囚われる
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「……撃つか?俺を」
銃口を向けられた彼の顔に動揺の色は浮かんでいない。
広がる仄暗さの中、淡緑の双眼だけが真っ直ぐとこちらを捉えている。
止められない手の震えが伝わって、カチャカチャと拳銃が音を立てていた。
私の後ろには仲間がいる。正確には仲間だと思っていた、鼠。
私が拳銃を向ける相手は本来彼女だったはずだった。
どうして、どこで、間違えた?
頭の中で、姉のように慕っているブロンドヘアの彼女がいつだったか言った言葉が響いた。
──ジンは裏切り者を、決して許さないわ
--------------------
ネームドになった彼女を、私は慕っていた。毎日のように共に居た。ショッピングに出かけたりもしたし、互いの部屋に行ったりもした。陽の当たらない世界にいた私に、初めて出来た『友達』。
彼女が私のハッキング技術、それによって得られた情報を利用しようと近付いていたことも気付かずに。要は、私の警戒心の無さに付け込まれたわけだった。
岡目八目とはまさにこのことで、周りの方が私よりも警戒していた。
ジンさんやベル姉達は何度も遠回しに奴に近付くなと言い、私のいない所で遠ざけようと画策していた。心配しすぎだ、気にしないでと突っぱねてきたが、そうして甘やかされていたのだと、今では思う。
楽しかった日々は、慕っていた彼女によって突如終わりを告げた。
--------------------
結局、彼女は私達の仲間ではなかった。
既に彼女の抹殺命令は全ネームドに行き渡っており、その命は私とて例外ではなかった。
裏切りは許せない。だが、それでも私には大切な人だった。だから誰よりも先に彼女の行動を読み、この場だけは切り抜けられるように手を貸してあげたい。そのつもりだったのに。
──NOCであることがバレた
──道連れにしてやる
余程切羽詰まっていたのだろう。
それはそうだ、命の危機が迫っていたのだから。
吐き出される罵詈雑言。自分に向けられる拳銃。
八つ当たりでしかない行動に、私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。私が所持していた拳銃は服の中に仕舞われたまま。この場合危険なのは私かと、ただ、ぼんやりと思っていた。
パァン、と銃声が響いた。
それは彼女によるものではなかった。
何が起こったのかわからないといった顔をしたままよろめいた体に、容赦なく弾丸が撃ち込まれていく。それはまるでスローモーションのように私の目に映った。
そうして倒れ込んだ彼女の向こう側には、彼――ジンさんがいた。
これが正解なのだ。私は助かり、裏切り者への制裁は完了した。
それでも私は、ジンさんによって消されようとしていた彼女を、見過ごすことは出来なかった。
致命傷を負い、既に虫の息の彼女の前に飛び出す。
本能のままに彼に銃口を向けた。
ベレッタよりも一回り小さいこの拳銃は、普段使いしない私のために彼が選んでくれたもの。
それを向けられた当のジンさんが、どんな顔をしているかなんて分からない。自分でも何が何だか分かっていないのだ、この行動に意味などないということ以外。
今度こそ限界が来ていた。呼吸がうまく出来ず、心臓がバクバクと脈打ち苦しい。
ショック、憎しみ、悲しみ、恐怖、ごちゃ混ぜになった感情は涙となって流れる。
照準など、初めから合っていなかった。
目の前の彼への憎しみなど初めからない。それが例え慕っていた者の命を刈り取った存在であっても。
今更後悔しても、一度構えたそれを降ろすことが出来ない。
助けて、なんて目の前の彼に言えるものでは無い。
彼は手にしている銃を向けることもせずに、ただ私を見つめていた。
どれだけの時間がたったのか。
涙は乾く暇を与えるものかととめどなく流れ続けて、そして落ちていった。
私の背にはもう、彼女の生の気配は感じられなかった。
先に動いたのはジンさんの方だった。
「てめぇには無理だ」
無駄な動きを一切せずに間合いを詰め、私の手から銃を奪った。
「……う……ぁっ」
声にならないモノが喉の奥から漏れて消える。膝から崩れ落ちた体は意外にも彼によって支えられていた。
「ジ…ンさん、もっ、……やだ、ころして……!殺してぇ……!!」
叫ぶように懇願する。
生きていけない。いたくない。こんな血と裏切りに満ちた世界では。
純白とは程遠い。
私とて血を浴びたことがない訳では無い。この組織ではそれが絶対であるから。
けれども黒にはなりきれない。
裏切りに満ちた世界だからこそ、ほんの少しの光に手を伸ばしてしまう。
堕ちれば楽だとわかっているのに、最後に残った小さな光が、恐怖してもがく。
なら、いっその事消えてしまいたい。
きっと、彼なら、私のことを消すくらい造作もないはずだから。
お願い、ジンさん──
縋るように伸ばした手は彼に掬われた。なのに。
「組織にとってお前は必要不可欠だ」
「……ぁ、」
「俺はお前を殺さねぇ。あの方がお前を必要としている限りな」
現実はどこまでも残酷だった。
瞬間、首元に感じる衝撃と痛み。
暗転する世界。最後に見た彼の顔からは感情は読み取れなかった。
銃口を向けられた彼の顔に動揺の色は浮かんでいない。
広がる仄暗さの中、淡緑の双眼だけが真っ直ぐとこちらを捉えている。
止められない手の震えが伝わって、カチャカチャと拳銃が音を立てていた。
私の後ろには仲間がいる。正確には仲間だと思っていた、鼠。
私が拳銃を向ける相手は本来彼女だったはずだった。
どうして、どこで、間違えた?
頭の中で、姉のように慕っているブロンドヘアの彼女がいつだったか言った言葉が響いた。
──ジンは裏切り者を、決して許さないわ
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ネームドになった彼女を、私は慕っていた。毎日のように共に居た。ショッピングに出かけたりもしたし、互いの部屋に行ったりもした。陽の当たらない世界にいた私に、初めて出来た『友達』。
彼女が私のハッキング技術、それによって得られた情報を利用しようと近付いていたことも気付かずに。要は、私の警戒心の無さに付け込まれたわけだった。
岡目八目とはまさにこのことで、周りの方が私よりも警戒していた。
ジンさんやベル姉達は何度も遠回しに奴に近付くなと言い、私のいない所で遠ざけようと画策していた。心配しすぎだ、気にしないでと突っぱねてきたが、そうして甘やかされていたのだと、今では思う。
楽しかった日々は、慕っていた彼女によって突如終わりを告げた。
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結局、彼女は私達の仲間ではなかった。
既に彼女の抹殺命令は全ネームドに行き渡っており、その命は私とて例外ではなかった。
裏切りは許せない。だが、それでも私には大切な人だった。だから誰よりも先に彼女の行動を読み、この場だけは切り抜けられるように手を貸してあげたい。そのつもりだったのに。
──NOCであることがバレた
──道連れにしてやる
余程切羽詰まっていたのだろう。
それはそうだ、命の危機が迫っていたのだから。
吐き出される罵詈雑言。自分に向けられる拳銃。
八つ当たりでしかない行動に、私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。私が所持していた拳銃は服の中に仕舞われたまま。この場合危険なのは私かと、ただ、ぼんやりと思っていた。
パァン、と銃声が響いた。
それは彼女によるものではなかった。
何が起こったのかわからないといった顔をしたままよろめいた体に、容赦なく弾丸が撃ち込まれていく。それはまるでスローモーションのように私の目に映った。
そうして倒れ込んだ彼女の向こう側には、彼――ジンさんがいた。
これが正解なのだ。私は助かり、裏切り者への制裁は完了した。
それでも私は、ジンさんによって消されようとしていた彼女を、見過ごすことは出来なかった。
致命傷を負い、既に虫の息の彼女の前に飛び出す。
本能のままに彼に銃口を向けた。
ベレッタよりも一回り小さいこの拳銃は、普段使いしない私のために彼が選んでくれたもの。
それを向けられた当のジンさんが、どんな顔をしているかなんて分からない。自分でも何が何だか分かっていないのだ、この行動に意味などないということ以外。
今度こそ限界が来ていた。呼吸がうまく出来ず、心臓がバクバクと脈打ち苦しい。
ショック、憎しみ、悲しみ、恐怖、ごちゃ混ぜになった感情は涙となって流れる。
照準など、初めから合っていなかった。
目の前の彼への憎しみなど初めからない。それが例え慕っていた者の命を刈り取った存在であっても。
今更後悔しても、一度構えたそれを降ろすことが出来ない。
助けて、なんて目の前の彼に言えるものでは無い。
彼は手にしている銃を向けることもせずに、ただ私を見つめていた。
どれだけの時間がたったのか。
涙は乾く暇を与えるものかととめどなく流れ続けて、そして落ちていった。
私の背にはもう、彼女の生の気配は感じられなかった。
先に動いたのはジンさんの方だった。
「てめぇには無理だ」
無駄な動きを一切せずに間合いを詰め、私の手から銃を奪った。
「……う……ぁっ」
声にならないモノが喉の奥から漏れて消える。膝から崩れ落ちた体は意外にも彼によって支えられていた。
「ジ…ンさん、もっ、……やだ、ころして……!殺してぇ……!!」
叫ぶように懇願する。
生きていけない。いたくない。こんな血と裏切りに満ちた世界では。
純白とは程遠い。
私とて血を浴びたことがない訳では無い。この組織ではそれが絶対であるから。
けれども黒にはなりきれない。
裏切りに満ちた世界だからこそ、ほんの少しの光に手を伸ばしてしまう。
堕ちれば楽だとわかっているのに、最後に残った小さな光が、恐怖してもがく。
なら、いっその事消えてしまいたい。
きっと、彼なら、私のことを消すくらい造作もないはずだから。
お願い、ジンさん──
縋るように伸ばした手は彼に掬われた。なのに。
「組織にとってお前は必要不可欠だ」
「……ぁ、」
「俺はお前を殺さねぇ。あの方がお前を必要としている限りな」
現実はどこまでも残酷だった。
瞬間、首元に感じる衝撃と痛み。
暗転する世界。最後に見た彼の顔からは感情は読み取れなかった。
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