囚われる
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どこまでも組織に向かない人間だと思った。
最初はただ無性に苛立った。
決して射撃の腕は悪くない。そして、それ以上に凄まじかったハッカーとしての才能。あの方があらゆる手段を使ってでもアイツを組織へと欲しがった理由はすぐにわかった。
ただ、一般人が紛れ込んでいるのかと錯覚するほどに、アイツは白かった。あの方が連れてきたと言われなければ鼠の疑いをかけるほどには。
屈託のない笑顔は、闇に生きる人間には眩しすぎた。
すぐにネームドにまで上がってきたアイツを、ベルモットは一瞬でお気に入りにし、あのキャンティ達もよくアイツの部屋まで行っていた。
俺でさえ、アイツの隣は居心地がいいとまで思うようになっていた。
「ジンさん、お疲れ様です」
「…………」
「……ちゃんと休んでますか?いつにも増して眉間に皺がよってますよ?」
「チッ……、だったらなんだ」
「はぁ……。ジンさん、自分のことなんだと思ってるんですか」
「あ?」
「ジンさんも、人間なんですよ」
──お願いですから、自分のこと大切にしてください
ちゃんと休まなきゃ人は死ぬんだと、至極真面目そうに言った。
泣きそうな顔で、真っ直ぐ目を見つめて言い放ったアイツを、組織内で密かに恐れられるネームドの人間だと誰が思うだろうか。
「……ハッ、てめぇに言われずとも俺はそう簡単には死なねぇよ」
そう返せば、ふにゃりという擬音がつきそうな顔で笑っている。
気色悪いと頭を撫でる――と言うには乱暴な手つきで髪をぐしゃぐしゃにしてやった。
何故か、目の前の生き物がとてもちっぽけで弱いものに思えてならなかった。
いつだったか。
闇の中で染まりきらないアイツに危機感を覚えたのは。
この組織の残虐さに、逆らうように生きるブルームーンは、強そうに見えてとても脆かった。
アイツが裏切ることはないが、それでも一部の連中から反感を買うことは少なくなかった。そして利用しようとする奴も。
裏切りに満ちたこの世界で、何度も心を痛めて泣く彼女は、どうしようもなく愚かで、憐れで。憎らしいほどに可愛く思う、不思議な感覚。
そんな自分に気付いた時には、もう仄暗い感情が顔を覗かせていた。
奪ってしまえ
閉じ込めて、黒に染めてしまえ
自分以外を信じられなくなるように
闇の世界で永遠に生きられるように
そんな時だった。
鼠の抹殺命令が、あの方から言い渡されたのは。
案の定、奴を慕っていたブルームーンは庇うために俺に慣れない手で拳銃を向けた。撃てもしないのに。
ぐちゃぐちゃな顔で、それでも真っ直ぐ俺を見つめるブルームーン。
まだ抗おうとする小さな光に苛立ちが募る。
──堕ちてしまえば、楽になれるだろうに
もう、潮時だ。
声にならない声をあげ、崩れ落ちる体。
その軽さに、何とも言えない感情が湧き上がる。
殺してと懇願する彼女の手を掴み、口にするのは絶望の詩。
殺してなどやるものか。
これからじっくりと黒に、俺の色に染めていくのだ。
この世界で生きていけるように。
──もう苦しむことがないように
たとえどれだけの屍を積み重ねようと。
堕ちきった時、彼女が見つめるのが、泣き縋るのが俺だけであればそれでいい。
──あァ、楽しみだ。なぁ、悠芽?
腕の中で意識を失った小さな体を抱き上げ、真っ白な首に口付けを落とす。
もう長く呼ばれていないであろう名を囁けば、目尻の涙が頬を伝い落ちていった。
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