よもやま

もうすぐ、中秋の名月ですね

2026/09/21 13:58
久々に、医大生と幼稚園教諭な設定でSSを書いてみました。


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——折角、来てくれたのに…ごめんね。

そう、申し訳なさそうに俯く井上の手には、作りかけのうさぎ耳つきカチューシャ。
床に座り込む、その周囲には布やフェルトの切れ端、針金等が散らばっている。

「いつも言ってるけど、同じ空間に居られるだけで、俺は満足なんだって」

だから、気にするな——と。
胡桃色の髪をワシワシと撫でてやれば、井上は首を竦めて、くすぐったそうに笑った。

「運動会用の衣装?」
「メインの使い道はそれなんだけど、連休明けすぐに中秋の名月でしょ?
みんなでこれ着けて、歌ったり踊ったりしたら楽しいかな…って」
「なるほど」

再利用の難しそうな至極小さな端布などを集めてゴミ箱に放りながら、小さな子供たちが、うさぎ耳をつけてはしゃいでいる様子を想像する…それだけで、知らず口の端が上がる。
その、真ん中で。
子供達に負けず劣らず、元気に歌い踊っている井上の姿を思い浮かべたならば、尚のこと……。

「——何か、変な想像してない?」

常より少し低めの声に我に帰ると、井上がジト目で俺を見ていた。

「してねぇよ?」
「なら、いいけど」

尚も不審そうな眼差しのまま、軽く唇を尖らせる井上。
一体何を疑っているのか知らないけれど、地味に傷つくものがある。

「そっちこそ、俺が何考えてると思ったんだよ」
「そ、それは……」

途端に真っ赤になって視線を宙に泳がせる姿に、眉間の皺を深めて首を傾げること数秒。
ようやく井上が何を考えたのかに思い至ると同時に、大きく目を見開いた。

「……もしかして、バニーガール…?」
「ご、ごめんなさい!!」

床に伏せるようにして、井上が深々と頭を下げる。
一連の俺の反応から、本当に邪な想像などしていなかったのだと悟ってくれたのだろう。
そのことに安堵はしたものの、完全に気分スッキリ…とはならなくて、俺はため息混じりに、何故そんな発想に至ったのかと問いかけた。

「その…夜一さんや乱菊さんから、黒崎くんは意外とムッツリだから、気をつけろ——って、よく言われてて…」
「——ったく、あの人達は…!」

思わず、片手で顔を覆いながら、呻く。
しかも「よく言われてて」ってなんだよ?!
そんなにしょっちゅう、あの二人は碌でもないことを井上に吹き込んでんのか?!
全くもって、余計なお世話だ。

「あのさ…二人とも悪い人達じゃねぇし、井上のことを妹とか娘のように思ってるんだろうな…ってのも、側から見ててわかるんだけどよ。
少なくとも俺の為人については、井上自身が判断してくれねぇか。
あの人たちの言うことを、鵜呑みにせずに…さ」
「……うん」

こっくりと、幼子ような仕草で首を縦にして。
本当に、ごめんなさい——と、井上が項垂れる。
俺は苦笑混じりに再度胡桃色の髪をくしゃくしゃと掻き回すと、殊更に明るい口調で、尻尾は作らないのかと尋ねた。

「作るよ! だから、後で食材買い出しに行く時に、手芸店にも寄って欲しいの」
「了解。食後は俺も、尻尾作り手伝うよ。
アレだろ、毛糸でポンポン作るんだろ? そのくらいなら、俺にも出来るからさ」
「うん……実は、かなり期待してるんだ。真ん中を固く縛るのって、結構難しいから」
「おう、任せとけ!」

戯けて、力瘤を作ってみせる——その、俺の姿を写す薄茶の瞳が、柔らかく細まった。

「ありがとう、黒崎君…!」

ふうわり……と。
俺の目の前、綺麗に笑顔の花が咲く。

いつもの、とおりに。
まるで、小春日和の陽だまりのように——。









終

コメント

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  • Kayano2026/09/30 13:31

    学園祭と中秋の名月を掛けた、微笑ましいお話ですね。

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