清掃員、はじめました。
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このバイトはやっぱりどこかおかしい。
いつものように床をモップで擦りながら私はふと考えた。
都内のどこにでもありそうなこのビルの清掃員になってから早いものでもう3ヶ月が経つ。
まあまあ広いフロアの掃除や、ゴミのまとめ方も大分体が覚えてきたのか、最近は特に困ることも無く自分の仕事を全うできているのではないかと思う。かなりの体力仕事ではあるので、疲労感にだけは慣れないが。
しかし、このビルの清掃バイトはところどころ普通とは違うであろうところがある。バイト経験があまり無い私でもわかる程には、ここはなかなか異様なところであった。
まず一つ。雇い主について。
少し自分の話をしよう。
高校在学中に両親を亡くした私は、親戚付き合いとは無縁のところにいたこともあり頼れる人も場所もなく途方に暮れていた。そんなある日、路地裏で倒れている男か女かよくわからない人を見つけて助けた。助けたといっても倒れていた人にどうして欲しいかを聞いてその通りに行動しただけだったけれど。
思えばこれが全ての始まりだった。
助けた人は苗字を「烏末」といい(何故か名前は教えてくれなかった)、何かお礼をしたいと申し出てくれた。ちょうど困り果てて頭も回らなかった私には、遠慮という概念が消え果てていたのか、ド直球に「何かすぐに出来るバイトを教えてくれませんか」と口にしてしまっていた。慌てて撤回しようとしたが、驚いたことにこの烏末さん、どこぞの企業家らしく相当なお金持ちだそうで。続きを促され、身の上話をすれば、目を輝かせて「ちょうどいい仕事があるんだ」と今のバイト先を紹介してくれた。というか雇ってくれた。
内容はただの清掃の仕事。初心者でも十分に出来るし、清掃員は一人しか雇うつもりがないから煩わしい人間関係に悩まされることも無い。これはまさに神からのプレゼントなのではないか。
「ぜひやらせてくださいッ!」と食い気味に叫んだ。
……こんなに物事が上手くいってる時点で怪しむべきだったのかもしれないが後の祭り。場所を変えて詳しく話を聞けば、絶対に守って欲しい条件があると彼は言い出した。
「私や会社について詮索しないこと」
「出入りする社員には無闇やたらに話しかけないこと」
「このバイトのことを人に話さないこと」
「出勤退勤時間は必ず守るように、それ以外の時間にはビル自体に近づかないこと」
「私が来るなと言った日には来ないこと」
条件を聞いた時に「あ、これ、もしかするともしかするのでは」と察し始めていた私。
「これ、守れなかったらどうなりますか」
烏末さんに恐る恐る聞くと、数秒の間が空いたあと、
「……守れないことがないことを祈るよ」
と笑顔で言っていた。正直怖かった、だって目が笑ってなかったし。
この時点でもう断れないことも何となく察していたので、ええいままよと契約書にサインをした。とにかく私は本当に疲れきっていたのである。あの状況じゃなければきっと断っていた…に…違いない…のではないかな…?
2つ目。業務内容に対する給料の良さ。
ゼロの数を間違えているのではないかという桁数に思わず契約書を3度見した。
「こ、これ、本当に間違ってはないんですよね……?」
「うん?働きぶりによっては足すことも考えてるから、とりあえずはそれで我慢してもらえる?」
会話が出来ている気がしなかった。
そして最後。
出入りしている人達の圧倒的「近づいてはいけないオーラ」。
制服なのかは知らないが、みな揃いも揃って黒服。イカついお兄さんにナイスバディなお姉さん、明らかに持ち歩いちゃいけなそうなブツを持っているお方々が、時間をずらしてぞろぞろと入ってくる。いちいちビクッとしてしまっていた。詮索するな、と言われたがむしろこちらから丁重にお断りさせて頂きたい。
しかし人間何事も慣れというのが肝心で。1ヶ月経つ頃には掃除の合間にビルに入ってきた人を見かけた時には、挨拶をしてお辞儀をするのが当たり前になってきていた。礼儀は絶対に大切にすること。死んだ両親がいつも言っていた。
ありがたいことに、初めは無視が当たり前だった方々も半分くらいが会釈か挨拶で返してくれるようになった。
特に、ブロンドヘアのナイスバディなお姉様が手を振ってウインクをしてくれた日には、思わず「ヴッ」という声と共に崩れ落ちてしまった。絶対に見られているが気にしたら負けだ。いつか近くであの美貌を拝ませていただきたい。
他にも顔のいいお方々が沢山いることに気づいてからは、挨拶の時に顔を拝めるようにまでなった。私もなかなか図太いらしい。
何の話だったか。
そうそう、このバイトは色々とおかしいという話だ。
だが、私は自分でも驚くほどにこのバイト生活をエンジョイしている。
不定期の楽しみもできてからは、特に。
いつものように床をモップで擦りながら私はふと考えた。
都内のどこにでもありそうなこのビルの清掃員になってから早いものでもう3ヶ月が経つ。
まあまあ広いフロアの掃除や、ゴミのまとめ方も大分体が覚えてきたのか、最近は特に困ることも無く自分の仕事を全うできているのではないかと思う。かなりの体力仕事ではあるので、疲労感にだけは慣れないが。
しかし、このビルの清掃バイトはところどころ普通とは違うであろうところがある。バイト経験があまり無い私でもわかる程には、ここはなかなか異様なところであった。
まず一つ。雇い主について。
少し自分の話をしよう。
高校在学中に両親を亡くした私は、親戚付き合いとは無縁のところにいたこともあり頼れる人も場所もなく途方に暮れていた。そんなある日、路地裏で倒れている男か女かよくわからない人を見つけて助けた。助けたといっても倒れていた人にどうして欲しいかを聞いてその通りに行動しただけだったけれど。
思えばこれが全ての始まりだった。
助けた人は苗字を「烏末」といい(何故か名前は教えてくれなかった)、何かお礼をしたいと申し出てくれた。ちょうど困り果てて頭も回らなかった私には、遠慮という概念が消え果てていたのか、ド直球に「何かすぐに出来るバイトを教えてくれませんか」と口にしてしまっていた。慌てて撤回しようとしたが、驚いたことにこの烏末さん、どこぞの企業家らしく相当なお金持ちだそうで。続きを促され、身の上話をすれば、目を輝かせて「ちょうどいい仕事があるんだ」と今のバイト先を紹介してくれた。というか雇ってくれた。
内容はただの清掃の仕事。初心者でも十分に出来るし、清掃員は一人しか雇うつもりがないから煩わしい人間関係に悩まされることも無い。これはまさに神からのプレゼントなのではないか。
「ぜひやらせてくださいッ!」と食い気味に叫んだ。
……こんなに物事が上手くいってる時点で怪しむべきだったのかもしれないが後の祭り。場所を変えて詳しく話を聞けば、絶対に守って欲しい条件があると彼は言い出した。
「私や会社について詮索しないこと」
「出入りする社員には無闇やたらに話しかけないこと」
「このバイトのことを人に話さないこと」
「出勤退勤時間は必ず守るように、それ以外の時間にはビル自体に近づかないこと」
「私が来るなと言った日には来ないこと」
条件を聞いた時に「あ、これ、もしかするともしかするのでは」と察し始めていた私。
「これ、守れなかったらどうなりますか」
烏末さんに恐る恐る聞くと、数秒の間が空いたあと、
「……守れないことがないことを祈るよ」
と笑顔で言っていた。正直怖かった、だって目が笑ってなかったし。
この時点でもう断れないことも何となく察していたので、ええいままよと契約書にサインをした。とにかく私は本当に疲れきっていたのである。あの状況じゃなければきっと断っていた…に…違いない…のではないかな…?
2つ目。業務内容に対する給料の良さ。
ゼロの数を間違えているのではないかという桁数に思わず契約書を3度見した。
「こ、これ、本当に間違ってはないんですよね……?」
「うん?働きぶりによっては足すことも考えてるから、とりあえずはそれで我慢してもらえる?」
会話が出来ている気がしなかった。
そして最後。
出入りしている人達の圧倒的「近づいてはいけないオーラ」。
制服なのかは知らないが、みな揃いも揃って黒服。イカついお兄さんにナイスバディなお姉さん、明らかに持ち歩いちゃいけなそうなブツを持っているお方々が、時間をずらしてぞろぞろと入ってくる。いちいちビクッとしてしまっていた。詮索するな、と言われたがむしろこちらから丁重にお断りさせて頂きたい。
しかし人間何事も慣れというのが肝心で。1ヶ月経つ頃には掃除の合間にビルに入ってきた人を見かけた時には、挨拶をしてお辞儀をするのが当たり前になってきていた。礼儀は絶対に大切にすること。死んだ両親がいつも言っていた。
ありがたいことに、初めは無視が当たり前だった方々も半分くらいが会釈か挨拶で返してくれるようになった。
特に、ブロンドヘアのナイスバディなお姉様が手を振ってウインクをしてくれた日には、思わず「ヴッ」という声と共に崩れ落ちてしまった。絶対に見られているが気にしたら負けだ。いつか近くであの美貌を拝ませていただきたい。
他にも顔のいいお方々が沢山いることに気づいてからは、挨拶の時に顔を拝めるようにまでなった。私もなかなか図太いらしい。
何の話だったか。
そうそう、このバイトは色々とおかしいという話だ。
だが、私は自分でも驚くほどにこのバイト生活をエンジョイしている。
不定期の楽しみもできてからは、特に。
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