと愚痴り始めるので、その度に後悔していなくもない)
そのおかげで、清掃員をしていた時会っても挨拶くらいが限度だった人達とも普通にしゃべることが出来ている。いかつい顔ばかりの人達も話してみると意外と面白かったり優しかったりするものだった。
「このクッキー、美味しいわ。あなたの手作り?」
「そうなんです。たいしたことやってないんですけど、人気なんですよ。この前なんてえっと……目の下にかっこいいタトゥー入ってる……」
「ああ、キャンティ?あの子まで来てたの?」
「そうその人です!このクッキーをいたく気に入ってくれて……それはいいんですけど一緒に来てた男の人ととんでもない量を食べて在庫がなくなったりしました。おかげで仲良くはなれたんですけど」
「そ、そう……ふふ、それはすごいわね」
「ですよね!けっこうな数焼いたんですよ!」
私がそう言うと、ベル姉は違うわ、と苦笑いをした。
「そういうところなのよ、あなたがこの仕事を任された理由。まあいいように使われちゃって……確かにこんなに彼らを集めるのに苦労しないで済むなんて楽でいいわよね」
「はい?」
言っていることが理解できなくて首を傾げていると、胸元を指でツンとつつかれた。
「妬けちゃうわね、また色んな人に好かれちゃって」
「ヴッ」
上目遣いで行われた一連の動作があまりに艶めかしくて、余計な声が出てしまった。そのせいで、「まあワケなんて知らない方が貴女の為ね」という大事なワードをしっかり聞き逃してしまったらしいけど。
「ホント、たちの悪い人間にばかり好かれるんだから……可哀想なKitty、やっぱり今からでも私の所に……」
そんな言葉を遮るように、ドアベルが鳴る。現れたいつも通り真っ黒な人影に、気付けば私はカウンターから飛び出していた。
「……ま、もう手遅れかしらね」
私も、心からそう思ってます。後ろでボソッと聞こえた呆れたような声に、走りながら心の中でそう返した。
この仕事はやっぱりどこかおかしい。
まず一つ。お客さんについて。
ビル最上階にあるカフェに訪れる人は、みんな示し合わせたように真っ黒な格好をしているし、明らかに持ち歩いてはいけなそうなブツを持っている人がほとんどだ。
そして客同士の会話は、物騒極まりない単語が飛び交っているので、出来る限り心頭滅却して聞かなかったことにしている。
そしてもう一つ。業務内容に対する給料の良さ。
清掃員時代からまた一つゼロの数の増えた金額。本当にただのカフェでしかないのに狂っている。
正直もらっても困るくらいなのだが、烏末さんに
「いいかい?この仕事はね、私にとってはそれはそれは大切なものなんだ、だからこれが妥当な金額なんだよわかったかい」と何故かすがるような眼差しを向けられたのでそれ以降口は出さないようにしている。
それでも、私はこの怪しさ極まりない仕事をすっかり気に入ってしまったようで。
不定期の楽しみは、いつの間にか恒常的な楽しみになってしまった。
今日も今日とて私は、想い人飼い主がドアを開け姿を見せるのを、今か今かと待ちわびている。
そして会えたときには、いつものように挨拶をするのだ。
「……お疲れ様です、ジンさん!」
おわり
「あ、ベル姉こんにちは!いらっしゃいませ~」
「Hi,Kitty……あら、似合ってるわねそのエプロン」
「ちょっとはカフェっぽいですかね?」
「もちろんよ!じゃあ、可愛い店員さん?注文良いかしら?」
「はい、どうぞ!」
まだ若干おぼつかない動作で、ベル姉の注文したカフェラテとクッキーを用意する。これが、まさに入院中烏末さんに頼まれた仕事だった。なんと正社員として雇ってくれるとのことだった。
新しいビルで、うちの社員専用のカフェを経営して欲しい。君がやれば必ずみんな勝手に集まってくれるはずだから――
色々とよくわからなかったけど、なんせこの話を聞いたときはジンさんと一緒に暮らすことになるなんて露ほども思っていなかったので、繋がりを保てるならと二つ返事で了承してしまった。(ジンさんはよくこの話を持ち出しては勝手なことしやがってと愚痴り始めるので、その度に後悔していなくもない)
そのおかげで、清掃員をしていた時会っても挨拶くらいが限度だった人達とも普通にしゃべることが出来ている。いかつい顔ばかりの人達も話してみると意外と面白かったり優しかったりするものだった。
「このクッキー、美味しいわ。あなたの手作り?」
「そうなんです。たいしたことやってないんですけど、人気なんですよ。この前なんてえっと……目の下にかっこいいタトゥー入ってる……」
「ああ、キャンティ?あの子まで来てたの?」
「そうその人です!このクッキーをいたく気に入ってくれて……それはいいんですけど一緒に来てた男の人ととんでもない量を食べて在庫がなくなったりしました。おかげで仲良くはなれたんですけど」
「そ、そう……ふふ、それはすごいわね」
「ですよね!けっこうな数焼いたんですよ!」
私がそう言うと、ベル姉は違うわ、と苦笑いをした。
「そういうところなのよ、あなたがこの仕事を任された理由。まあいいように使われちゃって……確かにこんなに彼らを集めるのに苦労しないで済むなんて楽でいいわよね」
「はい?」
言っていることが理解できなくて首を傾げていると、胸元を指でツンとつつかれた。
「妬けちゃうわね、また色んな人に好かれちゃって」
「ヴッ」
上目遣いで行われた一連の動作があまりに艶めかしくて、余計な声が出てしまった。そのせいで、「まあワケなんて知らない方が貴女の為ね」という大事なワードをしっかり聞き逃してしまったらしいけど。
「ホント、たちの悪い人間にばかり好かれるんだから……可哀想なKitty、やっぱり今からでも私の所に……」
そんな言葉を遮るように、ドアベルが鳴る。現れたいつも通り真っ黒な人影に、気付けば私はカウンターから飛び出していた。
「……ま、もう手遅れかしらね」
私も、心からそう思ってます。後ろでボソッと聞こえた呆れたような声に、走りながら心の中でそう返した。
この仕事はやっぱりどこかおかしい。
まず一つ。お客さんについて。
ビル最上階にあるカフェに訪れる人は、みんな示し合わせたように真っ黒な格好をしているし、明らかに持ち歩いてはいけなそうなブツを持っている人がほとんどだ。
そして客同士の会話は、物騒極まりない単語が飛び交っているので、出来る限り心頭滅却して聞かなかったことにしている。
そしてもう一つ。業務内容に対する給料の良さ。
清掃員時代からまた一つゼロの数の増えた金額。本当にただのカフェでしかないのに狂っている。
正直もらっても困るくらいなのだが、烏末さんに
「いいかい?この仕事はね、私にとってはそれはそれは大切なものなんだ、だからこれが妥当な金額なんだよわかったかい」と何故かすがるような眼差しを向けられたのでそれ以降口は出さないようにしている。
それでも、私はこの怪しさ極まりない仕事をすっかり気に入ってしまったようで。
不定期の楽しみは、いつの間にか恒常的な楽しみになってしまった。
今日も今日とて私は、想い人飼い主がドアを開け姿を見せるのを、今か今かと待ちわびている。
そして会えたときには、いつものように挨拶をするのだ。
「……お疲れ様です、ジンさん!」
おわり
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