log:生誕祭



【17歳 SIDE:一護…おまけ】
(初出:2015.7.20)







「いやぁ、あんたら本当に良く頑張った! ほら、褒美だ!! 遠慮なく食え!!!」

満面の笑みで、越智さんが教卓にアイスを積み上げる。
途端に、教室は歓声に包まれた。
アイスを驕って貰えるってことだけでも嬉しいのに、越智さんが用意してくれたのはアソートパックとはいえ、某有名アイスメーカー製のものだったからだ。

「ほら、好きなの持ってけ!」

越智さんの言葉が終わらぬうちに、我も我もと教卓へと突進し始めるクラスメイト達。

「あざーっす!」
「越智さん、太っ腹ーっ!!」
「こら、そんなに慌てるな!! ちゃんと全員分あるから。将棋倒しにでもなったら大変だ」

苦言を呈しつつも、越智さんは本当に嬉しそうだった。
さもありなん。
俺たちが決勝で勝った相手クラスの担任は、越智さんの天敵とも言える生徒指導部一のうるさがたである教員だったからだ。

「お疲れだったな、黒崎!」

俺が教卓に近づくと、越智さんは一層華やかな笑顔になって。
手元のアイスのカップをひとつ手に取ると、俺に向かって放ってくれた。

「確かお前、アイスクリーム系ならチョコしか食わんかったよな? 逆転ゴール決めてくれたお礼に、確保しといてやったぞ!」
「……あざっす!!」

笑顔で頭を下げて、自席へ戻るべく踵を返す。

教卓前で押し合いへし合いする人波から、やっとのことで抜け出して。
ほう、と大きく息を吐きだすと、くすくす…と笑う声が耳に届いた。

「本当にお疲れ様、黒崎くん!」
「井上…」

小首をわずかに傾げながら、にこり…と笑う。
その愛らしさに、思わず一瞬息が止まった。

「本当に凄かったよ、最後の決勝ゴール!」
「ああ…誰かさんにアイス喰わせる約束しちまったからな。あそこで決めなきゃ、男が廃るだろ」
「ふふ…」

軽く肩をすくめて、ちろりと舌を出す井上。
そんな子供っぽい仕草に心臓が高鳴ると同時に、優しく暖かな何かが心の中を隅々まで満たしていくのを感じる。



ああ…本当に、俺はどれほどこの笑顔に救われていることだろうか。

あの日からずっと、どこか色褪せて見えるこの世界。
その景色のなかで、たった一つ。
いつでもどんなときでも、色鮮やかに俺の視界に映り込む、それは。
まるで、虹色に光り輝く花のようで……。





「……くろさき、くん?」
「あ…あぁ、悪ぃ! ちょっとぼーっとしてた。流石に疲れたしな……って、あれ?
井上、未だアイス取りに行ってねぇのか?」

見かけによらず大食いで、特に甘いものには目が無い筈の井上の机の上には、ほっそりと白い彼女の手以外見つけられなくて。
まさか、もう食べ終えたわけじゃあるまいな…と、疑わしげな視線を向ければ、井上は苦笑気味に微笑みながら、どれにしようか、決めあぐねているのだと言った。

「だから、最後に残ったのにしようかな…と思って。ほら、残り物には福が有るって言うし」
「ふぅん?」

そんな会話を、交わした直後。

「誰だー! 未だ取りにきていないのは!! アタシが二個喰っちまうぞ!!!」

教室に響き渡る、越智さんの声。
井上は慌てて立ち上がり、教壇へと小走りに向っていった。
やがて、にこにこ笑顔で戻ってきた彼女の手には、蓋に苺の絵の描かれたカップが一つ。

「えへへー、嬉しい! 大好きなんだぁ、苺味!!」
「………」

一瞬、息を詰まらせた俺に気づくことなく、井上は席に腰かけ、アイスの蓋を取り外して。
匙でひと掬いした薄桃色の小さな塊を、あーんと大きく開けた口へと運びこんだ。

「んー、美味しいっ!」

じたじたと足をばたつかせながら、心底幸せそうに微笑む井上。
思わず吹き出してしまうと、井上が上目づかいに俺の事を睨んできた。

「……今、ガキっぽいって思ったでしょ?」
「いや、そんなこと……あるけど」
「っ、?!」

むぅ…と、むくれる井上。
俺はくつくつと喉の奥で笑い続けながら、自分のアイスの蓋を開けて。
匙をナイフのように使って、少し大きめの塊を切り出し、井上の机の上に置かれたアイスの蓋へと乗せてやった。

「くろっ…?!」
「タオルと応援のお礼」

戸惑いながら俺の顔を見上げた井上に、にっ…と口の端を吊り上げて笑って。
それからゆっくりと踵を返すと、自分の席へと戻るべく足を踏み出す。

「あ…ありがとう、黒崎くんっ!」

背後から届いた声に、振り返らぬまま軽く片手を上げた。

「本格的なお返しについては、一月半かけてじっくり考えねぇとな…」

口の中で、そんな事を呟きながら……。








終
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