旧サイトでの拍手御礼短文



【sweet sweet baby】





ただいま……と、玄関に足を踏み入れる。

ぱたぱたと駆け寄ってくる軽めの足音が、二つ。
おかえりなさい……を言うのも、そこそこに。

「Trick or Treat?」

声をハモらせ、俺に向かって手を突きだしたのは。
幼い双子の、子供達。

息子の頭には、熊の。
娘の頭には、兎の。
布製の耳が、くっついていた。

俺は思わず、笑って。

「かぼちゃのプリン、買ってきた。だから悪戯は勘弁な?」

ケーキ屋の箱を掲げて、軽く揺すってみせたら。
双子達はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、嬉しそうに歓声を上げた。

箱を下足箱の上に置き、靴を脱ぎながら、子供達に問いかける。

「その耳は、母さんが作ってくれたのか?」
「うん!」
「そーだよぉ?」

こっくりと頷き、嬉しそうに笑う二人。
良かったな……と、頭を撫でてやれば、くすぐったそうに身を捩る。

そのとき、こちらへ向かってくる新たな足音を聞いて。
顔を上げた俺は……そのままそこで、固まった。

「おかえりなさい、一護くん」

そう言って。
ふわんと笑ったヨメさんの頭についていたのは、猫の耳。

ただいまを言うことすら忘れて、彼女を見つめる俺の視線、に。
ヨメさんは慌てて、頭へと手を持っていった。

「あ……あはっ、や、やっぱり変だよね、この歳でこんな格好してちゃ……」

そう言いながら猫耳を外そうとするのを、慌てて手を伸ばし、腕を軽く押さえるようにして止める。

「一護、くん?」
「……外さなくていいから」
「でも」
「ちょっと、吃驚したけど……それだけだから。子供達につきあってやってんだろ?」
「………うん」
「なら、子供達が寝るまでは、そのままにしといてやれよ」
「うん………!」

俯いていた顔をあげ、にっこりとヨメさんが笑う。

思わず跳ねた、鼓動。
それを悟られまいと、努めながら。

「良く、お似合いですよ……奥さん?」
そう、少しからかうような口調で彼女に告げて。

すると。

ぽ………と、彼女の頬に朱が挿して。
少女のようにはにかむ様子に、再び鼓動がとくんと暴れてしまった。



………何やってんだ、俺。



高校生じゃあるまいし……と。
頭を軽くひとふりし、脱いだままだった靴を揃えようと、屈み込んだ瞬間。


かぽっ………と、頭に何かがはめられた。

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慌てて、背後のヨメさんを振り仰ぐ。

「わぁ、似合う!」

嬉しそうに手を叩く、ヨメさん。
その脇で。

「おとしゃん、かっこいい!」
「ホント、かっこいいよお!」

子供達も、瞳をきらきらさせて俺を見ていた。

そろり……と、自分の頭上に伸ばした指先が、何か尖ったふさふさしたものに触れる。

「………猫耳?」
「違います! 一護君のは、狼耳ですよ!!」

折角なので、ついでに作ってみました……と。
にこにこ、にっこり。
無邪気に笑う、ヨメさん。
その笑顔、と。

「わぁい、おとーしゃんも、おそろいー」
「おそろい、おそろい!」

くるくると、嬉しそうに駆け回る子供達の姿に。

まぁ……年に、一度くらいなら。
こんな行事に乗せられてみるのも、いいか………と。

ネクタイを緩めつつ、苦笑混じりに立ち上がる。

「夕飯出来てるかな? 実はかなり、腹ぺこなんだ」
「あ、うん、すぐに食べられますよ。
……ごめんなさい、先刻まで待ってたのよ?
でも、子供達のお腹が限界になっちゃって……先に、いただいてるところなの。
もうちょっと待てば、良かったなぁ……」
「別にいいよ、気にしなくて。電話入れなかった俺も、悪いし」

俯くヨメさんの肩をひとつ叩いてから、子供達の目線の高さに屈みこんで。

「じゃ、プリンはご飯を残さず食べられたら……だ。
好き嫌いして残すような子には、例えどんな悪戯されようと、食べさせないからな?」

少しだけ怖い顔をしながら円らな瞳をのぞき込むと、二人は子供達はちょっと困ったような顔をして。
それぞれ肩を落としながら、はぁい……と小さく肯く。

「どうした? 随分と弱気だな」
「今日のおかずは、ピーマンの肉詰めとミネストローネなのよ」

くすくすと笑うヨメさんに、なるほど……と相槌打ちながら苦笑する、俺。
どちらの料理にも、幼い子供が嫌う野菜の定番品が入っているというわけだ。

「ま…プリンを食べたきゃ、頑張るんだな!」

くしゃくしゃっ……と、二人の軟毛を撫でて。
それから肩に手をかけて、くるりと身体を反転させる。

「さ、先にリビング行って、食事の続きをしていろ。父さんは着替えて手を洗ってくるから」

そう言いながら、二人の背を前方に押した。
すると今度は、「はぁいっ!」と元気良く返事をして、弾かれたようにリビングへ向けて走り出す。

その、競うように駆けていく二人を見送りながら。
ちらりと横に目線を送り、傍らに立つヨメさんに問いかけた。

「………何で俺、狼?」
「え?」

きょとんとした顔で、彼女は俺を振り仰いで。

「特に意味はないけど………」
「そうなんだ?」
「うん…ただ……一護君、猫って感じじゃないし、犬ともちょっと違うかなぁって」
「ふぅん………?」

頷いて。
にやり……と、人の悪い笑みを浮かべた俺に、ヨメさんが僅かに怯んだ。

「………一護、くん?」

じりっと後ずさりかけた彼女の腰に手を回し、引き寄せて。
耳元で、囁く。

「明日……俺、非番なんだよなー……」
「うん…知ってる……け、ど?」
「だから、少しくらい寝坊しても、全然問題無いわけで」
「………そう…だ、ねぇ??」
「と、言うことで」
「………………と、言うことで???」
「ご希望どおり、今夜はずっと狼のままでいてやるから………覚悟しとけよ?」
「えっ?! ええええっ?!」

がばっと俺を振り仰いだ彼女が、茹で蛸のように真っ赤になっている事に、俺の意図がほぼ正確に伝わったことを確信する。

「わっ私、別にっ、ごごごご希望なんて…し、ししししてないしっ?!」

慌てて、じたばたと俺の腕の中でもがくヨメさん。
そんな彼女が、可愛いくて。

更なる意地悪を思いついた俺は、「あ、そ」と言いながら、あっさり彼女を解放した。

「……っ?!」

少し拍子抜けしたような表情で、俺を見上げるヨメさん。
それには気づかない振りをしながら、かしかしと後頭部を掻いて。

「じゃあ、今日は久しぶりにあいつらと一緒に風呂入って、さっさと寝るかな」

そう言って、くわっとわざとらしく欠伸をしてみせる。

薄目を開けて、ちろりとヨメさんの様子を伺えば。
怒ったような、困ったような……そして、どこか泣き出してしまいそうな。
そんな複雑な表情で、僅かに上目遣いに俺を見ていた。

ちくり……と。
ほんの微かに、罪悪感。
だけど…そんな表情をしてくれる……ってことは、さ?
夫としても、男としても……やっぱり嬉しいわけで。


「………嘘だ、よ」

笑いながら。
もう一度、たおやかな肢体を引き寄せて、腕の中に閉じこめる。

「あいつら寝たら、な?」
耳元で囁けば、尚も居心地悪そうに身じろぎをして。

「……だから、私…別に………」
何やらごにょごにょと抗議の声を上げるヨメさん。

「意地っ張り」

ぽんぽん……と。
子供をあやすように背を叩き、胡桃色の髪に頬をすり寄せる。

「最近、俺……ずっと帰り遅かったし、休日出勤多かったしな………」
「…………」
「ごめん……な?」
「…………」
「ま……だから、今夜は……さ?」

細い肩に、手を置いて。
僅かに彼女の身体を俺から離すと、少し屈んで薄茶の瞳を覗き込む。
にっ………と、口の端を吊りあげて。

「黙って俺に、喰われとけ」

言い終わるなり、彼女の耳をかぶりと噛む。
ひゃっ……と、首を竦めたヨメさんを、もう一度だけ強く強く抱きしめて。

「じゃ、俺…着替えてくっから」

そう言って彼女から離れ、くるりと踵を返した。
その俺の、背中に向かって。

「い、いいいい一護君の、どすけべっ!」

どもるばかりで迫力のかけらもない怒声をぶつけてくる、ヨメさん。

振り返り、べぇっ……と舌を出してみせたら。
彼女は面食らったような顔で、俺を見返して。
「……………ん、もうっ!!」と、小さく呟きながら俯いてしまった。
髪の間から覗く耳が、それこそ苺のように紅い。

思わず吹き出しながら、洗面所へと廊下を曲がる。




俺が買ってきた、本日限定南瓜提灯型容器に入った、橙色のプリン。
箱の中に納めてられているのは、三個だけ。

甘ったるい菓子が苦手な俺は、自分の分を買わずに済ませてしまった。



だけど………。











プリンを食べた子供達が、夢の世界へと旅立ったその後は………。




万聖節、前夜。
猫耳の似合う彼女、と。

この世の何より、甘い甘いひとときを…………。












終

ハロウィンに間に合わず、翌日一日限りで公開していたものを、若干加筆修正の上、再掲。
再掲を希望してくださった皆様に、心からお礼申し上げます。
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