実は寂しがりな子猫。
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チチチ…という鳥のさえずりで目を覚ます。瞼を開けば、カーテンの隙間から漏れる繊細で美しい光が目に入る。嗚呼なんて素晴らしい朝なのだろう。こんな穏やかな目覚め、毎日でも味わいたい。
体を起こし、ベッドの上で私はうーんと腕を伸ばし新鮮な空気を吸い込み、
「……はあ゙ぁぁぁぁぁ」
淀んだ空気を思いっきり吐き出した。
あ、まずい、魂ごと抜けそう。
素晴らしい朝と言ったが、あれは現実逃避だ。本当はダラダラと冷や汗が止まらず、出来ることならもう一度眠ってしまいたい、そんな気分だった。
(私は、昨日、何を……!!)
嫌でも思い返される記憶。顔に熱がじわじわと集まってきて、思わず顔を両手で覆った。折角かなり体は軽くなったというのに、頭は痛んだままだ。
自分が倒れたことはよく覚えている。その後の記憶はかなり朧気だが、この家で出くわした2人を泥棒扱いし、その当人に私の世話なんぞをさせてしまい、挙句の果てには「ここにいて」などと、とんでもないことを口にしてしまったことは何故か鮮明に記憶していた。
(あああ、次からどんな顔をして2人に会えば……)
どことなく優しげだったウォッカさんはともかく、あのジンさんは……と考えたところで、ふと昨夜の違和感も思い出し、私は顔を上げぽそりと呟いた。
「そう言えばなんだか、優しかったな……」
態度も声も目も、優しくて戸惑った。
今まであれだけ恐ろしかったのに。
「うううぅん……?」
「いつまで百面相を続ける気だ?」
「もう、人の心労を百面相呼ばわりとは失礼な……え゙」
声のする方を向けば、ドアの縁にもたれ掛かりこちらを愉快そうに見つめるジンさんがいた。
ジンさんが、いた。
大事な事だから二度言ってしまった。
「い、い」
「いつからだろうなァ」
「こ、こえ」
「かけてもよかったんだが、あんな面白い光景、止めさせるには惜しいだろ」
私は再び頭を抱えることになった。
--------------------
支度したら降りてこい、とだけ投げて階段を降りていったジンさん。この家に泊まっていったのか、それとも一度帰ってまた来たのか。聞く勇気はなかった。
言葉通り服を着替え、ドアを開いた先、目に飛び込んできた光景に私は目を擦った。それはもうごしごしと擦った。
キッチンからはカチャカチャと皿のぶつかる音と水音が聞こえ、そこでは私の存在に気づいたウォッカさんが、「ごはん、出来てるぜ」とニカッと笑っている。
リビングのソファーではジンさんが我が物顔でくつろいでいて、その手にはリモコンが握られている。テレビに映し出されているのは、最近流行りのサスペンスドラマだった。随分とつまらなそうな顔で眺めているが。
非日常が、「いや? 自分日常ですけど何か?」と言いながら殴りかかってくる。自分でも何を言っているのか分からないが、そうとしか表現できなかった。
ここは自分の家じゃないと言われた方がよっぽど信じられただろうに。
「そこに座ってな」
いつの間にか近くにいたウォッカさんに促され、テーブルに向かう。間もなく目の前に湯気の上がるおじやが出された。
「まだ本調子じゃなさげだからな、消化のいいものにしておいたぜ」
「あ、ありがとうございます……」
本調子じゃない原因の1人に言われても……とは言わなかった。偉いぞ自分。
ちなみに、おじやはびっくりするほど美味しかった。
この薄味の優しいおじやを、いかにもなイカつい風貌の人が作るのだから、やはり人間見た目では判断できないものだとしみじみ思う。
空になった食器をキッチンへ持っていき、ウォッカさんに美味しかったですとお礼を言えば、何故かウォッカさんは感動したように「本当か!?」と肩を掴んできた。
誰かに手料理をよく振る舞うけど何も言われない、そんな経験でもあるのだろうか。とりあえずめちゃくちゃ頷いておいた。
いよいよ手持ち無沙汰になった私は、ソファーで寛ぐジンさんに近づいていった。
「と、隣いいでしょうか……」
「お前の家だろうが」
「はは、ですよね……」
でも許可を取らないといけない雰囲気を感じたのだから、仕方ないと思う。出来るだけ慎重に、ジンさんと人ふたり分くらいの距離で腰を下ろす。
「………」
「………」
気まずい、非常に気まずい。
そわそわしてどこか落ち着かない。未だかつて自分の生まれ育った家が、こんなにも心安らがない時があっただろうか。
助けを求めるようにウォッカさんの方をチラリと見たが、テーブルの椅子から面白そうにテレビを見ているだけだった。仕方なく彼に習ってドラマに集中しようとしても、隣の黒い塊にどうしても意識を持っていかれてしまう。
体感数時間くらいの、実は短い時が流れた。
「……随分とつれねぇじゃねぇか」
「へ……?」
ようやく口を開いたジンさんは、ニタリ、とそれはまあいい顔をしていた。
「昨日はあんなに甘えてきたのになァ?」
「お゙ぉん……っ」
その顔の近さに、いつの間にか距離を詰められていたことに気付く。
「あの、本当に、ご迷惑を……」
「気にするな、躾の手間が省けたんだからな」
「しつけ……?」
いきなり顎をくいと持ち上げられ、視線を合わせられる。視界を満たす暴力的なかっこよさに、ぴしりと体が固まってしまう。
「あ……あの……っ」
「恐ろしいか、俺が」
「い、いえ、恐ろしくはないんですけど、」
心臓が持たないんです、と言おうとして、はたと気づく。
(やっぱり、そんなに恐ろしくも怖くもない……)
いや、全く怖くないと言ったら嘘になるが、それでも恐怖に体が震えてしまうことはもうなかった。どうしてだろう。
頭にハテナを浮かべまくりながらジンさんを見つめ返していたら、フッと笑ってあっさり解放してくれた。
「言ったろう、手間が省けた、と」
「は、はぁ」
「まあ、まだ足りねぇがな」
何が、と問う前に、玄関のチャイムが鳴った。誰だろう、と立ち上がるとジンさんが苛立たしげに吐き捨てる。
「いい、放っておけ」
「え、どうして……」
「あの女の面を拝みたくねぇからだ」
「……ってことは、」
ジンさんの制止を振り切って、足早に玄関に向かう。扉の向こうには、
「Kitty……!良かった、もう起きれるのね!」
「ベル姉!」
どこぞの女優です、といったような服を着たベル姉がいた。正直近所で噂にならないか心配になってしまうレベル。
「熱は?もうないのね?」
「えっと、微熱くらいで」
「体は?」
「まだ少しだるいですけど、大丈夫で……」
「そう、本当に良かったわ私のKitty……」
「へぶっ」
言葉通り豊満な胸に顔を埋める。いや、私の意思ではなく、引き寄せられてたのだが。おかげで呼吸が出来ず意識が遠のきかける。ヘブンが見えた気がした。
「来るなと言ったはずだが……?」
背後から不機嫌さMAXの声が聞こえたが、今の状態の私には救世主のように思えた。
「貴方の許可なんて要らないのよ」
「御託はいいからそいつを離せ、殺す気か」
「あら、Kittyどうしたのそんな顔をして……、やっぱりまだ具合悪いのね!?」
違うんです、という前に伸びてきたジンさんの腕に捕まってしまった。と思ったらベル姉の腕もしっかりと私を掴んでいる。あ、これデジャヴだ。始まってしまう、謎のKitty争奪戦が。
勿論前回と全く同じ展開だったので、中身は割愛させていただく。
そして今、私はソファーに座りテレビを眺めるベル姉のクッションと化していた。非常にぬくぬくして柔らかくて、内心興奮状態なのだが。その隣から聞こえるえげつない量の舌打ちに、耳が痛くてたまらない。
「ふふ、楽しいわねKitty」
「ひゃい……」
「チッ!!」
「あ、兄貴……それはまずいですって」
「うるせぇウォッカ…この女だけは殺す」
「ちょっと、そんな物騒なものこっちに向けないでちょうだい。あ、ウォッカ、コーヒーくれる?」
「い、入れてきやす」
「いやここ私の家……」
「ウォッカ、俺のも持ってこい、上の棚だ」
「わかりやした」
「把握されてる……」
「おいクソアマ……いい加減そいつを離しやがれ、頭を吹っ飛ばされたくなければな……」
「あわわ……っ」
「ちょっと、Kittyが怖がってるじゃない!」
「安心しろKitty、お前には当てねぇ……」
「いやそこではなく……」
「アニキー、ブラックでいいっすかー」
「ああ」
「私はミルク多めで頼むわね」
(何この状況……??)
大人3人が集まるとこうも騒がしいのか。まさしくカオスだ。
もういいや、流れに身を任せていた方が安全な気がしてきた。私は死んだ目のまま、諦めの境地に至った。
でも、何故だろう。迷惑というよりはこの騒がしさに懐かしさを覚えてしまう自分がいた。
不思議に思って、辺りを見回した。
キッチンではウォッカさんが湯を沸かしていて。ソファーではジンさんとベル姉が口論していて。リビングのカーテンの向こうには、車の影があって。
よく知っているはずの家が、とても狭く感じた。
(ああ、そっか)
──この家に、私以外の人がいるのはとても久しぶりなんだ
大好きだった両親を突然の事故で亡くして、もう半年近い月日が流れていた。親戚との関わりも希薄だった為に、私を助けてくれる大人というのはとても少なかった。勿論優しい人はいて救われてきたし、烏末さんに今の仕事を頂けたことは感謝してもしきれない。
そうやって何とか、必要な書類手続きやら話し合いやらは終えることができ、私は両親と過ごしたこの家を手放すことも無く、無事社会人としての一歩を踏み出せている。
それでも。
行ってらっしゃいも、おかえりもない、自分の名前が呼ばれることも無い、広くて静かな、そんな家に1人でいることは。
どうしようもなく、虚しくて。
(私、ずっと、寂しかったんだ)
込み上げてくる涙を、目を瞑りぐっと堪えた。何となく、この人達の前で泣きたくなかったから。
その代わりのように、未だ続く物騒だけど暖かい騒がしさのその真下で、私は幸せを噛み締めてへへ、とはにかんだ。
そんな様子を、3人にばっちり見られていたことも知らずに。
体を起こし、ベッドの上で私はうーんと腕を伸ばし新鮮な空気を吸い込み、
「……はあ゙ぁぁぁぁぁ」
淀んだ空気を思いっきり吐き出した。
あ、まずい、魂ごと抜けそう。
素晴らしい朝と言ったが、あれは現実逃避だ。本当はダラダラと冷や汗が止まらず、出来ることならもう一度眠ってしまいたい、そんな気分だった。
(私は、昨日、何を……!!)
嫌でも思い返される記憶。顔に熱がじわじわと集まってきて、思わず顔を両手で覆った。折角かなり体は軽くなったというのに、頭は痛んだままだ。
自分が倒れたことはよく覚えている。その後の記憶はかなり朧気だが、この家で出くわした2人を泥棒扱いし、その当人に私の世話なんぞをさせてしまい、挙句の果てには「ここにいて」などと、とんでもないことを口にしてしまったことは何故か鮮明に記憶していた。
(あああ、次からどんな顔をして2人に会えば……)
どことなく優しげだったウォッカさんはともかく、あのジンさんは……と考えたところで、ふと昨夜の違和感も思い出し、私は顔を上げぽそりと呟いた。
「そう言えばなんだか、優しかったな……」
態度も声も目も、優しくて戸惑った。
今まであれだけ恐ろしかったのに。
「うううぅん……?」
「いつまで百面相を続ける気だ?」
「もう、人の心労を百面相呼ばわりとは失礼な……え゙」
声のする方を向けば、ドアの縁にもたれ掛かりこちらを愉快そうに見つめるジンさんがいた。
ジンさんが、いた。
大事な事だから二度言ってしまった。
「い、い」
「いつからだろうなァ」
「こ、こえ」
「かけてもよかったんだが、あんな面白い光景、止めさせるには惜しいだろ」
私は再び頭を抱えることになった。
--------------------
支度したら降りてこい、とだけ投げて階段を降りていったジンさん。この家に泊まっていったのか、それとも一度帰ってまた来たのか。聞く勇気はなかった。
言葉通り服を着替え、ドアを開いた先、目に飛び込んできた光景に私は目を擦った。それはもうごしごしと擦った。
キッチンからはカチャカチャと皿のぶつかる音と水音が聞こえ、そこでは私の存在に気づいたウォッカさんが、「ごはん、出来てるぜ」とニカッと笑っている。
リビングのソファーではジンさんが我が物顔でくつろいでいて、その手にはリモコンが握られている。テレビに映し出されているのは、最近流行りのサスペンスドラマだった。随分とつまらなそうな顔で眺めているが。
非日常が、「いや? 自分日常ですけど何か?」と言いながら殴りかかってくる。自分でも何を言っているのか分からないが、そうとしか表現できなかった。
ここは自分の家じゃないと言われた方がよっぽど信じられただろうに。
「そこに座ってな」
いつの間にか近くにいたウォッカさんに促され、テーブルに向かう。間もなく目の前に湯気の上がるおじやが出された。
「まだ本調子じゃなさげだからな、消化のいいものにしておいたぜ」
「あ、ありがとうございます……」
本調子じゃない原因の1人に言われても……とは言わなかった。偉いぞ自分。
ちなみに、おじやはびっくりするほど美味しかった。
この薄味の優しいおじやを、いかにもなイカつい風貌の人が作るのだから、やはり人間見た目では判断できないものだとしみじみ思う。
空になった食器をキッチンへ持っていき、ウォッカさんに美味しかったですとお礼を言えば、何故かウォッカさんは感動したように「本当か!?」と肩を掴んできた。
誰かに手料理をよく振る舞うけど何も言われない、そんな経験でもあるのだろうか。とりあえずめちゃくちゃ頷いておいた。
いよいよ手持ち無沙汰になった私は、ソファーで寛ぐジンさんに近づいていった。
「と、隣いいでしょうか……」
「お前の家だろうが」
「はは、ですよね……」
でも許可を取らないといけない雰囲気を感じたのだから、仕方ないと思う。出来るだけ慎重に、ジンさんと人ふたり分くらいの距離で腰を下ろす。
「………」
「………」
気まずい、非常に気まずい。
そわそわしてどこか落ち着かない。未だかつて自分の生まれ育った家が、こんなにも心安らがない時があっただろうか。
助けを求めるようにウォッカさんの方をチラリと見たが、テーブルの椅子から面白そうにテレビを見ているだけだった。仕方なく彼に習ってドラマに集中しようとしても、隣の黒い塊にどうしても意識を持っていかれてしまう。
体感数時間くらいの、実は短い時が流れた。
「……随分とつれねぇじゃねぇか」
「へ……?」
ようやく口を開いたジンさんは、ニタリ、とそれはまあいい顔をしていた。
「昨日はあんなに甘えてきたのになァ?」
「お゙ぉん……っ」
その顔の近さに、いつの間にか距離を詰められていたことに気付く。
「あの、本当に、ご迷惑を……」
「気にするな、躾の手間が省けたんだからな」
「しつけ……?」
いきなり顎をくいと持ち上げられ、視線を合わせられる。視界を満たす暴力的なかっこよさに、ぴしりと体が固まってしまう。
「あ……あの……っ」
「恐ろしいか、俺が」
「い、いえ、恐ろしくはないんですけど、」
心臓が持たないんです、と言おうとして、はたと気づく。
(やっぱり、そんなに恐ろしくも怖くもない……)
いや、全く怖くないと言ったら嘘になるが、それでも恐怖に体が震えてしまうことはもうなかった。どうしてだろう。
頭にハテナを浮かべまくりながらジンさんを見つめ返していたら、フッと笑ってあっさり解放してくれた。
「言ったろう、手間が省けた、と」
「は、はぁ」
「まあ、まだ足りねぇがな」
何が、と問う前に、玄関のチャイムが鳴った。誰だろう、と立ち上がるとジンさんが苛立たしげに吐き捨てる。
「いい、放っておけ」
「え、どうして……」
「あの女の面を拝みたくねぇからだ」
「……ってことは、」
ジンさんの制止を振り切って、足早に玄関に向かう。扉の向こうには、
「Kitty……!良かった、もう起きれるのね!」
「ベル姉!」
どこぞの女優です、といったような服を着たベル姉がいた。正直近所で噂にならないか心配になってしまうレベル。
「熱は?もうないのね?」
「えっと、微熱くらいで」
「体は?」
「まだ少しだるいですけど、大丈夫で……」
「そう、本当に良かったわ私のKitty……」
「へぶっ」
言葉通り豊満な胸に顔を埋める。いや、私の意思ではなく、引き寄せられてたのだが。おかげで呼吸が出来ず意識が遠のきかける。ヘブンが見えた気がした。
「来るなと言ったはずだが……?」
背後から不機嫌さMAXの声が聞こえたが、今の状態の私には救世主のように思えた。
「貴方の許可なんて要らないのよ」
「御託はいいからそいつを離せ、殺す気か」
「あら、Kittyどうしたのそんな顔をして……、やっぱりまだ具合悪いのね!?」
違うんです、という前に伸びてきたジンさんの腕に捕まってしまった。と思ったらベル姉の腕もしっかりと私を掴んでいる。あ、これデジャヴだ。始まってしまう、謎のKitty争奪戦が。
勿論前回と全く同じ展開だったので、中身は割愛させていただく。
そして今、私はソファーに座りテレビを眺めるベル姉のクッションと化していた。非常にぬくぬくして柔らかくて、内心興奮状態なのだが。その隣から聞こえるえげつない量の舌打ちに、耳が痛くてたまらない。
「ふふ、楽しいわねKitty」
「ひゃい……」
「チッ!!」
「あ、兄貴……それはまずいですって」
「うるせぇウォッカ…この女だけは殺す」
「ちょっと、そんな物騒なものこっちに向けないでちょうだい。あ、ウォッカ、コーヒーくれる?」
「い、入れてきやす」
「いやここ私の家……」
「ウォッカ、俺のも持ってこい、上の棚だ」
「わかりやした」
「把握されてる……」
「おいクソアマ……いい加減そいつを離しやがれ、頭を吹っ飛ばされたくなければな……」
「あわわ……っ」
「ちょっと、Kittyが怖がってるじゃない!」
「安心しろKitty、お前には当てねぇ……」
「いやそこではなく……」
「アニキー、ブラックでいいっすかー」
「ああ」
「私はミルク多めで頼むわね」
(何この状況……??)
大人3人が集まるとこうも騒がしいのか。まさしくカオスだ。
もういいや、流れに身を任せていた方が安全な気がしてきた。私は死んだ目のまま、諦めの境地に至った。
でも、何故だろう。迷惑というよりはこの騒がしさに懐かしさを覚えてしまう自分がいた。
不思議に思って、辺りを見回した。
キッチンではウォッカさんが湯を沸かしていて。ソファーではジンさんとベル姉が口論していて。リビングのカーテンの向こうには、車の影があって。
よく知っているはずの家が、とても狭く感じた。
(ああ、そっか)
──この家に、私以外の人がいるのはとても久しぶりなんだ
大好きだった両親を突然の事故で亡くして、もう半年近い月日が流れていた。親戚との関わりも希薄だった為に、私を助けてくれる大人というのはとても少なかった。勿論優しい人はいて救われてきたし、烏末さんに今の仕事を頂けたことは感謝してもしきれない。
そうやって何とか、必要な書類手続きやら話し合いやらは終えることができ、私は両親と過ごしたこの家を手放すことも無く、無事社会人としての一歩を踏み出せている。
それでも。
行ってらっしゃいも、おかえりもない、自分の名前が呼ばれることも無い、広くて静かな、そんな家に1人でいることは。
どうしようもなく、虚しくて。
(私、ずっと、寂しかったんだ)
込み上げてくる涙を、目を瞑りぐっと堪えた。何となく、この人達の前で泣きたくなかったから。
その代わりのように、未だ続く物騒だけど暖かい騒がしさのその真下で、私は幸せを噛み締めてへへ、とはにかんだ。
そんな様子を、3人にばっちり見られていたことも知らずに。