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【夕焼け空の下、家路を急ぐ】
(2020.05.10)
カーネーションを模ったクリームで飾られたケーキを、たくさんの子供達に手渡して。
そのときの、キラキラした笑顔を思い浮かべながら、心地よい疲労感と共に家路につく。
私自身の子供時代に、母の日の思い出はない。
父の日ならせめて、お兄ちゃんにティッシュで作った白薔薇をプレゼントした思い出などがあるのだけれど。
「思い出なら、これからたくさん作っていけばいい」
そう、ぼそり…と一護くんが呟いたのは、5年前の母の日のこと。
一勇を産んだばかりで、3時間おきの授乳で寝不足フラフラだったその日、ちょっと出てくる…と出かけて行った一護くんは、掌にすっぽりおさまるようなミニブーケを手に戻ってきた。
そして私の腕から一勇をそっと取り上げると、小さな一勇の手に自分の手を添えるようにして、私にブーケを差し出したのだ。
「お母さん、ありがとう……だって、さ」
照れくささを堪えていたのか、眉間にいつもより多目の縦皺を刻んで、でも顔はほんのり赤い一護くんの仏頂面と。
まだよく見えていないはずの目をキョトンと見開いている、一勇と。
二人の表情の落差が、おかしくて。
一護くんの心遣いが、嬉しくて。
私は泣き笑いで、ブーケを受け取ったのだった。
……早いもので、あのときはまだ首も据わらず、くてくてとしていた一勇も、もう5歳。
おっとりした見た目に反して、好奇心が強くて怖いもの知らずで、子守を買って出てくれる六花たちを振り回しながら、日々元気に育ってくれている。
手先も器用なようで、金曜日に保育園から持ち帰った折り紙製のカーネーションは、クラスでも1、2を争う出来栄えなのだと、連絡ノートに先生のお褒めの言葉が書いてあった。
クラスで最も月齢が高いせいもあるのだろう…と思いつつも、我が子が褒められるのはやっぱり嬉しいものだ。
今日は今日とて、黒崎の家で遊子ちゃんとケーキを作ってくれたらしい。
相手をしてくれた遊子ちゃんにも、途中経過の写真を何枚も送ってくれた一護くんにも、本当に感謝だ。
国道を横切るための、少し長めの信号待ち。
携帯を取り出し、ほっぺたにクリームをつけて満面の笑みを浮かべている一勇の写真を眺めていたら、ポコペン!と着信音が鳴った。
「迎えに行こうか?」との一護君からのメッセージに、「もうすぐ着くから、大丈夫」と返して、鞄に携帯をしまう。
信号が青になり、動き出した人の波に合わせて、私もまた道路に足を踏み出した。
目線を少し上に向ければ、そこに広がるのは、愛しい夫と我が子の髪色に似た、美しい夕焼け空。
知らず微笑みを浮かべながら、いつしか私は小走りになっていた。
終