携帯越しの激情。
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「……しっぽ巻いて逃げ出すんじゃねぇぞ」
『しませんよ!?』
「ハッ……じゃあな」
『あっ、ジンさ』
まだ何か鳴いていたのを遮るように、ジンは電話を切った。
携帯をポケットに入れ、淀みない仕草で煙草に火をつける。それに口をつける前に、ジンは自分の横の暗闇を睨みつけた。
「あの方の側近ともあろう者が、随分と暇を持て余してんじゃねぇか……なァ?烏末さん」
暗闇の中から現れた烏末は、やれやれと言ったように首を振っていた。
「よく言うものだ。全く……お前の勝手な行動のおかげで、目が回るようだよ」
「テメェが命令する時間を削減してやったんだ、むしろ感謝して欲しいくらいだぜ……」
「素直に感謝するには、少々荒すぎる。後始末は骨が折れたよ」
「そりゃどうも……だが、これだけすりゃあ俺はもう必要ねぇだろ」
「これ以上はむしろ勘弁してもらおうか。……お前もそろそろあちらの準備をしておきなさい」
ジンは大きく息を吐いた。烏末が言った"準備"というのはいつもの事だが、面倒なのは変わらない。
「次はどこだ」
「不本意だが、お前が暴れてくれたおかげで周りの目はこの土地に向いている……それを逆手に取り、今回の"引越し先"は今のビルからそう遠くない場所にした」
「遠くに移動しようとしてると見せかけて……か」
「まあしばらくは大きな動きは出来ないと思ってくれ。……ああそうそう」
――君たちの子猫の引っ越し先も用意してあるよ。
烏末は含み笑いをしながらジンを見る。何か裏があるとしか思えない、腹の立つ顔だった。
「……テメェ、あれほど余計なことはするなと言っておきながら、まさか自分から手を出すとはな」
「そう睨まないでくれ、向こうが擦り寄ってきたからつい私も構いたくなっただけだ」
――あの猫、また懲りずに俺以外の人間に媚びを売りやがったな。前回は容赦してやったが、次会った時は本気で首輪をつけてやろうか。
怒りに任せて煙草を落とし踏み潰すと、烏末はわざとらしく肩を竦めた。
「おお、怖い。大した独占欲だ……なら、あの子から目を離さないことだ。新しい拠点に本気で連れていく気なのなら、ね」
「あ?」
「お前だってわかっていないわけではないだろう。あの子はこちら側とは違う、鉄の匂いとは縁遠い世界で生きてきた子だ。故に捨てられないものがあるはずだ」
そこからこちら側に巻き込んだ奴が何をほざいているのか、とは思ったが口には出さなかった。
捨てられないもの。それは、あの娘の家に色濃く残る、彼女の血縁の気配と生活感を見れば明らかだった。
「お前がどうしようが勝手だが……あの子がそれらと引き換えにお前を選ぶだけの覚悟があるのか。まあお前が、選ばせるだけの時間と余裕を与えるような男とは思ってなどいないが」
そう言われ、ジンは先程の電話を思い返す。――あれほどの感情を自分にぶつけたKittyが、こちらを選ばない可能性?
腹の底から込み上げる笑いを押し殺す。しかし、釣り上がった口の端は隠しきれず、それを見た烏末は一度目を見開くと、
「……なるほど。これから先が見物だな」
と、呆れたように言った。
「さて、そろそろ……む」
踵を返そうとした烏末が、突然目の色を変えた。コートのポケットから取り出した携帯の画面を覗き込むと、今までとは打ってかわり低い声で呟いた。
「……手間取らせてくれる」
「何だ」
「組織の情報を外部に漏らそうとして抹殺命令を出されていた馬鹿共が、監視の隙を突いて逃げ出したらしい。……全く、面倒なことになった」
「テメェのところの部下は腑抜けの集まりという訳か……これは笑えるぜ」
「……笑い事で済めばいいがな」
そう言って、烏末は風の吹きすさぶビルの上からある方向を見つめた。深夜でもまだチラチラと目に入る明かりの向こう、そこにあるのは――。
同じ方向を見たジンの脳内に一瞬浮かんだのは、あの日あの家で初めて見た、ベルモットの腕の中でふにゃりと笑うKittyの顔だった。
『しませんよ!?』
「ハッ……じゃあな」
『あっ、ジンさ』
まだ何か鳴いていたのを遮るように、ジンは電話を切った。
携帯をポケットに入れ、淀みない仕草で煙草に火をつける。それに口をつける前に、ジンは自分の横の暗闇を睨みつけた。
「あの方の側近ともあろう者が、随分と暇を持て余してんじゃねぇか……なァ?烏末さん」
暗闇の中から現れた烏末は、やれやれと言ったように首を振っていた。
「よく言うものだ。全く……お前の勝手な行動のおかげで、目が回るようだよ」
「テメェが命令する時間を削減してやったんだ、むしろ感謝して欲しいくらいだぜ……」
「素直に感謝するには、少々荒すぎる。後始末は骨が折れたよ」
「そりゃどうも……だが、これだけすりゃあ俺はもう必要ねぇだろ」
「これ以上はむしろ勘弁してもらおうか。……お前もそろそろあちらの準備をしておきなさい」
ジンは大きく息を吐いた。烏末が言った"準備"というのはいつもの事だが、面倒なのは変わらない。
「次はどこだ」
「不本意だが、お前が暴れてくれたおかげで周りの目はこの土地に向いている……それを逆手に取り、今回の"引越し先"は今のビルからそう遠くない場所にした」
「遠くに移動しようとしてると見せかけて……か」
「まあしばらくは大きな動きは出来ないと思ってくれ。……ああそうそう」
――君たちの子猫の引っ越し先も用意してあるよ。
烏末は含み笑いをしながらジンを見る。何か裏があるとしか思えない、腹の立つ顔だった。
「……テメェ、あれほど余計なことはするなと言っておきながら、まさか自分から手を出すとはな」
「そう睨まないでくれ、向こうが擦り寄ってきたからつい私も構いたくなっただけだ」
――あの猫、また懲りずに俺以外の人間に媚びを売りやがったな。前回は容赦してやったが、次会った時は本気で首輪をつけてやろうか。
怒りに任せて煙草を落とし踏み潰すと、烏末はわざとらしく肩を竦めた。
「おお、怖い。大した独占欲だ……なら、あの子から目を離さないことだ。新しい拠点に本気で連れていく気なのなら、ね」
「あ?」
「お前だってわかっていないわけではないだろう。あの子はこちら側とは違う、鉄の匂いとは縁遠い世界で生きてきた子だ。故に捨てられないものがあるはずだ」
そこからこちら側に巻き込んだ奴が何をほざいているのか、とは思ったが口には出さなかった。
捨てられないもの。それは、あの娘の家に色濃く残る、彼女の血縁の気配と生活感を見れば明らかだった。
「お前がどうしようが勝手だが……あの子がそれらと引き換えにお前を選ぶだけの覚悟があるのか。まあお前が、選ばせるだけの時間と余裕を与えるような男とは思ってなどいないが」
そう言われ、ジンは先程の電話を思い返す。――あれほどの感情を自分にぶつけたKittyが、こちらを選ばない可能性?
腹の底から込み上げる笑いを押し殺す。しかし、釣り上がった口の端は隠しきれず、それを見た烏末は一度目を見開くと、
「……なるほど。これから先が見物だな」
と、呆れたように言った。
「さて、そろそろ……む」
踵を返そうとした烏末が、突然目の色を変えた。コートのポケットから取り出した携帯の画面を覗き込むと、今までとは打ってかわり低い声で呟いた。
「……手間取らせてくれる」
「何だ」
「組織の情報を外部に漏らそうとして抹殺命令を出されていた馬鹿共が、監視の隙を突いて逃げ出したらしい。……全く、面倒なことになった」
「テメェのところの部下は腑抜けの集まりという訳か……これは笑えるぜ」
「……笑い事で済めばいいがな」
そう言って、烏末は風の吹きすさぶビルの上からある方向を見つめた。深夜でもまだチラチラと目に入る明かりの向こう、そこにあるのは――。
同じ方向を見たジンの脳内に一瞬浮かんだのは、あの日あの家で初めて見た、ベルモットの腕の中でふにゃりと笑うKittyの顔だった。