一織ワンドロライ
お題:ケーキ(2015.9.3)
【陽光】
「お父さん、こんな感じでいい?」
息子の蒼良が、まな板の上を指さしながら俺に問いかける。
小さな指の示す先には、薄くスライスされた苺の小山が出来ていた。
「ああ、それだけあれば充分だろう。それにしても…お前は本当に、器用だな」
俺譲りの橙色の髪を軽く撫でてやれば、ヨメさん譲りの大きな目を細めて、はにかむ蒼良。
そんな表情も、ヨメさんそっくりだ。
「確か…一学期の家庭科の成績も良かったよな?」
「うん! 僕…料理には結構、興味あってさ。ときどきだけど、夕飯のお味噌汁の具にする野菜とか、お母さんに頼んで切らせて貰ったりしてるんだよ!」
「そうか…」
微笑みながら相槌を打てば、いっそう嬉しそうに細まる薄茶の瞳。
……しかしながら。
次の瞬間、今度はその目を転げ落ちそうなくらいに見開いて、蒼良が叫んだ。
「咲良ちゃん、駄目…っ!!」
「え……あ! こら、さくらっ?!」
「…んふ、美味しー! 苺と生クリームって、何でこんなに合うのかなぁ…?」
「…………」
頬に生クリームをつけた状態でうっとりと呟く娘の姿に、思わず溜息を吐く。
「咲良ちゃん…それ以上苺食べちゃったら、飾り付けの分が足りなくなっちゃうからね?」
「そのくらい、ちゃんとわかってるって! 心配ご無用ですことよ、お兄さま!!」
に…っと笑って親指を突き立ててみせる妹の姿に、蒼良もまた俺同様、げんなりとした顔で息を吐き出した。
「……調子良いんだから」
「えへへ♪」
ぺろっ…と舌を出して、笑って。
それから咲良は、俺の顔を見上げて言った。
「おとーさん、生クリームはもう少し固いほうが良いと思うの」
「………へいへい」
半ば投げやりに返事をしながら、中断していた生クリーム作りを再開する。
……明日起きたら、右腕が筋肉痛になっていそうだ。
「しっかり泡立ててよね! 苺ショートは生クリームが命なんだからね!!」
「……家庭科の成績が最低ランクのお前に、とやかく指図される言われはない」
大人げないとは思いつつも、ついつい憮然として言い返してしまう。
「ちなみに、咲良……お前、これまで学校の調理実習では、いったい何を担当してきたんだ?」
「えっと…お鍋が吹きこぼれないように見張り番する係と、味見係」
「……………」
返事や相槌に窮して、黙り込んでいると。
味覚だけは誰よりも確かだものねぇ…と、蒼良が感心したように呟いた。
……そう。
俺の実家の家族も含めたなかで、おそらく最も味覚が鋭く優れているのは、彼女なのだ。
調理の腕に関しては、今のところかなり壊滅的な状況らしいけれど。
「……そろそろいいかな」
「どれどれ、姫が味見をしてしんぜよう」
「誰が姫だ、誰が」
横から伸びてきた咲良の腕、その指先がボウルの中のクリームをすくい上げる。
「……ん! 今度は完璧ですぞ、父上!!」
「そうでござるかよ」
苦笑混じりに、頷いて。
ボウルを調理台に置くと、冷蔵庫からスポンジを取り出した。
このスポンジは、かつてのヨメさんのバイト先にお願いして譲ってもらったもの。
ケーキを手作りしたいと望んだ子供たちのために、店長さんが特別に取りはからってくれたのだ。
この時期に大量の苺が手に入ったのも、店長さんのおかげ。
ヨメさんがバイトしていたのは、もう十年以上も前なのに……それだけ彼女の人柄と勤務態度とが、高く評価されていたと言うことなのだろう。
「ほら…ここから先は、お前等だけでやってみろ」
「うん!」
「ぶ・らじゃー!」
「咲良…お前、もう六年生だろうが……」
拙くおぼつかない手つきながらも、真剣な表情でケーキを飾り付ける子供達を、シンクに凭れながら黙って見守る。
やがて出来上がったケーキは、商品のような美しさは無くとも、子から母への、思慕と感謝の気持ちをそのまま具現化したような、なんともいえない温かみを感じさせる仕上がりとなった。
「……お母さん、喜んでくれるかなぁ…」
「そんなの、当たり前だろ!」
何処か不安げな子供たちの頭をわしわしと撫でれば、安堵の笑みが二人の顔に広がる。
「さぁ…ケーキは俺がテーブルに運んでおくから、二階に行ってお母さんを呼んでおいで」
「はーい!」
「わかったぁ!」
バタバタと階段を駆け上がっていく足音を聞きながら、リビングのテーブルにケーキを運んで。
冷蔵庫からジュースを取り出すためにキッチンへと戻りながら、そっと服のポケットに触れる。
そこには、俺から彼女へのプレゼントが入っていた。
右手と右足いっぺんに出るくらい緊張しながら入ったジュエリーショップで見つけた、繊細な造りのペンダント。
「……気に入ってくれると、いいけど」
小さく呟いたところでリビングのドアが開き、子供たちに手を引かれたヨメさんが入ってきた。
「わぁ…素敵……!」
ケーキを見て、感嘆の声を上げるヨメさん。
顔を見合わせ、誇らしげに笑みを交わす双子の子供たち。
キッチンとリビングの境の壁に凭れながら、その幸福な光景を眺める。
その俺の視線の先、ふわり…と胡桃色の髪が揺れて。
綺麗な薄茶色の瞳が、俺の姿を捉えて細まった。
「お誕生日おめでとう、織姫」
「ありがとう…一護くん……!」
ふうわり…と、微笑むヨメさん。
その、降りそそぐ陽光のような笑顔の眩しさに、俺もまた目を細めた。
いつでも。
いつまで、でも。
君は俺にとっての、たった一つの護るべき太陽……。
終
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締切時間を一時間半以上も超過して書きあがった挙句、「パロディ禁止」の規約に抵触しかねないほどのオリキャラの出張りっぷり、織姫の出番無さすぎ…という情けない結果に終わりました……orz