清掃員、はじめました。
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小気味良い電子音と共に扉が開いた。
ゆらりと姿を見せた人物に、思わずモップがけをしていた手が止まる。
心臓が大きく鳴った。
月明かりを閉じ込めたような銀色の長髪が、"彼"の歩みに合わせて音もなく揺れる。
この仕事をしていて良かったと心から嬉しく思う日。
それが彼が来る日だった。
初めて彼の姿を見た時、どの感情よりも先に来たのは、本能から来る「恐怖」だった。モスグリーンの瞳に感情はなく、目が合った瞬間体が動かなくなってしまったのをよく覚えている。ただ手に持っていたモップを握りしめ、彼が私の存在に興味をなくしてその場をあとにするまでの、10秒にも満たないであろう時間が過ぎ去るのを、目を閉じて待つことしか出来なかった。
しかしその後、彼にも挨拶出来るくらいの心の余裕が生まれ、次に姿を見た時には、恐怖とは別の感情に全身が震えた。
それが何を意味するかが分からないほど子供でもない。
──なんて綺麗な人なのだろう
その時から、私は名も知らないはずの彼に、恋をしてしまっていた。
彼がこのビルに来る日はかなり不定期で読めない。
だからこそ、もしかしたら彼に会えるかもしれない…!と己を奮い立たせて週数回の仕事を終わらせている。これが今の仕事を楽しめる、紛れもない理由だ。
とはいえ条件にあったように、何か会話ができるわけでも、ましてや近づくことさえもできるわけでもない。しがない清掃員な私に出来るのは、せいぜい在り来りな挨拶と、ビルの奥に消えていく背中をこの目に焼き付けておくことくらいだ。
(今日も変わらず綺麗だな……)
ぼんやりと見ている自分の顔は、正直人様に見せられるものでは無いのであろうことはさすがに理解している。
サラッサラの髪の毛どうやって手入れしてるのかなとか、今日はよく一緒にいるガタイのいいサングラスの人はいないんだなとか、かなりどうでもいいところに思考が飛んでいたそんな時。
(あ、れ?)
歩みは止めないまま、彼の目だけがこちらを向いていた。
思わず叫びそうになるが、すぐにその理由に気づく。
(まずい、見惚れてたら挨拶し忘れてた……!)
なんと情けない理由だろうか。
慌てて体を折り曲げ挨拶をする。
「お疲れ様です」の声が大分裏返ってた気がしなくもない。恥ずかしすぎて正直消えたい…。
しかし、いつもはそのまま通り過ぎていく足音が、目の前でピタリとやむ。
不思議に思ってそおっと体を起こして顔を上げると、
今度はガッツリ目が合ってしまった。
なんで。なんでそこでこっちを見て止まってるんですか。せめて何か言ってはくれませんか。そんなに滑稽でしたか私の挙動不審な挨拶。ってか顔がいい、立ち姿だけで絵になるなんなのこの人、思わずひょぇぇ…って声出てた気がする、ちょっと心臓もたない無理誰か助けて!!
暴れ狂う内心で、誰かが気づけるわけもないSOSを出す。逸らすことも出来ず感情の読めない瞳を見続けることしか出来ない。
そんな時だった。
「…ふっ」
小さく笑みを浮かべてそのまま背を向けて歩き出す背中。
「…………何、今の」
即死レベルの爆弾を落とされた私が、何とか息を吹き返したのはそれから1時間後だった。
ゆらりと姿を見せた人物に、思わずモップがけをしていた手が止まる。
心臓が大きく鳴った。
月明かりを閉じ込めたような銀色の長髪が、"彼"の歩みに合わせて音もなく揺れる。
この仕事をしていて良かったと心から嬉しく思う日。
それが彼が来る日だった。
初めて彼の姿を見た時、どの感情よりも先に来たのは、本能から来る「恐怖」だった。モスグリーンの瞳に感情はなく、目が合った瞬間体が動かなくなってしまったのをよく覚えている。ただ手に持っていたモップを握りしめ、彼が私の存在に興味をなくしてその場をあとにするまでの、10秒にも満たないであろう時間が過ぎ去るのを、目を閉じて待つことしか出来なかった。
しかしその後、彼にも挨拶出来るくらいの心の余裕が生まれ、次に姿を見た時には、恐怖とは別の感情に全身が震えた。
それが何を意味するかが分からないほど子供でもない。
──なんて綺麗な人なのだろう
その時から、私は名も知らないはずの彼に、恋をしてしまっていた。
彼がこのビルに来る日はかなり不定期で読めない。
だからこそ、もしかしたら彼に会えるかもしれない…!と己を奮い立たせて週数回の仕事を終わらせている。これが今の仕事を楽しめる、紛れもない理由だ。
とはいえ条件にあったように、何か会話ができるわけでも、ましてや近づくことさえもできるわけでもない。しがない清掃員な私に出来るのは、せいぜい在り来りな挨拶と、ビルの奥に消えていく背中をこの目に焼き付けておくことくらいだ。
(今日も変わらず綺麗だな……)
ぼんやりと見ている自分の顔は、正直人様に見せられるものでは無いのであろうことはさすがに理解している。
サラッサラの髪の毛どうやって手入れしてるのかなとか、今日はよく一緒にいるガタイのいいサングラスの人はいないんだなとか、かなりどうでもいいところに思考が飛んでいたそんな時。
(あ、れ?)
歩みは止めないまま、彼の目だけがこちらを向いていた。
思わず叫びそうになるが、すぐにその理由に気づく。
(まずい、見惚れてたら挨拶し忘れてた……!)
なんと情けない理由だろうか。
慌てて体を折り曲げ挨拶をする。
「お疲れ様です」の声が大分裏返ってた気がしなくもない。恥ずかしすぎて正直消えたい…。
しかし、いつもはそのまま通り過ぎていく足音が、目の前でピタリとやむ。
不思議に思ってそおっと体を起こして顔を上げると、
今度はガッツリ目が合ってしまった。
なんで。なんでそこでこっちを見て止まってるんですか。せめて何か言ってはくれませんか。そんなに滑稽でしたか私の挙動不審な挨拶。ってか顔がいい、立ち姿だけで絵になるなんなのこの人、思わずひょぇぇ…って声出てた気がする、ちょっと心臓もたない無理誰か助けて!!
暴れ狂う内心で、誰かが気づけるわけもないSOSを出す。逸らすことも出来ず感情の読めない瞳を見続けることしか出来ない。
そんな時だった。
「…ふっ」
小さく笑みを浮かべてそのまま背を向けて歩き出す背中。
「…………何、今の」
即死レベルの爆弾を落とされた私が、何とか息を吹き返したのはそれから1時間後だった。